柊さんから「話したいことがある」と言われた夜。彼が予約してくれた、馴染みのイタリアンレストランの個室で、向かい合って座っていた柊さんの開口一番は、全く予想もしていない言葉だった。「進行中のプロジェクトだが、来期から柚葉さんをメイン統括として指名したいと思っている」「……え?」身構えていた私は、拍子抜けしてしまって間抜けた声を漏らした。冷えていた指先から急に力が抜け、グラスを持つ手が小さく震える。柊さんは静かに私の顔を見つめ、それからわずかに眉を下げた。「顔色が悪いですね。最近、根詰めすぎているんじゃないかと思って、少し気になっていた」「あ……いえ、大丈夫です。少し、緊張していただけで」「そうですか。だが、無理はしないでくれ。君の仕事への姿勢は誰よりも評価しているし、だからこそ次の案件も君に任せたい。──断る理由がなければ、受けてもらえるだろうか」「……はい。喜んで、お受けします」それ以上、何も言えなかった。告げられたのは、問い詰めでも過去の暴露でもない。プランナーとしての私の実績を心から認めてくれているという、どこまでも真っ直ぐな信頼と気遣いだった。こんなに……私を信じてくれているのに。安堵と、まだ言えていないことへの重さが、同時に押し寄せた。結局私は、何一つ言えないまま、その夜を終えてしまった。柊さんに五年前のことを話す機会を、もう先延ばしにはできないのに。柊さんとの間には、葵に話した時みたいに餃子を包む口実もなければ、手を動かしながら言葉をこぼせる場面もない。向き合って、真っ直ぐ言うしかない。それが、一番怖かった。◇約束の土曜日。私が指定した場所は、駅から少し離れたホテルのラウンジだった。葵に言われた通り、人目のある窓際の席を選んだ。通行人からも店員からも見える位置。ラウンジの入り口で、一度だけ深く息を吸った。負けない、とは思わなかった。ただ、逃げない。それだけを、心の中で繰り返
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