コラボ撮影は思った以上に順調だった。というより、隣にいる神崎蒼という男が予想外だった。撮影中も、「働きたくないな〜」「帰りたいな〜」「ゲームしたいな〜」などと好き勝手なことばかり言っている。スタッフも呆れていた。それなのに、不思議と場の空気は悪くならない。むしろ視聴者受けしそうな天然キャラだった。休憩時間になり、ひまりは控室でペットボトルの水を飲んだ。すると、「あ」蒼がテーブルの端を見つめる。ひまりは嫌な予感がした。そこには昨夜描いていたスケッチブックが置かれていた。慌てて手を伸ばす。だが一歩遅かった。蒼がスケッチブックを開いてしまう。「見ないでください!」ひまりは思わず叫んだ。しかし蒼は真剣な表情のままページを見ている。「……これ」一枚目は女性アイドルのイラスト。二枚目は街並みの風景画。三枚目は少年の横顔。どれも写真と見間違うほど繊細だった。「君が描いたの?」「そうですけど」「本当に?」「だからそうだって言ってるじゃないですか」ひまりは顔を赤くする。絵を見られるのは苦手だった。演技は見られる仕事だったのに、絵だけは違う。誰にも見せたことがない。秘密の世界だった。蒼はさらにページをめくる。幼い頃の落書き。学校帰りに描いた風景。仕事の待ち時間に描いた俳優たち。十年以上積み重ねてきた時間がそこにあった。やがて蒼は静かにスケッチブックを閉じた。「すごいな」「え?」「本気ですごい」ひまりは目を瞬かせた。褒められると思っていなかった。「お世辞なら結構です」「お世辞じゃない」蒼は即答した。その声には迷いがなかった。「少なくとも俺は、こんな絵を描ける人を知らない」ひまりは思わず視線を逸らした。嬉しいはずなのに、素直に受け取れない。今まで何度も否定されてきたからだ。「でも仕事にはなりませんよ」ぽつりと呟く。「どうして?」「絵で食べていける人なんて一握りですから」そう。ずっと言われ続けてきた。子役時代。撮影現場で落書きをしていた時も。事務所で絵を描いていた時も。『そんな暇があったら台本を覚えろ』『絵なんか仕事にならない』『将来の役に立たない』『時間の無駄だ』誰も絵を褒めてくれなかった。だから趣味として続けるしかなかった。蒼はそんなひまりを見つめ
Last Updated : 2026-06-21 Read more