All Chapters of クズ事務所に捨てられた元子役Vtuberですが、最古参のニートが石油王でした: Chapter 1 - Chapter 4

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第二話 「君、この絵を自分で描いたの?」

コラボ撮影は思った以上に順調だった。というより、隣にいる神崎蒼という男が予想外だった。撮影中も、「働きたくないな〜」「帰りたいな〜」「ゲームしたいな〜」などと好き勝手なことばかり言っている。スタッフも呆れていた。それなのに、不思議と場の空気は悪くならない。むしろ視聴者受けしそうな天然キャラだった。休憩時間になり、ひまりは控室でペットボトルの水を飲んだ。すると、「あ」蒼がテーブルの端を見つめる。ひまりは嫌な予感がした。そこには昨夜描いていたスケッチブックが置かれていた。慌てて手を伸ばす。だが一歩遅かった。蒼がスケッチブックを開いてしまう。「見ないでください!」ひまりは思わず叫んだ。しかし蒼は真剣な表情のままページを見ている。「……これ」一枚目は女性アイドルのイラスト。二枚目は街並みの風景画。三枚目は少年の横顔。どれも写真と見間違うほど繊細だった。「君が描いたの?」「そうですけど」「本当に?」「だからそうだって言ってるじゃないですか」ひまりは顔を赤くする。絵を見られるのは苦手だった。演技は見られる仕事だったのに、絵だけは違う。誰にも見せたことがない。秘密の世界だった。蒼はさらにページをめくる。幼い頃の落書き。学校帰りに描いた風景。仕事の待ち時間に描いた俳優たち。十年以上積み重ねてきた時間がそこにあった。やがて蒼は静かにスケッチブックを閉じた。「すごいな」「え?」「本気ですごい」ひまりは目を瞬かせた。褒められると思っていなかった。「お世辞なら結構です」「お世辞じゃない」蒼は即答した。その声には迷いがなかった。「少なくとも俺は、こんな絵を描ける人を知らない」ひまりは思わず視線を逸らした。嬉しいはずなのに、素直に受け取れない。今まで何度も否定されてきたからだ。「でも仕事にはなりませんよ」ぽつりと呟く。「どうして?」「絵で食べていける人なんて一握りですから」そう。ずっと言われ続けてきた。子役時代。撮影現場で落書きをしていた時も。事務所で絵を描いていた時も。『そんな暇があったら台本を覚えろ』『絵なんか仕事にならない』『将来の役に立たない』『時間の無駄だ』誰も絵を褒めてくれなかった。だから趣味として続けるしかなかった。蒼はそんなひまりを見つめ
last updateLast Updated : 2026-06-21
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第三話 「オワコンじゃない。君は天才だ」

『イラスト制作についてご相談があります』スマホの画面を見つめたまま、相沢ひまりは固まっていた。何かの間違いではないだろうか。差出人は誰もが知る有名企業の公式アカウントだった。フォロワー数は百万人以上。名前を聞けば、子どもからお年寄りまで知っている大企業である。「……え?」思わず声が漏れる。もう一度画面を見る。だが何度見ても内容は変わらない。『弊社の新規プロジェクトにて、イラスト制作をご依頼できないかと思い、ご連絡いたしました』本物だ。ひまりは慌ててスマホを置いた。いやいやいや。無理無理無理。自分の絵を知っている人なんていない。SNSにも投稿したことがない。仕事として描いたこともない。どう考えてもおかしい。「……ドッキリ?」そう呟いてみる。だが公式認証マークも付いている。偽物ではない。頭を抱えていると、再びスマホが震えた。今度はメッセージアプリだった。送り主は――神崎蒼。『起きてる?』「……何でこのタイミング?」ひまりは恐る恐る返信した。『起きてます』するとすぐに既読が付く。『じゃあ、今から電話していい?』『えっ』返事をする前に着信が鳴った。早い。早すぎる。慌てて通話ボタンを押す。「も、もしもし?」『こんばんは』のんびりした声だった。いつもの蒼だ。ひまりは少しだけ安心した。「どうしたんですか?」『DM来た?』「……え?」ひまりは目を見開く。『有名企業からイラストの依頼』「何で知ってるんですか!?」数秒の沈黙。そして。『俺が紹介したから』「…………はい?」思考が止まった。「え?」『だから、俺が紹介した』「えええええっ!?」思わず立ち上がる。「な、何してるんですか!」『何って、紹介』「何で!?」『君の絵がすごいから』あまりにも当然のように言われた。ひまりは頭を抱える。「いやいやいや! 意味分かりません!」『分からなくていいよ』「よくないです!」蒼が小さく笑った。『でも、あの絵は誰かに見せるべきだと思った』ひまりは言葉に詰まった。『もったいないよ』優しい声だった。責めるでもなく、押し付けるでもない。ただ、当たり前のことを言うように。『君、自分の絵を低く見積もりすぎ』「……そんなこと」『ある』即答だった。『少なくとも俺は、
last updateLast Updated : 2026-06-21
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第四話「私、本当に描いていいの……?」

翌朝。相沢ひまりは、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。テーブルの上にはスマホ。画面には、有名企業から届いたDMが表示されている。『イラスト制作についてご相談があります』何度見ても消えない。夢ではないらしい。「……どうしよう。」ひまりは頭を抱えた。依頼を受ける。そのたった一歩が、とてつもなく怖かった。もし期待外れだったら。もし「こんなものか」と思われたら。もし自分に本当は才能なんてなかったら。そう考えるだけで胃が痛くなる。すると、スマホが震えた。『働きたくないな〜』神崎蒼からだった。思わず吹き出す。朝から第一声がそれなのか。『おはようございます、ニートさん』送る。数秒後。『まだニートじゃない』『じゃあ何なんですか?』『働きたくない人』『同じです』『ひどい』ひまりは少しだけ笑った。昨日まで、こんなふうに自然と笑えなかった気がする。すると、再びメッセージが届く。『で、依頼は受ける?』笑顔が消える。指が止まった。『まだ迷ってます』『そっか』『……怖いんです』正直に打ち込む。すぐに返信が来た。『じゃあ、今から会おう』『え?』『話したい』『でも……』『大丈夫』それだけだった。不思議だった。その三文字だけで、少し安心する自分がいる。一時間後。ひまりは駅前のカフェにいた。窓際の席。そこへ蒼がやってくる。今日もラフな格好だった。黒いパーカーにジーンズ。やっぱりニートっぽい。「おはようございます。」「おはよう。」蒼は席に座るなり言った。「眠れてないでしょ。」「……何で分かるんですか。」「目の下。」ひまりは慌てて目元を触る。蒼が小さく笑った。「分かりやすい。」何だか悔しい。「それで?」蒼が真面目な顔になる。「どうしたい?」「え?」「受けたい? 受けたくない?」ひまりは俯いた。答えは決まっている。「……受けたいです。」小さな声だった。「うん。」「でも、怖いです。」「うん。」「失敗したらどうしようって。」蒼は少し考えてから言った。「失敗したら、また描けばいい。」「え?」「一回駄目だったくらいで終わりじゃない。」当たり前のように言う。「でも……。」「相沢さん。」蒼が真っ直ぐこちらを見る。「君、自分に厳しすぎ。」ドキリとした。
last updateLast Updated : 2026-06-26
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