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クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした
クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした
Auteur: 辻野幸枝

第一話 「オワコン元子役とニート御曹司?!」

Auteur: 辻野幸枝
last update Date de publication: 2026-06-15 11:22:28

「契約は終了だ」

その一言で、相沢ひまりの人生は大きく動き始めた。

だが、その数日前までは、彼女自身もまだ、自分の未来が大きく変わるなど想像もしていなかった。

***

東京都内の動画スタジオ。

「はい、今日は元子役あるあるをやっていきまーす!」

カメラに向かって笑顔を作るのは、YouTuberの相沢ひまり。

かつて国民的人気子役として活躍した彼女も、今は二十四歳。

登録者数は三十万人。

決して少なくない。

だが伸び悩んでいた。

撮影終了後。

ひまりはスマホを開き、コメント欄を見る。

『また昔話?』

『元子役って肩書しかないじゃん』

『オワコン』

『再生数落ちてて草』

「……はぁ」

思わずため息が漏れる。

慣れているはずだった。

それでも傷つかないわけではない。

かつては違った。

「ひまりちゃん、かわいい!」

「天才子役だ!」

「将来は絶対に大女優になるぞ!」

幼い頃のひまりは、テレビ局へ行けば誰もが笑顔で迎えてくれた。

CM、ドラマ、バラエティ。

毎日のように仕事があり、街を歩けば声を掛けられた。

サインを求められたこともある。

だが成長とともに仕事は減った。

子供だから求められていたものは、大人になれば通用しない。

気付けば「人気子役」ではなく、「元子役」になっていた。

そして今では。

『オワコン』

たった四文字で片付けられてしまう。

スマホを閉じたひまりは、小さく唇を噛んだ。

事務所へ戻ると、マネージャーが神妙な顔をしていた。

「ひまりさん、社長がお呼びです」

嫌な予感がした。

案の定だった。

社長は資料を机に置きながら言う。

「相沢くん。正直に言う」

「はい」

「君との契約を更新しない」

ひまりの顔が固まる。

「え……?」

「最近の数字を見れば分かるだろう?」

淡々と告げられる。

「うちは利益を出さなければならない。君はもう旬を過ぎた」

旬を過ぎた。

その一言が胸に突き刺さった。

***

一方その頃。

 「働きたくない、働きたくない、働きたくないな〜……」

ソファに寝転がった男が、だらしなく天井を見上げながら呟く。

ボサボサの黒髪。

ジャージ姿。

テーブルにはコンビニ弁当の空容器。

どう見てもニートだった。

だが、その男――神崎蒼が、日本有数の財閥の御曹司であることを知る者は誰もいない。

***

収録を終えたひまりが事務所を出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。

夜。さらに追い打ちが来る。

交際中の俳優・桐谷優斗に呼び出された。

高級レストラン。

そこで彼はワインを口にしながら言った。

「別れよう」

ひまりは言葉を失った。

「どうして?」

「俺、今度ゴールデン帯のドラマ決まったんだ」

「本当? おめでとう」

心から祝福した。

だが優斗は笑わなかった。

「だからこそ足を引っ張られたくない」

「……え?」

「SNS見たことある?」

「あるけど」

「君、結構叩かれてるよな」

胸が冷たくなる。

「それが何?」

「俺、これから売れるんだ」

優斗はため息をついた。

「オワコンYouTuberと付き合ってるって知られたらイメージ悪いだろ」

ひまりは何も言えなかった。

この人はもう恋人ではない。

自分自身のことしか見ていない。

「だから私は邪魔なの?」

「そういうことだ」

優斗は席を立った。

「ごめんな」

謝罪の言葉だけを残して。

帰宅後。

ひまりは机に向かった。

涙が止まらない。

悔しい。

悔しい。

悔しい。

子役時代から必死だった。

誰よりも努力してきた。

それなのに最後に残ったのは、

『オワコン』

という四文字だけ。

引き出しを開く。

そこには何冊ものスケッチブック。

誰にも見せたことのない宝物だった。

演技よりも。

動画編集よりも。

本当に好きだったもの。

それが絵だった。

ひまりは無意識にペンを走らせる。

少女の横顔。

夜空。

花。

優しい色彩。

気付けば何時間も描いていた。

そして完成した一枚を、なんとなくスマホで撮る。

「……どうせ誰も見ないよね」

そう呟きながら、サブアカウントへ投稿した。

アカウント名は、

『ひま@お絵描き練習中』

フォロワーはたった一人。

名前は、

『Aoi』

投稿から数秒。

通知が鳴る。

「今回も好き。」

たった五文字。

それだけだった。

でも、その一言だけで少し救われた。

「いつも一番に反応してくれるなぁ……」

誰なのかも知らない。

年齢も性別も知らない。

ただ、絵だけは毎回褒めてくれる。

唯一の最古参だった。

翌日。

事務所最後の仕事。

企画名は、

『底辺YouTuberコラボ企画』

「最後にこれか……」

スタッフが説明する。

「相手は無職系配信者ですね。」

「無職?」

「働きたくないが口癖らしいです。」

なんだその人。

そう思った瞬間。

スタジオの扉が開く。

「働きたくない、働きたくない、働きたくないな〜……」

「あ、ダメだこの人」

思わず吹き出す。

「何なんですか、その挨拶!」

青年は少し笑った。

「初めまして。神崎蒼です」

「相沢ひまりです」

視線が交わる。

その瞬間。

ひまりはまだ知らなかった。

目の前の男が、日本有数の財閥の御曹司であることも。

そして昨夜、

『今回も好き。』

とコメントを書いた、

たった一人の最古参ファンだったことも――。

第一話 完

次回「君、この絵を自分で描いたの?」

神崎蒼だけが、ひまりの秘めた才能に気付き始める――。

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  • クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした   第四十八話「夢だった景色」

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  • クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした   第四十四話「おかえり!」

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    朝。今日も柔らかな陽射しが窓から差し込み、部屋の中を優しく照らしていた。相沢ひまりは、ゆっくりと目を覚ます。ここ数日続いていた胸の重苦しさは、少しだけ軽くなっていた。昨日、公園で神崎蒼から言われた言葉が何度も頭に浮かぶ。「休むのも仕事」その一言に救われた気がした。とはいえ、机の上にあるペンタブレットを見ると、まだ胸が少しだけ締めつけられる。「今日は……描かなくてもいい」自分にそう言い聞かせ、部屋を出た。***昼前。ひまりは近所のスーパーへ買い物に出かけた。牛乳やパンを買い、帰ろうとした時だった。近くの小さな公園から、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。自然と足が止まった。「少しだけ……」そう呟き、公園へ入る。休日ということもあり、多くの親子が遊んでいた。鬼ごっこをする子。砂場で山を作る子。ベンチでは、お母さん同士が楽しそうに話している。ひまりは少し離れたベンチへ腰を下ろした。その時だった。「できたー!」元気な声が響く。五歳くらいの男の子が、大きな画用紙を高く掲げていた。近くにいた保育士らしき女性が笑顔で尋ねる。「何を描いたの?」「ぼく!」得意げに見せる絵には、大きな丸い顔。体は棒のような一本線。腕も足も長さが違う。空には紫色の太陽。木には赤い葉っぱ。犬は水色だった。ひまりは思わず見つめる。「すごいね!」保育士が笑う。「どうして太陽が紫なの?」男の子は胸を張った。「好きだから!」「犬はどうして水色なの?」「かっこいいから!」「木が赤いのは?」「きれいだから!」どの答えにも迷いがない。周りの子どもたちも次々と画用紙を見せ始める。「わたしは虹をいっぱい描いた!」「ぼくは恐竜!」「これはママ!」どの絵も自由だった。上手い下手なんて誰も気にしていない。ただ、描きたいものを思いきり描いている。ひまりは、その光景から目が離せなかった。「……そうだった」小さく呟く。子どもの頃。自分もそうだった。空をピンクに塗ったことがある。猫に羽を描いたこともある。先生に「自由に描いていいよ」と言われるだけで、胸が躍った。誰かに評価されるためじゃない。賞を取るためでもない。ただ、描くことが楽しかった。「私……」いつから忘れてしまったんだろう。ーーー帰宅したひまりは

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