朝の光が、カーテン越しに柔らかく差し込んでいた。喫茶店の窓際で、相沢ひまりはスマホの通知を見たまま固まっていた。神崎蒼は、いつものようにコーヒーを飲みながらそれを見ていた。相沢ひまりは、スマホの通知を見たまま固まっていた。「……え?」画面には一通のメール。【絵本作家・朝霧つむぎ先生とのオンライン対談企画について】「……朝霧、つむぎ先生……?」声が小さく漏れる。それは、ひまりが子どもの頃からずっと読んできた絵本作家だった。優しい色彩。静かな物語。誰かの心をそっと包むような絵。子役時代、仕事に疲れて帰っても、唯一安心できた世界。その作者と――対談。「む、無理でしょこれ……」思わずスマホを机に置く。その瞬間。「何が無理なんですか?」向かい側から声がした。神崎蒼だった。いつものように、何も考えていないような顔でコーヒーを飲んでいる。「朝霧つむぎ先生と……対談です……」「うん」「うん、じゃないです!」ひまりは机を叩きそうになる。「私、まだ全然ですし……! あんな人と話すなんて……!」蒼は少しだけ視線を上げた。「好きなんだ?」「……はい」即答だった。「ずっと憧れてました」「じゃあ、いいじゃん」「よくないです!」ひまりは身を乗り出す。「憧れって、遠いから憧れなんです! 近づいたら壊れます!」蒼は一瞬だけ黙った。そして静かに言う。「壊れないよ」「え?」「本物は、近づいても壊れない」その言葉に、ひまりは少しだけ言葉を失った。***対談当日。白い壁のオンラインスタジオ。画面の向こう側に、ひとりの女性が映っていた。柔らかな笑顔。落ち着いた雰囲気。それだけで空気が変わるような存在感。朝霧つむぎ。「はじめまして、相沢ひまりさん」「は、はじめまして……!」声が裏返る。コメント欄が流れる。『緊張してるw』『かわいい』『大丈夫かこれ』ひまりは手汗でマウスを握りしめていた。蒼は別の場所で配信画面を見ていた。コーヒーを飲みながら、小さく呟く。「……大丈夫」***対談は静かに始まった。最初は作品の話。絵本の制作過程。色彩の選び方。子どもへの思い。ひまりは必死に答えていた。「わ、私は……まだ全然未熟で……」そう言いかけたときだった。朝霧つむぎが、少しだけ笑った。
Última actualización : 2026-07-23 Leer más