平日の灯火書房で、瑠衣は資料を整理していた。届いた原稿を確認し、一覧表へチェックを入れる。紙を揃えて端を机に軽く打ちつけると、ずれた一枚があった。瑠衣はそれを抜き出し、正しい位置へ戻した。 手を止めたとき、先週の書庫が浮かんだ。本棚の前に立つ灯。何冊も手に取っては戻していたこと。最後に持っていた古い本と、その表紙を撫でた指先。「まだ読む気になれないので」 その言葉が浮かぶ。 瑠衣は画面へ視線を戻した。未確認の資料を一つ開き、日付を確認する。入力欄へ必要な数字を打ち込み、保存する。仕事をしていれば、考えずに済む。瑠衣は次の資料へ手を伸ばした。 土曜日、灯はいつもの時間に来た。玄関で挨拶を交わし、二人分の湯を用意する。灯は本を一冊持っていて、いつもの席へ座った。 昼食を終え、食器を片づけたあとも、二人はそれぞれ本を読んでいた。瑠衣は何度かページをめくった。けれど、先週見た本棚が頭の片隅に残っている。 向かいを見る。灯は本を読んでいる。瑠衣は一度本を閉じた。表紙に手を置き、指先で角を押さえる。それから灯を見る。「先週の本なんですが」「はい」 灯が本から顔を上げる。「私が読んでもいいですか?」 灯の指がページの上で止まった。「……どうして?」「読んでみたくて」 灯は瑠衣を見たまま、すぐには返事をしなかった。視線が一度だけ書庫のほうへ向く。瑠衣もその先を見た。先週の本が置かれている棚は、ここからは見えない。「それだけですか?」 瑠衣は少しだけ目を伏せた。答えを探すように唇を閉じる。それから、灯を見る。「……はい」 灯は何も言わなかった。瑠衣も続けなかった。しばらくして、灯が椅子から立ち上がった。 書庫へ向かう足音が廊下の奥へ消える。瑠衣はその場で待った。少しして灯が戻ってくる。手には一冊の本があった。 灯は瑠衣の前まで来ると、すぐには渡さなかった。本を両手で持ったまま、表紙を見ている。親指が端に触れ、そこからゆっくり離れた。 瑠衣も黙って本を見る。
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