Alle Kapitel von 結婚式当日、妹と寝た婚約者を退け、叔父の妻となる: Kapitel 141 – Kapitel 143

143 Kapitel

141話「言った方がいいんじゃない」

 午前中の灯火書房では複合機が紙を送り出す音とキーボードを叩く音が交互に聞こえていた。瑠衣は届いた資料を机の上に広げて日付と管理番号を確かめながら分類していく。古いものは左へ、確認の必要なものは手前へ。付箋の色を分けて一覧表に印をつけると次の束に手を伸ばした。数字をひとつ見落としていたことに気づき、さっき確認したページへ戻る。該当箇所に印をつけ直し、隣の資料と照合してからファイルへ収めた。  少し離れた机では藤堂朱音が書類を確認していた。眼鏡をかけ直し、赤ペンで一箇所に線を引いてから隣のページへ移る。ときおり電話が鳴り誰かが短く返事をする。瑠衣も内線を取り、担当者に確認を済ませると聞き取った内容を資料の余白に書き留めた。確認事項をメールで送信し、返ってきた返信に目を通す。藤堂が席を立って棚からファイルを取り出すときも、瑠衣は手元の仕事を続けていた。窓から差す光は机の端まで届いていたが、紙を読むのに邪魔になるほどではない。いつも通りの午前中だった。  昼休みになり、瑠衣は最後の資料をファイルに収めた。机の上を片づけてから弁当を持ち、休憩スペースへ向かう。藤堂は先に来ていて、飲み物を机に置きスマートフォンを伏せたところだった。瑠衣が隣の椅子に腰を下ろして弁当の蓋を開けると、藤堂も包みをほどいた。二人とも最初は何も話さず、箸を動かしていた。瑠衣は朝のうちに確認した資料のことを思い出し、午後にもう一度見直そうと頭の中で予定を組み直す。 「ちょっといい?」 「はい」  藤堂は箸を持ったまま瑠衣の方へ顔を向けた。仕事の確認かと思い、瑠衣も食べる手を止めて向き直る。 「社長のこと、好きでしょ」  瑠衣の手が止まった。箸の先が弁当箱の縁に触れたまま動かない。顔を上げるまでに、ほんの少し間があった。藤堂の表情には、質問への答えを待つ人の探るような様子がない。思いついたことを口にしたというより、ずっと知っていたことを確かめる必要もなく伝えたような顔だった。 「……なんで」 「なんとなく」  藤堂はそれ以上続けず、卵焼きをひと口食べた。瑠衣も箸を動かそうとしたが、つかんだブロッコリーを一度弁当箱に戻してしまう。藤堂は急かす様子もなくお茶を飲んでいる。いつもなら仕事の話をひとつふたつ交
Mehr lesen

142話「おめでとうの後で」

 翌日も灯火書房の午前中はいつも通りに始まった。瑠衣は届いた資料を受け取り、日付を確認してから管理番号順に並べていく。確認済みのものには印をつけ、差し戻しが必要な書類は別のファイルへ移した。昨日の午後に使った一覧表を開き、残っている項目をひとつずつ確かめる。ペン先が止まったところで、瑠衣は机の端に置いていたメモを手に取った。 おめでとう。 そこに書いてあるわけではない。藤堂から渡されたものも、何かに記された文字もない。それでも資料をめくる手がわずかに止まると、休憩スペースで聞いた声が浮かんだ。あのとき藤堂は笑っていた。いつもと変わらない調子で立ち上がり、カップを返却口に置いて仕事へ戻った。 何に対してのおめでとうだったのか。灯に気持ちを伝えたことなのか。それとも、その先にある何かまで含んでいたのか。考えようとしても、ひとつの答えに収まらない。瑠衣はメモを元の位置へ戻し、資料の端を揃えた。ずれた紙を一枚ずつ直してからファイルを閉じ、次の束を机に置く。まだ確認していない数字がいくつも並んでいた。 午後になると、瑠衣は保管棚から古い資料を取り出していた。背表紙の番号を照合していると、藤堂が隣の通路を通りかかった。片手に書類を持ち、別の棚へ向かうところだった。藤堂は足を止めずに資料を棚へ収め、背表紙を指で押して位置を整えた。瑠衣も手元のファイルを戻し、一覧表へ確認済みの印をつける。 ふと顔を上げたとき、藤堂と目が合った。 藤堂は少し頷いた。 瑠衣も小さく頭を下げた。藤堂はそのまま通路を抜けていき、瑠衣は棚から次の資料を取り出した。背表紙の番号を確かめ、ファイルを開く。紙の間に挟まっていた付箋が一枚めくれていたので、指先で押さえて元に戻した。 その日の仕事が終わる頃には、机の上に広げていた資料もほとんど片づいていた。瑠衣は最後のファイルを棚に戻し、一覧表の該当箇所に印をつける。ペンを置いてから、明日確認する書類を机の左側へまとめた。藤堂とはその後も何度か近くですれ違ったが、仕事以外の話はしなかった。 土曜日の朝、瑠衣はいつものように二人分のお茶を用意した。湯呑みをテーブルに置き、読みかけの本を手元へ寄せる。窓の外では風に揺れた枝が細かく動いていた。時計を見てから玄
Mehr lesen

143話「古本市」

 土曜日の午前中。瑠衣はテーブルの上を片づけていた。読みかけの本を閉じて栞を挟み、湯呑みを二つ並べる。今日はいつもより少し早く来ると聞いていたので、時計を確認する回数が普段より増えていた。玄関の方で物音がするたびに手を止めかけ、結局は布巾を畳み直したり、本の位置を整えたりして時間を過ごす。 チャイムが鳴ったのは、いつもの土曜日より少し早い時刻だった。瑠衣は玄関へ向かい、扉を開けた。「おはようございます」「おはようございます」 灯はいつもの鞄を持ち、外出用の上着を着て立っていた。挨拶を交わしてから靴を脱ぎ、揃えて端へ寄せる。瑠衣が部屋へ案内すると、灯はテーブルに目を向けた。湯呑みは用意してあったが、今日はその前に出かけることになっている。 いつもと違う時間に、いつもの人が立っている。 瑠衣は上着を取りに行き、鞄の中に財布と携帯電話が入っているか確かめた。玄関に戻ると、灯も靴を履くところだった。瑠衣は鍵を手に取って扉を閉め、二人で外へ出た。 朝の空気は少し冷たく、日差しは明るかった。道沿いの店は開いたばかりのところもあり、シャッターを上げる音が聞こえる。灯は道を確かめるように前を見ながら歩き、瑠衣より半歩ほど先にいた。普段は部屋の中で向かい合って本を読むことが多い。外に出ると、灯の歩く速さや信号の前で足を止めるタイミングまで目に入った。「遠いですか?」「いえ、すぐそこです」 灯は振り返って答えると、また前を向いた。瑠衣は歩幅を少し合わせる。横断歩道を渡り、角を曲がると人通りが少しずつ増えてきた。案内の看板が出ていて、その先に小さな広場が見える。テントがいくつも並び、机の上には本を詰めた箱や平積みの文庫が置かれていた。 入り口の手前で灯が歩調を緩めた。瑠衣も隣に並ぶ。人の声が重なり、紙をめくる音や箱を動かす音が近くから聞こえてきた。灯は会場の中を一度見渡してから、瑠衣へ視線を戻した。「歩くのは好きですか?」 灯は尋ねる前に少しだけ歩みを緩めていた。瑠衣はその横顔を見てから頷く。「はい。嫌いではないです」 灯は前を向いたまま、わずかに口元を緩めた。「よかった」 それ以
Mehr lesen
ZURÜCK
1
...
101112131415
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status