日曜日の午後、瑠衣は昨日借りた本を開いていた。ソファに座り、膝の上でページを押さえる。読み進めるうちに、物語の中へ意識が戻っていく。けれど、ふとページをめくる手が止まった。昨日の本棚が浮かんだ。少し色の褪せた表紙と、擦れた背表紙。灯が「昔から持っています」と答えた声も残っている。 瑠衣は閉じかけた本をもう一度開いた。数ページ進んでも、さっきの本棚が頭から離れない。どんな本なのだろう。昨日は表紙を見ただけだった。中を開けば、どんな文章が並んでいるのか。それを考えているうちに、瑠衣はまたページをめくる手を止めた。テーブルの上へ本を置き、昨日見た古い本のことを思い出す。 ふと、祖父の家にあった本棚を思い出した。棚の端には古い本が並び、そのそばに祖父が使っていた筆記具が置かれていた。瑠衣は子どもの頃、祖父が本を開いて何かを書き込むところを何度か見ている。少し右へ傾く文字。最後の線だけ力が強くなる癖。見慣れていたせいか、文字を読まなくても祖父の字だと分かった。瑠衣はテーブルの本へ目を戻した。灯の本も、どこから来たものなのか知りたくなった。 窓の外では風に枝が揺れていた。瑠衣は閉じた本の表紙を指先で撫でる。それから栞を挟み、本棚へ戻した。次に灯火書房へ行ったら、あの本のことを聞いてみよう。そう決めると、瑠衣は台所へ向かった。湯を沸かしている間も、昨日の古い表紙が頭に残っていた。 月曜日の朝、灯火書房では届いた資料の整理から仕事が始まった。瑠衣は書類の日付を確認し、部署ごとに分けていく。午前の作業が一段落したところで、隣の机にいた御厨へ視線を向けた。昨日の本棚が浮かぶ。瑠衣は手元の資料を揃えてから、椅子を少し御厨のほうへ向けた。「御厨さん」「はい」「社長の本棚って、古い本も多いですよね」 御厨が手を止める。「そうですね。けっこうありますよ」「昨日、奥のほうにあった本を見たんです。表紙が少し古くなっていて」「ああ……」 御厨は本棚へ目を向けた。けれど、そこに並んでいる本を全部把握しているわけではないらしい。「社長の本は、昔から持っているものも多いと思います」「そうなんですね」
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