「口答えするようになったな」 「……今まで、返さなかっただけです」 言い終えたあと、司は机の縁を握った。 壁際の時計だけが、途切れず時を刻んでいた。 父は数秒黙り、封筒の端を指で叩いた。 「桐生の名前に泥を塗る気か」 司は封筒を見た。 「もう、ついてます」 父の視線が鋭くなる。 「見ないふりをしてきただけです」 手の内側に汗が滲んだ。三年前と同じように黙りたくなったが、机から手は離さなかった。 父はそれ以上言わず、背を向けた。 「……会議には出ろ」 扉が閉まり、時計の音だけが残った。 司は伏せていたスマートフォンをもう一度取った。 榊邸では、午後の光が書斎の床に細く伸びていた。 高瀬さんが持ってきた中間報告書は、薄いファイル一冊分だった。けれど、表紙を開く前から、重さがあるのが分かった。 「桐生司様から、任意で提供できる範囲の資料が届きました」 私は椅子に座ったまま、指先を膝の上で組んだ。 守り袋は、保全袋に入れられて机の端に置かれている。透明な袋越しに、古い布の色だけが見えた。取り戻したはずなのに、まだ遠い。 「見るかどうかは、朝霧さんが決めてください」 律がそう言った。 仮面は外していない。けれど、その声は、あの夜よりも、どこか慎重だった。 「見ます」 自分でも早い返事だった。 「見ないままにしたら、また誰かの説明だけで終わります」 高瀬さんがファイルを開く。 車両日報。通話履歴。カード決済時刻。 数字を追うほど、紙を押さえる手に力が入った。 三年前、私が泣きながら電話をかけた時、司はもう、未央を病院へ連れていったあとだったのかもしれない。 私は椅子の背へ手を伸ばした。 「……これ、変ですよね」 声が、自分でも驚くほど小さくなった。 高瀬さんが頷く。 「断定はできません。記録の時刻差、入力遅れ、現場での聞き違い。確認すべき点はあります。ただ、少なくとも、当時の説明だけで片づけていい内容じゃありません」 「未央さんの同意がないと、診療内容までは見られないんですよね」 「本人同意がなければ、正式な診療情報には踏み込めません」 当たり前のことだ。 当たり前のことが、少しだけ悔しかった。 三年前は、未央が泣いたあとに誰も私へ確認しなかった。今
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