金属製のドアノブに触れると、冷たかった。 背後から近づく車椅子の音が、廊下に低く響いた。 その冷たさで、少しだけ息が戻る。 追いかけてくる音がした。 振り返らなくても分かった。 「榊さん」 「ここで止まります」 低い声が、少し離れた場所で止まった。 本当に、止まった。 私はドアノブから手を離せなかった。 「今は、何も言わない方がいいですか」 「慰めは、たぶん聞けません」 「それでも、これだけは言わせてください」 律の声は静かだった。 「あなたがしたことじゃありません。そこまで、一人で背負わないでほしい」 口の中が熱くなる。 「そんなこと、頭では分かってます」 「……分かっていても、苦しいですよね」 「でも、琴美さんが私を抱いた時、本当は、その子を抱きたかったんだとしたら」 言葉が途切れた。 ドアノブに映る自分の指が、白くなっている。 「私が、あの家で笑ってた時間は」 続きは出なかった。 律はしばらく黙っていた。 すぐに否定してくれれば、楽だったかもしれない。 違います、あなたは悪くありません、と、きれいな声で言ってくれれば、私はそれに怒れた。 けれど律は、少し時間を置いてから言った。 「……笑ってたことまで、あの人たちのものにしなくていいんじゃないですか」 その言葉に、ドアノブを握る手が緩んだ。 「……そんなふうに言われると、何を返せばいいか分かりません」 「……返事は、いりません」 しばらく、ドアの向こうの階段を見た。 詰まっていたものが、少しだけほどけた。 私はドアに額を近づけた。触れる寸前で止める。 「私、嫌なんです」 律は問い返さず、私が続きを口にするまで待った。 「琴美さんを、かわいそうだと思ってしまうこと」 言ったあと、ドアノブを握り直した。 三年前、あの人は私を守らなかった。 未央を抱きしめ、泣いて、私から目を逸らした。 謝りたそうな顔ばかりして、最後まで私を選ばなかった。 それなのに、二十四年前に実の子を失っていたかもしれないと知ると、胸のどこかが痛む。 腹が立った。琴美さんを気の毒だと思う自分にも、同じくらい腹が立った。 「私には、あの人を気の毒に思う余裕はありません。でも、あなたがそう感じるのを、責めたくも
Read more