問いは廊下の床に落ちたまま、しばらく誰にも拾われなかった。 磨かれた床の匂いに、長く開けていない部屋の湿り気が重なっている。 箱の底に残っていた薄い紙は、古びたクリーム色に変色している。端は少し波打ち、赤い丸印だけが妙に鮮やかだった。 白桐産院。 死亡確認済。 如月家女児。 その三つの文字だけで、部屋の空気が一段沈んだ。 さっきまで父親の顔を保とうとしていた隆一さんの肩が、かすかに下がる。琴美さんは紙から目を離せず、息を吸うことすら忘れたように固まっていた。「違う」 隆一さんが、低く言った。 今度の「違う」は、私に向けたものではなかった。琴美さんに聞かせるための、慌てた否定だった。「それは、当時の医療側の記録で……正式なものじゃない。古い書類だ。何かの控えかもしれない」「何かって、何」 琴美さんが、ゆっくり顔を上げた。 長年、如月家の奥様として使ってきた柔らかい声ではなかった。薄い布を指で裂いたような、乾いた声だった。「あなた、知ってたの」 隆一さんは、視線を逸らした。「琴美、今は」「知ってたのかって聞いてるの」 彼女の手が、紙の端を押さえたまま震えている。爪の先だけが白くなっていた。 私は、その手を見ていた。 紙が震えるたび、赤い丸印の輪郭まで小さく揺れた。息を吸い直したが、胸の奥まで入らなかった。 幼い頃、発表会の前に髪を結ってくれた手だった。熱を出した夜に、濡れたタオルを額に置いた手だった。三年前、私が家を追い出される時、膝の上のハンカチを握ったまま何もしなかった手でもある。 今、その同じ指が、紙の端を押さえて震えている。 どちらかだけを嘘にできれば楽だった。できないまま、琴美さんの手が今また震えていた。 喉が渇いているのに、水を欲しいとは思わなかった。琴美さんの指だけを見ていた。「高瀬さん」 律が静かに呼んだ。 高瀬さんは紙を覗き込む位置まで近づいたが、素手では触れなかった。持っていた薄い手袋
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