九条本邸の門を出るまで、誰もほとんど口を開かなかった。 膝に置いたバッグが傾いた。持ち直そうとしても、指に余計な力が入った。 車のドアが閉まる音が、やけに近く聞こえた。外の空気は冷たいはずなのに、掌の内側だけが熱い。バッグの持ち手を握りすぎて、指の関節が少し痛んでいた。 本人が答えられる状態でもない。 康生の言葉が、耳の奥に残っている。 葛城が知っていたのは、数年前までの所在だった。療養施設にいるという情報も、まだ確かめられていない。 けれど康生は、今の葵さんの状態を知っているように言った。 本人が答えられないのか。あの人が、答えさせたくないのか。 康隆さんの震えた手を思い出す。二人は、どこまで同じことを知っているのだろう。 「朝霧さん」 隣から、律が声をかけた。 「……大丈夫です。少し、ぼんやりしていました」 そう答えたきり、言葉が続かなかった。律もすぐには何も言わず、隣でこちらの様子を見ていた。 「呼吸が浅いです」 言われて、ようやく息を深く吸った。 窓ガラスに映る顔から目を逸らし、ゆっくり吐いた。 私は息を整えながら、小さく頭を下げた。 「謝ることじゃありません」 さっき、康隆さんにも言われた言葉だった。 同じ言葉なのに、聞こえ方は違った。 私は頭を上げた。律はもうこちらを見ていなかった。窓の外へ視線を戻している。それが少し助かった。 私は窓の外を見る。 九条本邸の塀が後ろへ流れていく。高い塀。古い樹木。磨かれた門。あの内側で、二十四年もの間、自由を奪われている人がいるのかもしれない。 「榊さん」 「……どう思いましたか」 「康生さんは、嘘をつきましたか」 律は短く間を置き、それから私の方へ顔を向けた。 車の中には、エンジンの低い音と、前席で相良さんが資料ケースを閉じる音だけがあった。 「断定はできません」 「そう返されると思いました」 「では、別の言い方をします」 律は少しだけ視線を下げた。 「嘘をつく、というより……嘘になるところだけ言わない人です。順番を変える。主語をずらす。答えたように見せて、そこだけ避ける」 「つまり、面倒な人ですね」 「かなり」 相良さんが前席で小さく咳をした。 笑いそうになったのかもしれない。そんな場合ではないの
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