最初の記載を読んだところで、紙を持つ手が止まった。 口をつける気になれない水が、テーブルのグラスの中でわずかに揺れていた。 「ここに、九条葵さんの子が生きてた痕跡があるんですね」 声は、自分でも聞こえないほど低かった。 「生きて生まれた可能性を示す記録です」 高瀬さんが答える。 「断定じゃありません。ただ、死産として処理された記録と矛盾します」 矛盾。 高瀬さんはそう言った。私は死亡確認の欄へ視線を落とした。 次の紙には、死亡確認の控えがあった。 そこには、同じ日付と、九条葵の名がある。 ただ、出生時刻と死亡確認時刻の間に、不自然な空白があった。欄外に小さな訂正印が押され、確認者の署名が上からなぞられたように濃くなっている。 「この訂正印は」 私が聞くと、葛城が答えかけ、高瀬さんが先に言った。 「元看護師長の署名とされています。ただし、本人確認が必要です」 「……狭山さんが、本当に署名したのか」 「はい。そこを確かめなければなりません」 狭山という名前を、頭の中で繰り返した。 まだ会ってもいない人なのに、急に輪郭を持つ。 狭山。 二十四年前、そこにいた人。 見ていたのか。署名したのか。署名させられたのか。 どれなのかは、まだ分からない。 でも、その人が何かを知っていることだけは、もう分かった。 「次を」 高瀬さんが言う。 葛城は静かに三枚目を差し出した。 それは、看護記録の一部だった。 医療用語は多くない。むしろ、短いメモの連続だった。 母体、鎮静後安静。 児、保温継続。 識別帯確認。 九条A。 その記号に、私は目を止めた。 「九条Aとは」 「当時の識別符号です」 葛城が答える。 「九条葵さんの児を示してた可能性が高い。ただし、これも記号だけでは断定できない」 「便利な言い方ですね」 「……分かっています」 私は紙から目を離せなかった。 「これが私なら、って思ってしまいます」 高瀬さんは答えなかった。 「今すぐ、そうだと言ってほしい。でも、間違ってたら怖いです」 水のグラスへ手を伸ばしたが、指が縁に触れただけで戻った。 律の視線を感じた。 見なかった。 見たら、少しだけ声が崩れそうだった。 私は紙の上の「
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