自分の言葉が、少しずつ乱れていく。 面会許可書を持っていた手には、紙の角の感触がまだ残っていた。ファイルへ戻しても、指の力は抜けなかった。 「でも、それをやったら、また私が悪者になる。康生さんは、きっとそういう絵を待ってる」 律は、私の言葉を遮らなかった。 車椅子の上で、ただ静かにこちらを見ている。 「……嫌ですね」 私は小さく笑った。 笑い声にはならなかった。 「怒り方まで、相手に選ばされそうになるの」 律の目が、わずかに細くなる。 「だったら、きれいに直さずに、今のまま言ってください」 高瀬さんがノートを一度、こちらへ向けた。 「怒っていることも、手続きを飛ばさなかったことも、発言のまま残します。書ける範囲で」 「……本当に事務的ですね」 「よく言われます」 少しだけ息が抜けた。 私たちは榊邸へ戻った。 すぐに書斎で情報整理が始まる。療養院の受領控え、警備委託会社の通過記録、搬送会社の事業者名、KMS系列との資本関係。 机に並んだのは、どれも正式に取れた資料だけだった。薄い。腹が立つくらい薄い。私は一枚目の受領控えをもう一度めくった。 夕方になって、情報管理部の主任から追加の報告が入った。 「搬送車両のナンバー下四桁と、首都高の通過情報に一致する可能性があるデータが出ました。ただし、直接照会じゃありません。業務提携先の有料道路管理システムに残る法人車両の利用履歴の一部です」 「使えますか」 私が訊くと、主任はすぐには頷かなかった。 「現時点では、参考情報です。証拠として使うには、正式照会が必要です」 「場所は」 律が訊いた。 主任は画面を切り替えた。 地図上に、一本の線が出る。 青嶺療養院から都心方面へ向かったように見えた車両は、途中で進路を変えていた。 南西方向。 細い山道へ続く出口。 みぞおちのあたりが、冷たくなった。 「この先に、医療施設は?」 高瀬さんが訊く。 「登録された療養施設はありません。あるのは、KMSが保有する研修保養所です」 主任の声が、硬くなった。 「それと、二年前まで使われてた旧リハビリセンターの跡地があります」 画面の地図が拡大される。 道は、山の中へ伸びていた。 その途中に、赤い三角のマークが表示されている
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