病院の自動ドアを出ると、外の空気は思ったより冷えていた。 自動ドアの内側から流れてきた冷えた空気が、背中をなぞった。 朝の光はあるのに、駐車場の端には夜の湿り気がまだ残っている。車寄せの屋根から落ちた水滴が、点字ブロックの脇で小さく跳ねた。 律の車椅子は、相良さんの手で静かに進んでいる。 さっき見た革靴の先の動きが、目の奥に残っていた。 反射。 そう思えば、それで済む。 人の足は、意識しなくても動くことがある。痛みがあっても、動かせる瞬間くらいあるのかもしれない。私は医者ではないし、律の事故のことも、身体の状態も、何も知らない。 だから、勝手に決めつけてはいけない。 そう自分に言い聞かせても、金具が鳴った時の音だけが、まだ耳の奥に残っていた。「朝霧様」 相良さんに呼ばれて顔を上げる。 車の後部座席のドアが開けられていた。律が先に乗るのだろうと思い、一歩下がる。 けれど、律は車椅子の上でこちらを見た。「あなたが先です。病院の前で立たせたままにする趣味はありません」「私が、ですか」「置くなら、せめて風の当たらない場所にします」 ……冗談、なのだろうか。「今のは、安心させる言葉ですか」「分類が難しいですね」 難しいのは、こちらの反応だった。 言い方は静かだった。 けれど、そこにあるのは命令というより、段取りに近いものだった。 私は少し迷ってから、車に乗り込んだ。シートの革が冷たく、背中に触れた瞬間、肩が小さくこわばる。 そのあと、相良さんと運転手が手慣れた動きで車椅子を車へ近づけた。 律は片手でアームレストを押さえ、もう片方の手で車内のグリップに触れる。 その動きは、ゆっくりだった。 ゆっくりすぎるほど、正確だった。 痛みを避けているのか。 それとも、そう見えるように動いているのか。 考えかけて、私は膝の上で手を握った。 また、見すぎている。「何か」 低い声が隣から落ちた。「いえ」 すぐに返したつもりだった。けれど、自分でも少し早すぎたと思う。 律はそれ以上聞かなかった。 車が動き出すと、窓の外の病院がゆっくり後ろへ流れていった。 榊邸に戻ったのは、昼前だった。 玄関ホールの石床には、朝とは違う白い光が入っている。天井の高い空間に、車椅子の車輪の音だけが薄く響いた。 使用人たちが数人、距離
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