ナイフの刃に、細い光が走った。 演奏も司会も続いているのに、私たちの周りだけ音が遠くなった。 未央は笑っていた。 三年前、父の前で額を押さえていた時と同じ顔。痛がるふりをする前の、ほんの一瞬の顔だ。 「三年前のこと、もう誤解は解けたの?」 近くの席の視線がこちらへ向く。 榊財団の理事の女性が、手にしていたグラスを静かにテーブルへ置いた。司は未央の腕を掴みかけて、やめる。遅い。いつも、少しだけ遅い。 私は膝の上のナプキンを指で押さえた。 布は乾いているのに、指先だけが湿っている。 「何の話でしょうか」 自分でも意外なほど、声は平らだった。 未央の眉が、わずかに跳ねる。 「忘れたの? お姉――いえ、朝霧さん。三年前、如月家で起きたことよ。会社の資料を外へ持ち出したとか、私を階段から……」 「未央」 司が低く呼んだ。 止めるなら、もっと早くすればいい。 未央は司を見ず、私だけを見ていた。 「皆さん、知らないでしょう? 朝霧さんは昔、如月家で――」 「如月様」 隣から、律の声がした。 大きな声ではなかった。 けれど、その声が通ると、周囲の話し声が少し静まった。 未央の唇が止まる。 律は車椅子の上で、少しも身を乗り出していなかった。黒い仮面の奥の目だけが、未央を見ている。 「ここは如月家の応接間じゃありません」 律の言葉は私をかばうためだけではなく、この席にいる全員へ向けられていた。だから、恩を着せられたようには感じなかった。胸の奥の緊張が、ほんの少しほどける。 如月家の中なら、未央が泣けば誰かが私を見た。父が眉をひそめ、母が口元を押さえ、司が困ったように黙る。その順番まで、身体が覚えている。 ただ、この席では違った。私は未央の方を向き直る。 誰も、未央が笑っただけでは私を裁かなかった。 未央の頬が薄く赤くなる。 「榊様。私はただ、皆さんが誤解されたままではいけないと思って」 「誰の誤解ですか」 私は未央に聞いた。 未央の視線が戻る。 昔なら、その目に見られるだけで息が浅くなり、違うと言おうとした言葉まで丸ごと押し戻された。父は聞かず、母は泣き、司は来なかった。 でも今、私の前にあるのは、如月家の長い食卓ではない。 名前の入った席札がある。 朝霧
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