その朝、最初に鳴ったのは、ニュースアプリの通知だった。 榊邸はまだ静かで、廊下にも人の気配はなかった。 枕元に置いたスマートフォンが短く震え、薄い画面の光が天井に跳ねる。まだ夜明け前の色が窓の外に残っていて、部屋は青く沈んでいた。 如月グループに不適切会計疑惑。 見出しを読んだ瞬間、眠気が消えた。 不適切会計、という言葉は、とても便利だと思った。粉飾、資金流出、架空請求、旧産院関連会社への不透明な送金。そういう棘のある言葉を、ひとつ薄い布で覆ったような表現だった。 私はベッドの上で起き上がり、記事を開いた。 記事はまだ第一報だった。経済紙の電子版。桐生グループ関係者が社内調査の一環として当局へ相談した、という書き方になっている。断定は避けられていた。けれど、二十年以上前に閉鎖された白桐産院の関連法人、ケー・メディカルサポート、如月グループからの長期支援金という単語が、行間に並んでいた。 まだ、私の名前は出ていない。 葵さんの名前も、九条家の名もない。 それでも、記事の底には確かに、二十四年前に私が誰かの手から別の手へ渡された夜の影があった。 みぞおちのあたりが、少し遅れて重くなる。 記事の下には、短い関係者コメントが続いていた。元従業員、金融機関関係者、取引先担当者。どれも匿名で、誰の顔も見えない。それなのに、私はひとつひとつの言葉の向こうに、かつて見た廊下や会議室の色を勝手に重ねてしまった。 ――経理部では以前から不自然な送金先が話題になっていた。 ――創業家案件と呼ばれ、触れてはいけない空気があった。 ――近年は資金繰りが悪化し、下請けへの支払いも遅れがちだった。 画面の文字は冷たい。けれど、記事を読みながら、昔見た社員食堂や受付の人の顔を思い出した。会社が崩れる、という一行の向こうにいるのは隆一さんだけではない。 私は記事を閉じかけ、もう一度開いた。 嬉しくはなかった。 ざまあみろ、と笑えたら楽だったのかもしれない。如月家が崩れていく。私を捨て、偽物と呼び、また売ろうとした家が、ようやく自分のしたことを帳簿の上で問われ始めている。 ただ、画面の中の「如月グループ」という文字を見た時、思い出したのは隆一さんの顔ではなかった。 本社の受付で、子どもの私に飴をくれた女性。会社見学の
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