中庭の石はところどころ白く曇り、陰にはまだ雪が残っていた。遠くで兵が荷を運び、薪を積み、短いやり取りを交わしている。誰の声もよく通るのに、長々とは続かない。必要なことだけを言い合い、すぐ次へ移る。その速度まで、この土地の空気を帯びていた。「寒いか」 ゼルヴァンが歩調を緩めずに尋ねる。「少しだけ」 セレフィアは答える。 「でも、平気です」「無理はするな」 彼は短く言い、 「倉庫は火を強く入れていない。中のものに影響するからだ」 なるほど、とセレフィアは思う。暖めればよいというものではない。保存している品によっては、温度と湿度の変化がむしろ傷みを呼ぶだろう。だから人ではなく、まず物の状態へ合わせる。その発想がもう、王都の客用の部屋とは違う。 倉庫は城本体から少し離れた棟だった。高い石壁と、厚い木の扉。窓は小さく、雪や風の侵入を最小限にするためだろう、鉄の金具で厳重に留められている。入口の脇には秤と、荷札の束、数字の書かれた木札が整然と掛けられていた。 扉が開く。 中は薄暗く、ひんやりしていた。だが冷たさは外と違う。風の刃のような冷えではなく、石の中へじっと溜められた静かな冷たさだ。空気には乾いた豆、穀物の粉、木箱、油を塗った革袋、そして薄い薬草の匂いが混ざっている。奥のほうからは塩気のある肉の香りも漂った。鼻を刺すほどではないが、ものが長く積まれ、保たれている場所の匂いだ。 目が慣れてくると、並ぶものの輪郭が見えてくる。壁際には穀袋が積まれ、その手前に樽が並び、天井近くには乾燥させた薬草の束が吊るされている。奥には塩漬け肉の木箱、保存果実の瓶、干し豆、乾燥根菜、蝋燭の箱、替えの布、火打石まである。単なる食料庫ではない。ここは「冬を越えるためのもの」がひとつに集められた場所なのだとわかる。「ようこそおいでくださいました」 低くしゃがれた声がして、ひとりの男が奥から歩いてきた。六十に近いだろうか、日に焼けた顔に深い皺があり、肩幅は広い。倉庫番だと一目でわかる手をしていた。節くれ立ち、傷があり、だが動きに迷いがない。「倉庫番のエドヴィンです」 男は軽く頭を下げる。 「旦那様から、奥方様へ中をご覧に入れよと」 またその呼び方だ。けれどここではもう、昨日までほど体が強張らなかった。罪悪感はある。だが、ネリサの「その名の下に守られてい
Last Updated : 2026-07-25 Read more