(年齢は教えても大丈夫みたいだ――六歳にしては幼い気もするが……) イアンは自分が六歳の頃を思い浮かべたが、彼は背伸びした六歳児だった。そんな自分と比べるのは間違いである。「好きな花は?」 「ジャスミンがすき。しろいおはながすきよ」 「好きな食べ物は?」 「ビーフシチュー」 「嫌いな食べ物は?」 「まめ」(お見合いか?) そう思いつつも、答えてくれるのでイアンは質問を捻り出して訊ねた。少女のことをもっと知りたいと思った。「好きな色は?」 「くろ」 黒が好きとは意外だ。白色のジャスミンが好きだから、白と答えると思った。「わんちゃんのかみのいろ、すき」 唐突にそんなことを少女から言われてイアンは戸惑った。自分ではなく髪色が好きだと言われたのに、自分を好きだと言われたようで妙な気分だ。 「わんちゃんのえがお、かわいい」 「かわ……?」 「うん!」 イアンは口角を人差し指で引っ張った。無意識に笑っていたようである。 「ニコッてわらうの、わんちゃんにそっくり」「かわいい」とニコニコと屈託なく少女は言った。 犬にそっくりだと言われているのに、目の前の笑顔が尊くて、イアンにとってそんなこと、どうでも良かった。 その笑窪の方が俺よりも何百倍も可愛い。こんな屈強な男が、敵うわけがない。「俺よりも、お前の方が、か、か」 「か?」 『お前の方が可愛い』 と言いたいのに、喉に骨が引っ掛かっているようで言葉が出ない。十七年間、一度も発したことのない単語ではあるが知らない単語ではない。『かわいい』という四文字を年端のいかない子供相手に言えないのか。 (初めて、戦地に立った時より緊張してる……?)「かっ、かっ、かっ、かっ」 言葉がつっかえて、続きを言えない。「かっ、かっ、かっ、かっ」 (くそっ! 言えない!!)「かっ、かっ、かっ、かっ」(相手は子供だぞ!)「かっ、かっ、かっ、かっ」(かに続く、わも言えないのか!) 外は肌寒いはずなのに、イアンは妙に熱かった。額にドッと汗が吹き出し、口が渇く。 ふと、鈴のような笑い声が耳に入った。 声の主に目を向けたら、無邪気な笑顔が飛び込んでくる。目の前がぱっと光に照らされたかのように眩しかった。 「わんちゃん、リンゴみたい!」
最終更新日 : 2026-07-04 続きを読む