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30 فصول

Love too late:防戦4

「おい、コラ! いきなりなにをするんだっ、放しやがれ!」 「ええっ!?」(これは絶対、桃瀬に勘違いされる! それだけは、なんとしても阻止せねば)「……周防とコイツ、もしかしてデキてるのか?」 「デキてるワケないでしょ! 誤解しないでよ!」 激しく否定しているのに、俺らを見つめる桃瀬の視線があたたかく感じるのは、気のせいなんかじゃない。「またまたぁ。周防ってば、そんなふうに激しく否定しなくてもいいって。俺ら親友だろ、隠してくれるなよ」 隠すも隠さないも、俺はこんなヤツのこと好きなんかじゃないのに――桃瀬の鈍感! どうしてくれよう、この微妙すぎる心情。「んもうぅ! 本当に違うんだって! だって俺は……くっ」 怒鳴りながら息を飲む。自分の気持ちを告げられないことにイライラしつつ、体にキツく巻きついた太郎の腕を、必死になって振りほどいた。「周防?」 そんな俺の様子に小首を傾げて、不思議顔をする桃瀬。恋人のいる彼に、自分の気持ちを言えるわけがない。伝えても、どうせ無駄なんだから。「どうした?」 桃瀬の視線をじと目でチラッと見てから、傍にいる太郎の手の甲を容赦なく、力まかせにぎゅぅっとつねりあげた。正直、これは腹いせになる。「いって~!!」 「とにかく頼むからももちん、勘違いしないでよ。コイツはただの病人で、面倒くさい居候なんだから!」 肩をすくめながら桃瀬に伝わるように説明する俺の横で、太郎は悔しそうに、これでもかと恨めしそうな表情を浮かべる。「タケシ先生とは一緒に寝てる間柄なのに、そんなに激しく否定しなくてもいいじゃん」 どうして必死に否定してる傍から、勘違いされることばかり、わざわざ言うかな! 今朝から何度目だろうか、怒りで血管がブチ切れそう。「いい加減にしろ太郎! 余計なことを言うなよ! 桃瀬が絶対に誤解するだろ!」 ――頼むからおまえとの仲を、桃瀬に怪しまれたくない。「だって、一緒に寝てるのは事実だろ」(ガーッ! このクソガキ!)「だけど、なにもヤってないし起こってもいない! そして勝手に布団に忍び込んでくる、おまえが全部悪い!」 ぜーぜー息を切らして太郎を怒る俺の肩を、桃瀬はまぁまぁと宥めるように叩いた。「そんなに叱るなって。太郎はおまえのことが好きなんだから、しょうがないだろ。見てるだけでわかるぞ」 「なっ!?
last updateآخر تحديث : 2026-07-12
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Love too late:防戦5

「すみません村上さん。病院閉めてくれて助かります」 「いいのよ、そんなの。いつもの晩御飯、冷蔵庫に入れておいたから、太郎ちゃんとふたりで食べてね。たくさん作ったから、桃瀬さんが持っていっても大丈夫よ」 村上さんの優しい一言で場の雰囲気が一変、いつもの穏やかな診察室になる。俺はこっそりと深いため息をついた。「ありがとうございます。でも恋人が大量にワケのわからない物を作ってると思うので、今回は遠慮しますね」(でたよ、桃瀬のさりげない恋人自慢だ)「ワケのわからない物?」 「えっと、見た目がいろいろ問題なんですが、味は大丈夫みたいな」 「あらやだ、桃瀬さんってば、ちゃっかり恋人の自慢してくれちゃって。ご馳走様です」 「いえ、そんなつもりは――」 「ももちんはそんなつもりはなくても、いつも恋人自慢、デレデレしながらしているよね」 冷たく言い放ち、深いため息をつきながらドカッと椅子に座って、パソコンの電源を切る。「太郎ちゃん、あまりワガママを言って、周防先生を困らせたらダメよ。それじゃあお先に失礼しますね」 ナイスな釘を太郎に刺して、無駄に大きい頭を優しく撫でてから、村上さんは帰って行った。「じゃあ、俺も帰るから」 村上さんのあとを追うように、桃瀬も帰った。あの含み笑いは、間違いなく誤解をしたままに違いない。「桃瀬のバカ――」 机の上で頭を抱え、ぼやくように呟いた。さっきまで騒がしかったのに、静寂が診察室に訪れる。「……タケシ先生、俺と出逢ったときさ、電話してた相手ってアイツなんだろ?」 その静寂を太郎が壊した。ショックが大きくて、なにも考えたくないっていうのに、ホント面倒くさい。「だったら、なんだって言うんだ」 太郎の顔を視線だけでギロリと睨みながら、吐き捨てるように言ってやる。 おまえのせいで、大好きな桃瀬に誤解されてしまった――こんなヤツと誤解されるくらいなら、村上さんと不倫してるって思われたほうが、どんなにいいか。「あのときと同じ、悲しそうな目をしてる」 太郎に背を向けて頭を抱えてるのに、どうやって俺の顔が見れるっていうんだ。ふざけんな、マジでムカつく。「白衣を着て、医者っていう格好してるのに今のタケシ先生、どこから見ても患者みたいだ」 早朝から太郎に振り回されて、もうクタクタなんだよ。患者になって当然だろう。「誰の
last updateآخر تحديث : 2026-07-13
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Love too late:防戦6

***(――すっげぇ、恥ずかしい) 気づいたときには号泣してしまい、どうにも涙が止まらなかった。年甲斐もなく声をあげて泣いたら、意外とスッキリしたものの、この体勢から放れるタイミングがまったく掴めない!(落ち着け、俺。コイツから距離をとる順序を、冷静になって考えよう! まずは上半身を起こして椅子を反転させてから、勢いよく背中を向ける。そうすればこの情けない泣き顔が、アイツには見られないだろう) そしてすかさず立ち上がって白衣を脱ぎ捨て、素早く二階に移動し、何事もなかったように夕飯の支度をする。これなら太郎との接触が、極力防げること間違いなし!(よし、1・2の3!) 太郎の体に縋りついていた手を使い、素早く上半身を起こして、椅子が一周しそうな勢いで椅子を反転させた。そして両手で涙を拭って視界を確保してから、すみやかに立ち上がる。「タケシ先生、もう大丈夫なのか?」 「ああ……」 自分が出した掠れた声が、さらなる羞恥心をぶわっと煽った。自動的に、頬に熱を持つ始末。本当に恥ずかしすぎて、顔をあげられない。「肩、まだ震えてる。無理すんなよ」 「ち、違っ! これは――」 本当に違うんだ。恥ずかしさに耐えようとしたら変に力が入って、体が震えているだけで……。 背中を向けたまま答える俺のことを、後ろからぎゅっと抱きしめた太郎。「こら! 勝手に抱きつくなっ」 上半身に回された太郎の腕が腹の辺りだったので、自身の腕がフリーに使える。反射的に太郎の顔の辺りを裏拳で殴ったら、簡単にクリーンヒットした。「あだっ!」 「図に乗るのも、いい加減にしろっ。バカ犬が!」 殴ったことにより、自由になった身でイライラしながら白衣を脱ぎ捨て、乱暴に椅子にかける。 コイツのせいで、すべての計画がうまくいかない。非常にムカつくじゃないか。「タケシ先生っ」 「あ?」 「いつも通りじゃん」 告げられた言葉にハッとする。 そういえば、いつの間に――なんだかよくわからない内に、ムカつきすぎてしまったせいで、元に戻っていた。「いつもと違うのは、綺麗な顔が台無しになるくらい、まぶたが腫れてるってことだな」 コイツ、気にしてることを、よくもまぁズケズケと言ってくれるのな。 かくて俺は、無言のまま太郎に右ストレートを食らわせ、苛立ちを表しながら二階に駆け上がった。だけど
last updateآخر تحديث : 2026-07-14
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Love too late:防戦7

*** 太郎と夕飯を食べながら世間話をしていたら、朝焼けを見に行った高台の話となり、夜景はどんな感じなのかという流れになったので、わざわざ現地へ見に行くことになってしまった。「タケシ先生、大昔に彼女と来たときは、それはそれはいい感じだったんだろ? 周りは暗がりで、ムード満天だしさ」 へらっと笑いながら、辺りを見渡す太郎。人の過去をワザとらしい言葉で、ほじくり返しやがって。「なんでそう思う?」 「だって、見ればわかるだろ。周りはカップルだらけ。男同士は俺らだけだし」 煩い太郎を無視してため息をついたら、頬を優しく撫でるように、夜風がふわりと当たった。腫れてしまったまぶたに吹き抜ける風が、やけに気持ちよく感じる。「すげぇ! 朝焼けに負けないくらい、夜景も綺麗だな」 「ああ……」 ふたり並んで、崖下を望む夜景を楽しんだのだが――。「でもタケシ先生の綺麗さには、やっぱ負けるわ」 馴れ馴れしく右頬に触れた太郎の手を、容赦なく叩き落とす。パシンという異質な音が、周りの目を引いてしまった。「おっかねぇな。触るくらいいいじゃん、減るもんじゃないんだし」 「気安く触れるな!」 「涙に濡れるタケシ先生に、俺のこの大きな胸を、タダで貸してあげたっていうのに、この仕打ち。それって結構、酷くない?」 「うっ……」 しまった――悲惨な顔をどうしても見られたくなくて、自分のことばかり考えていたら、太郎に礼を言うのを、すっかり忘れていた。「……その。さっきは、ありがとぅ」 腕を組んでそっぽを向き、たどたどしく言い放つ。恥ずかしさで、語尾が小さくなっただけじゃなく、今さら過ぎる自分の失態で、頬に赤みが差すのがわかる。(――適度な暗がりで助かった。こんな顔していたら、コイツのことだ。絶対にツッコミを入れるに違いない)「タケシ先生は素直じゃねぇな!」 太郎はそっぽを向いた俺の頬を両手でそっと包んで、強引に上向かせた。「なっ!?」 瞬間的にキスされると悟り、太郎の腕を振り払うべく、両手をかけたら。「……良かったな。まぶたの腫れ、少し引いたみたいで」 「は?」 「だけどその分、ほっぺたが腫れちゃった感じ? ほんのりと熱がある」 おかしそうに見つめられ、どうしていいかわからなくなり、固まってしまう自分。否定したいのに、うまく言葉が出てこない。「そんなモ
last updateآخر تحديث : 2026-07-15
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Love too late:防戦8

「太郎、教えてくれないか。どうして今まで、俺に手を出さなかったんだ?」 勝手にベッドに忍び込んだり、隙があればいきなり抱きついてきたりと、いろいろしているのに、拒否ればそれ以上のことをしてこなかったのが、俺としては不思議だった。「そりゃあ、好きになってもらいたかったから、さ」 「なんだそれ?」 「だってさタケシ先生、俺のこと嫌ってるじゃん。イヤなことして、それ以上嫌われたくないし、それに――」 「うん?」 「体だけの関係なんて、虚しいだけだしさ。俺としては、タケシ先生の全部が欲しいって思ってる」 肩に回されてる太郎の指先に力がこめられるのが、服越しに伝わってきた。「大学生のガキが、使う言葉じゃないね。どんだけおまえ、遊び倒してるんだよ」 体だけの関係が虚しいなんて、普通の大学生が使うワケがない。呆れながらそのことについて指摘すると、太郎は視線を逸らして、そっぽを向いた。「太郎、よく聞け……」 ここははっきりと、コイツの容姿について意見してやろう。俺の考えを知れば、諦めてくれるかも。なぁんていう辛辣なことを考え、口にしてやる。「確かによく見れば、大人っぽいトコが多少はあると思うが、モテる要素があるとは、どうしても思えないんだよな」 体に触れたときに限って、なにかしら胸やけがしそうな甘い言葉を使ったりすることで、そういう場慣れしてるんだろうなと、容易に想像がついたのだが――。「タケシ先生ってば、さりげなく俺のことを貶してるだろ。これでもいろいろあって、モテまくってるんだけどさ」 「いろいろねぇ……ツラだってサル顔だし、見たまんまチャラそうだし、無駄に押しだけ強いし、正直いいところがない」 そっぽを向いてる太郎をじと目で見てやると、対抗するように流し目をしながら、上から目線で俺を眺めた。「来るもの拒まず、去るもの追わずってね。あ、サル顔だからじゃないぞ」 「なんだそれ、全然おもしろくない」 「それに押しが強いのは、タケシ先生だけ。初めてなんだよ、自分から迫ったのは」 「はっ、ウソ臭い話だな……」 一瞬だけ、胸がドキッとした。それを誤魔化すべく、あからさまに視線を逸らしたら、わざわざその視線を追いかけるように、太郎がそっと顔を寄せる。「ウソじゃねぇよ。初めて感じた自分の気持ちを伝えたとき、すっげぇドキドキしたしさ。タケシ先生に出
last updateآخر تحديث : 2026-07-16
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Love too late:防戦9

「……なんだ?」 「自然気胸だって薬、夜に渡していただろ。あれって、眠剤なんじゃね?」( ギクッ!)「普段、寝つきが悪いのにあれを飲むと、異常にぐっすり寝られたから。まぁ二日目からは飲んだフリして、うまいこと飲まなかったけどさ」 「あれは、その……正当防衛みたいな」 しまった――医者と患者の信頼関係が、見事に崩れていくじゃないか。「なので治療を拒否するから、あしからず!」 俺を放り出すように太郎は身を翻し、ひとりきりでさっさと高台から降りていく。どんどん遠ざかっていく背中を、黙って見つめることしかできなかった。「まいったな、どうすりゃいいんだ……」 自分がしてしまった過ちを、今さら後悔しても、どうにもならない。家に帰る道中、太郎の背中を追いながら、今後の対策を考えてみた。「患者である太郎の希望を、最優先に考えて恋人になってやる」 これが一番、手っ取り早いんだけど――太郎と恋人同士になった絵面を思い浮かべただけで、ぞわぞわっと悪寒が走る。報われない恋に嫌気がさし、無謀にもうんと年下の大学生に、手を出しちゃいました。 なぁんて、もうひとりの自分が耳元で囁くような気がする。「違うっ、違うんだ。そうじゃない!」 頭を抱えながら歩く俺は、傍から見たらおかしな人にしか見えないだろうな。でも、頭を抱えずにはいられない難題だった。(医者として、純粋に患者を助けたいだけ。人恋しくなったからって、身近にいる太郎なんか、絶対に好きになれないし) 正直、羨ましいと思った。桃瀬と涼一くんが相手を思い遣って、視線を合わせる姿――傍にいなくても、お互いに心を通わせていて、想い合っているのを垣間見て、すっごく悔しいと感じた。 そしてさっき、高台の崖で太郎が寄り添ってくれたとき、不覚にもそれほど不快に思えなくて。こんな自分に想いを寄せてくれることが、奇跡というかなんというか。「桃瀬から太郎に、簡単にシフトチェンジできれば、問題は解決するんだけどね……」 深いため息をついて目の前を見てみると、病院前の塀に寄りかかり、ぼんやりと夜空を見上げる太郎がいた。そんなアイツを無視し、さっさと傍を通り過ぎて、玄関の鍵を手早く開け、中に入ろうとした刹那。「んんっ!?」 一瞬なにが起こったのか、理解が追いつかなかった。ぐだぐだな思考と一緒に、無理やりな感じで、太郎に呼吸を奪
last updateآخر تحديث : 2026-07-17
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Love too late:防戦10

*** 今日も散々な一日だった。なにが散々って太郎が来てからというもの、自分のペースを乱されっぱなしだから。「こっちは大人の対応を貫いて、折れてやっているというのに、病人という特権をこれでもかと振りかざしやがって」 玄関で太郎にキスされたあと速攻でシャワーを浴び、何度も何度も顔を激しく拭いまくった。ガシガシ拭っても、悲しいことにキスされた事実は消えないけれど、拭わずにはいられない。 ムカつく気持ちをこれでもかと引きずり、浴室から脱出。その後、台所にてビール缶を開けてがぶがぶと一気呑みし、太郎と顔を合わせることなく、そそくさと寝室に移動した。「俺は医者、俺は医者……あんな最低なヤツでも、助けなきゃならない義務があるんだ」 もう、思い込み作戦である。義務や責任をみずから背負い込み、なんとかして太郎を治療させるべく、自分を騙しこむことにした。「まずは俺の中にある基準を、なんとかして崩壊させなければ!」 基準を下げれば、多少なりとも太郎が恰好よく見えるかもしれない。そこから恋に発展とはいかなくても、今までより太郎のことを思いやり、優しくすることができれば、それなりの雰囲気になるだろう。それを恋と勘違いして、太郎が生きてやろうと考えてくれたら、それこそしめたものだ。「俺の基準というか理想が、見目麗しいイケメン桃瀬だからな。何人かかっても超えられない、難題になっているんだ」 目を閉じてベッドに体を投げ出し、まぶたの裏に大好きな桃瀬ぼんやりと思い出す。そこら辺にいるヤツが、病院で使う物品に見えてしまうレベル。しかも俺って、頼られるより頼りたいタイプで、ソイツの優しさに包まれていたいんだ。桃瀬みたく面倒見のいいヤツなら、もう喜んでついて行く……って。「これを太郎に求める時点で、かなり無理な気がしてきた」 さりげなく寄り添ってくれるものの、肝心なトコでポイッと放り出されるから。(ここは大人として、俺が我慢すればいいだけの話なのか?) 幸先不安な展開に、昨日同様に頭痛が俺を襲う。無駄なことを、ぐるぐる考えている内に、疲れてきて睡魔に襲われた。 寝入りばながこんなだったので、なんだか変な夢を見る。薄暗がりの中、桃瀬が俺に寄り添って来たかと思ったら、そっと優しく頬に触れてきて。『もっ、ももちん』 顔がすごく近くて、自然と心臓がバクバクする。自分の挙動を悟
last updateآخر تحديث : 2026-07-18
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Love too late:防戦11

*** ウチの病院には二十代・三十代・四十代という、各年代の看護師が勤めている。その職員の中で、太郎のことにいち早く反応したのが、一番若い看護師のコだった。 午前中の診察になんとか一区切りがついた時間帯、お茶を持ってきてくれた二十代の看護師。「周防先生、今日も混みましたね、どうぞ」 「そうだね。いつもありがと」 労いの言葉に笑顔で返し、淹れてくれた温かいお茶をすする。その、ほっとした瞬間だった。「太郎くん、カッコイイですよね」 突然告げられた若い看護師のセリフで、飲み込んだお茶を思いっきり吹き出しそうになる。(――もしかしてなんか、薬でも盛られたのか?)「私が独身だったら、太郎くんにアタックしちゃうのになって」 「……ねぇそんなにアイツ、カッコイイかな?」 「同性だから、わからないんですよ。太郎くんは充分に、カッコよさを醸してますって。若くて、爽やかな感じがいいなぁ」 うっとりする若い看護師の表情を、呆れながら見つめるしかない。カッコよさが醸されてるって、どこからだろうか? もしかすると、カビやなにかの危ない菌が、ふわふわって醸されているのかも?「でもさ、ももちんと比べたら――」 「ダメダメッ! なに言ってるんですか! 桃瀬さんは別格なんです。太郎くんには太郎くんなりの良さが、彼の中にあるんです!」 太郎の良さって、なんだろう?「俺、そこのところがサッパリわからないんだけど」 桃瀬と比べちゃいけないのはわかっていても、比べずにいられないのは、やはり恋心ゆえ。「太郎くん、若いのにしっかりしていますよ。私たちの受け答えにも、ハキハキと対応していますし。素直にいいコだなって思います」 持っていたお盆を胸の前にぎゅっと抱きしめ、夢見る乙女みたいな顔して、若い看護師はわざわざ教えてくれた。「周防先生、患者さんが来たら声をかけるんで、それまでゆっくりしていてくださいね」 「わかった、ゆっくりさせてもらうわ……」 ハテナ顔の俺を残し、ウキウキしながら診察室から出て行った二十代の看護師。これで終わるかと思いきや、次の日に三十代の看護師から、太郎のことを聞くことになる。「いいコですね、太郎くん」 寝室に鍵をつけていないため、毎日奇襲攻撃を受け、寝不足気味の俺に、追い討ちをかけるような言葉がかけられた。「……どこが?」 「絶妙なタイ
last updateآخر تحديث : 2026-07-19
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Love too late:防戦12

*** 患者さんの検査待ちの合間に、診察室の壁からコッソリと、太郎の様子を窺ってみた。待合室にいる子どもたちに囲まれながら、スケッチブックを手に、なにかを描いている姿が目に留まる。「周防先生、そんなところから覗いていないで、太郎ちゃんの傍に行けばいいのに」 俺の背後から、村上さんが声をかけた。「でも気が散ったら、その……迷惑かけるだろうし」 「子どもたちだけじゃなく周防先生にも、太郎ちゃんが描いている絵を褒めてほしいと思っていますよ。きっと」 脇をすり抜けながらクスクス笑って、通り過ぎて行った。(――そんなもんかね) そう思ったとき待合室に桃瀬がやって来て、子どもたちに声をかける。フレンドリーな桃瀬に対し、仏頂面の太郎という対比。まぁしょうがないだろう。アイツは俺の想い人だしな。 そんなふたりを眺めていたら、桃瀬が俺の存在に気づき、ゆったりとした足取りで診察室前にやって来た。「周防なにやってんだ、こんなところで」 「ももちん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」 視線を太郎にロックオンしたまま、しっかり訊ねてやった。「バテる前に周防スペシャル、打ってもらおうと思ってさ。お礼にならないかもしれないが、涼一と作った餃子、勝手に冷蔵庫に入れておくぞ」 「ありがと。なんだか愛情がたくさん、こもっていそうだね。ご馳走様」(やれやれ相変わらず、仲がよろしいことで) 苦笑いして桃瀬を見ると、いきなり難しそうな表情を浮かべ、ぎゅっと眉根を寄せる。「顔色、あまり良くないな。大丈夫か、周防?」 心配そうな顔して、じっと見つめられると、どうしていいかわからない。思わず隠すように、顔を俯かせてしまった。「いろいろ考えることがあってね。困り果てたら、ももちんに相談するよ」 なんとか笑顔を作って、桃瀬を一瞥してから診察室に戻る。躰を投げ出すように椅子に座り、天井を仰ぎ見た。「……桃瀬に相談できたら、とっくにしてるよな」 親友だからこそ、伝えられないこの気持ち。そして太郎の病気のこと。この件に関しては、医者の俺と患者である太郎の問題。なんとかしなきゃいけないのは、自分自身なんだ。 病気のことを考えたら、早くなんとかしたいのに時間だけがどんどん過ぎ去って、太郎の命を削っている。俺が太郎のことを好きになり、この身を捧げればいいだけなのに。 机に頬杖を突
last updateآخر تحديث : 2026-07-20
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Love too late:揺れる想い

※【ピロトークを聴きながら】(ピロトーク:揺れる想い)と一部内容がリンクしております。2sideでお楽しみくださいね。 (やっぱアイツには、太刀打ちできないのか……) 苛立ちが足音となって表れる。階段を上がる音が、えらく耳障りだった。 手に持っていたスケッチブックを、ポイッと投げるようにテーブルの上に放り出し、真っ直ぐキッチンに向かう。 冷蔵庫を乱暴に開け、お茶のペットボトルを取ろうと手を伸ばしたとき、それが目に入った。バカでかいタッパーに、メモのようなものが貼り付けられている。そこに書かれていたものは――。『周防さんへ いつもお世話になってます。郁也さんとふたりで餃子を作りました。これを食べて、スタミナを是非とも付けて下さい。涼一』 小さくてキレイな文字が、涼一って人の人柄を表している感じだった。だってその下に書かれている雑な字は、明らかに別人だってわかるから。『仕事頑張れよな、何かあったら相談に乗るし。桃』 ムダに大きい文字でメッセージを書いたため、自分の名前を書くスペースがなくなってしまい『桃』だけで終わってるのが、なんだか笑えてしまう。 一見アンバランスなふたりに見えるけど、仲の良さそうな感じが、このメモから伝わってきた。きっと、ワイワイ言いながら書いたんだろう。「せっかく小さい字できちんと書いてやったのに、どうしてそのスペースに、大きい字で書くかな……みたいな」 これを読んだらタケシ先生、苦笑いするしかない。現に読んだ自分の胸が、無性にシクシクと痛んでいるのだから。きっとタケシ先生も、同じような痛みを味わうに違いない。 きゅっと下唇を噛みしめ、なにも手に取らずに、肩を落して冷蔵庫を閉める。 俺なりにタケシ先生が喜んでくれることをしようと、いろいろ頑張ってきた。看護師さん達と仲良くなって仕事を手伝ったり、子どもたちと仲良くなるべく、絵を描いてあげたり。 それなのに――。「アイツには声をかけたクセして、俺は完全スルーだもんな。そんなの、マジで酷すぎる……」 ――認めてほしい、少しでもいいから、好きになってもらいたい。俺だけにほほ笑んでほしい。「その美貌で魅了するだけ魅了して、タケシ先生って雪女ならぬ雪男か?」 着ている白衣が、どこかそんなふうに思わせる。あの人の凍てついた心を、俺がなんとかしたい。振り向かせてみたい!
last updateآخر تحديث : 2026-07-21
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