恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

last update最終更新日 : 2026-07-10
作家:  相沢蒼依たった今更新されました
言語: Japanese
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概要

現代

天才医者

年下

ツンデレ

一目惚れ

BL

失恋

親友に実らない片想い中の俺の前に現れた年下の大学生――運命の相手 は誰なんだろうか。 アレルギー専門の小児科医院を経営している周防武。 秘かに想いを寄せる高校からの親友が、以前恋していた相手と再会する衝撃的な場面に立ち合い、心の傷をさらに深く負った。 失恋して間がなく、「自分は重病人だ」と言い張る名前を絶対に名乗らないひとりの大学生と出逢い、ひょんなことから面倒を見ることになったことが、はじまりだった。

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第1話

Love too late:壊したくない距離感

 運命の人は、この世にふたりいるらしい。ひとりめで人を愛することと失うつらさを知ったのちに、ふたりめで永遠の愛を知るという。

 だがそんなのは嘘っぱちだ。だって俺の場合、後にも先にも進まないのだから。

 実らない恋愛だとわかっているのに、どうして諦めきれないのだろう。手を伸ばせば届きそうなのに、寸前のところで相手と俺の未来に不安を覚えた瞬間、思いっきり躊躇して固まったように動けなくなってしまう。

 だから彼は、俺の手の届かない遠くへ行ってしまった。

 俺が経営する病院に急患を持ち込んだ、同級生の桃瀬とその患者が、仲良く並んで挨拶してくれた。

「周防悪かったな。おまえの病院は小児科なのに、大人の急患を持ち込んで」

「本当にありがとうございました。死にそうなくらい具合が悪かったのに、一気に治せちゃうなんて、すごいです!」

 目と目を合わせてほほ笑み合いながら俺に告げる、ふたりの仲のよさで、なるようになったと安堵した。

 俺は彼らにつられるように瞳を細め、ニッコリと笑い返してやる。まさか何十年前の恋が叶った瞬間に、自分が立ち合うことになろうとは、夢にも思わなかった。

(あ、でもなんとなくだけど、当たり前のような奇跡にも感じる。桃瀬が心の奥底で、無意識にずっと彼を想っていて、彼に似たような相手ばかりを恋人にしていた、そんな気がする)

 だから俺がどんなに想っても、アイツの好みじゃないせいで親友どまり。どんなに好きになっても、けしてこの想いは届かない。

 病院を去っていくふたりの後ろ姿に、そっと手を伸ばす。もう何度目だろうか。溢れ出しそうな気持ちをぐっと噛み殺して、桃瀬が他の誰かと歩いていく姿を、こうやって眺めるのは。

 燃えるような夕焼けの中、影が長く伸びる。あっちは仲良くふたり分の影が伸びて重なり、俺の背中には寂しくひとり分の影。それがまるで、未来の自分の姿であるように思えてならなかった。

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19 チャプター
Love too late:壊したくない距離感
 運命の人は、この世にふたりいるらしい。ひとりめで人を愛することと失うつらさを知ったのちに、ふたりめで永遠の愛を知るという。 だがそんなのは嘘っぱちだ。だって俺の場合、後にも先にも進まないのだから。 実らない恋愛だとわかっているのに、どうして諦めきれないのだろう。手を伸ばせば届きそうなのに、寸前のところで相手と俺の未来に不安を覚えた瞬間、思いっきり躊躇して固まったように動けなくなってしまう。 だから彼は、俺の手の届かない遠くへ行ってしまった。 俺が経営する病院に急患を持ち込んだ、同級生の桃瀬とその患者が、仲良く並んで挨拶してくれた。「周防悪かったな。おまえの病院は小児科なのに、大人の急患を持ち込んで」「本当にありがとうございました。死にそうなくらい具合が悪かったのに、一気に治せちゃうなんて、すごいです!」 目と目を合わせてほほ笑み合いながら俺に告げる、ふたりの仲のよさで、なるようになったと安堵した。 俺は彼らにつられるように瞳を細め、ニッコリと笑い返してやる。まさか何十年前の恋が叶った瞬間に、自分が立ち合うことになろうとは、夢にも思わなかった。(あ、でもなんとなくだけど、当たり前のような奇跡にも感じる。桃瀬が心の奥底で、無意識にずっと彼を想っていて、彼に似たような相手ばかりを恋人にしていた、そんな気がする) だから俺がどんなに想っても、アイツの好みじゃないせいで親友どまり。どんなに好きになっても、けしてこの想いは届かない。 病院を去っていくふたりの後ろ姿に、そっと手を伸ばす。もう何度目だろうか。溢れ出しそうな気持ちをぐっと噛み殺して、桃瀬が他の誰かと歩いていく姿を、こうやって眺めるのは。 燃えるような夕焼けの中、影が長く伸びる。あっちは仲良くふたり分の影が伸びて重なり、俺の背中には寂しくひとり分の影。それがまるで、未来の自分の姿であるように思えてならなかった。
last update最終更新日 : 2026-06-22
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Love too late:壊したくない距離感2
***「はーい。ちゃんとお口を開けないと、病気を見つけられないからね。そうそう、しっかりと開けててねー」 親父が経営していた内科の個人病院を引き継ぎ、アレルギー専門の小児科病院に華麗な転換をした俺、周防武。 世の中、少子化と騒がれているけれど、その一方でいろんなアレルギーを持つ子どもが、たくさんいるのも事実。ゆえにおかげさまで、病院は毎日大繁盛していた。「すおぅせんせえ、すっごくしゃべり方おもしろい! なんかしゃべって!」 「おもしろいしゃべり方をしないと、お注射よりも先生の顔が怖いからねー」 「スミマセン、子どもが変なことを言ってしまって」 患者のお母さんが、とても済まなそうな表情を浮かべたことが、逆に申し訳なく思ってしまう。顔の前で右手を高速ワイパーのように振り、なんでもないことをここぞとばかりにアピールしてあげた。「いいんですよ。こんなの、たいしたことじゃないですし。お子さんがこうやって、元気に笑っていることが一番です」 俺は喜んで、ピエロの役を買って出ているだけ。忙しさの中に身を置くことで、余計なことを考えないようにしている。そんな中で俺の方が、患者の子どもたちに癒されてる気がした。 純真無垢な笑顔を見るたびに、そう思う毎日を過ごしている。「すおぅせんせえのお薬のおかげで、息をするのがすごく楽になったよ」 「そっかー、胸の中のばい菌がいなくなったからだね。でもちゃんと最後まで、出したお薬を飲んでねー」 「はぁい。頑張って飲むね、ありがとう!」 「お大事にー!」 診察室から出て行く親子連れを作り笑いできちんと見送ってから、さっきまでの診察内容をカルテに記録する。 カルテにはこれまでの病歴などが残るけど、俺の心の中は桃瀬と出逢った高校時代で、時が止まっていた。なにも上書きされない。ただの友達でいる、俺たちの関係。 桃瀬と出逢ったきっかけは、この病院がはじまり。親父が個人病院をここに開院した関係で、高校を編入したからだった。
last update最終更新日 : 2026-06-23
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Love too late:壊したくない距離感3
***「周防武です、ヨロシクお願いします」 系列の高校を、編入という形で転校した。通う学校の名前が学院から学園になった程度の変化。しかし言えるのは楽園にならないだろうという事実だった。どこに行ってもついて回る成績争いに、ほとほと嫌気がさしていた。 学校でも塾でも互いを牽制しあう姿を見るたびに、そんな暇があるのなら、単語のひとつでも覚えればいいのにと、遠くから白い目で眺めていた学院時代。学園では、果たしてどうなるであろうか。「校内の案内は、委員長の桃瀬が面倒見てくれるから。桃瀬、頼んだぞ!」 自身の挨拶が終わると、担任が後ろの席にいる目鼻立ちのはっきりした生徒に、校内の案内をわざわざ頼んでくれた。「はーい。周防、授業が終わったら案内するから、ヨロシクな!」 サラサラの真っ直ぐな黒髪を揺らしながら、気さくなイケメン桃瀬と呼ばれた生徒が、白い歯を見せながら笑いかける。 クラス委員なんて面倒なことをわざわざするなんて、お人よしなのかバカなのか――はたまた、ただの目立ちたがり屋なのか。 内心苦笑しながら、指定された席に着いた。 そして授業が終わり、クラス委員の桃瀬の席にみずから赴く。俺の姿を見た桃瀬は、どこか楽しげに口を開いた。「ここの造りは、基本的に学院と変わらないって噂で聞いているけど、実際はどうだ?」 「ああ、大差ない。おかげで迷子にならずに済みそうだ」 笑いながら答える俺を、じっと見つめた桃瀬。その視線を、不思議に思って首を傾げた。「なに?」 「あ、その。なんとなくなんだけど、周防のその右目の下のホクロ、色っぽいなと思って」 少しだけ頬を赤く染めながら、ワケのわからないことを言われても、正直困ってしまう。「俺自身はこのホクロ、あまり好きじゃないんだけど」 人相占いでも、あまりいいことが書かれていなかった記憶がある。レーザーで取ることもできるが、そうまでして運勢を変える気にもなれなかった。「悪い、気にしてるトコ突っついて。それがあるのとないのじゃ、印象が変わるなぁって思ったんだ。もちろん俺の中では、良い方の印象だぞ」 「そんな感じなんだ、ふぅん」 ホクロ以外、あまり見た目を気にしたことがなかったから、こういうふうに感想を告げられ、なんと答えていいのやら。どこか、くすぐったいような感じの妙な印象を受けた。「あとさ……」 「な
last update最終更新日 : 2026-06-24
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Love too late:壊したくない距離感4
*** 昼休みおこなわれた、クラス対抗のバスケを見学していたら、他のクラスのヤツにも、気さくに声をかけてもらえた。「桃瀬って運動神経抜群なのに、どうして部活、入ってないんだ?」 授業が無事に終わり、帰る方向が同じこともあって、バス停でふたり並んで待ちぼうけをしている。「ん~、家でひとりの時間を満喫したいから」 桃瀬はカバンから本を取り出し、メガネをかけて読みはじめた。 学校では常に誰かと一緒にいて、ニコニコ笑っている桃瀬。いつも誰かといたら、ひとりになりたい時間が欲しくなるのが、容易に想像ついた。 そんな俺は、学院で誰ともつるむことがなかったのもあり、こうして桃瀬といるのが不思議な気分。まるで、昔からの友達みたいな感覚だった。「桃瀬は本、好きなんだ?」 彼には変に気を遣うことなく、気軽に質問もできてしまう。「ああ、周防はなにか読まないの?」「本を読む暇があったら、単語のひとつでも覚えろって、母親が煩くてね。塾を二つ掛け持ちさせられて、毎日ヒーヒーだよ」 父親の経営している病院を継がせようと、必死に教育ママをしている母親。反抗するのも面倒くさいので、大人しく言うことをきいている。「ウチは、姉ちゃんが煩くてさ。本ばかり読んでいるから成績が落ちてるって、怒鳴り散らしてくるんだ。周防が通ってる塾って、良さげな感じ?」 本から視線を俺に向けた桃瀬は、眉間にシワを寄せながら訊ねた。「ああ。能力別にクラスが分かれていて、授業も丁寧に教えてくれる」「行きたくないんだけど、このまま成績が下がるのも困っちゃうから、塾を探しているんだ」 やれやれといった感じで肩を竦め、苦笑いする桃瀬。お互い大学受験を控えた身だからこそ、大変なのは変わりないってことか。「じゃあ塾の案内、貰ってきてやるよ。二つの内、自分に合いそうなところに申し込めばいいさ」「サンキュー、助かる」 桃瀬はひとつため息をつき、視線を本に戻す。熱心に読むなと思い、じっと端正な横顔を見つめていたら、戻したばかりの視線を、なぜか上目遣いで向こう側にあるバス停に向けた。(――気になるものでも、なにかあるのか?) 興味に惹かれ、桃瀬の視線の先を辿ると、有名私立中学の学生が数人、バスを待っていた。その中でも目鼻立ちの整った、清楚でキレイな感じの男子中学生が目に留まる。 一瞬、女子かと思うよう
last update最終更新日 : 2026-06-25
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Love too late:壊したくない距離感5
*** 次の日。ぶらりとひとり廊下を歩いて、桃瀬が遠くを眺めたあの窓際に立ってみた。窓からの景色は、グラウンドが広がる校庭のみと思っていたのに、よく見ると木々の隙間から少し離れた所にある、有名私立中学校の校舎が、しっかりと見えることに気がついた。その様子がまるで、桃瀬の気持ちを隠しているように感じてしまった。「いいヤツだけに、かなり複雑な気分だ……」 昨日たくさんかわした桃瀬との会話で、イヤというほど人の良さがわかった。それなのになんだって、同性を好きになるのかな。 思わず眉根を寄せて、はーっと深いため息をつく。(顔と性格が完璧すぎるヤツだから、神様がちょっとイタズラして、そこら辺をいじったとか?) もう一度ため息をついてから、重い足取りで教室に戻ると、扉の前で誰かとぶつかってしまった。「悪いっ、ぼーっとしていて」 教室を出ようとしていたヤツに道を譲るべく、頭を下げて謝りながら体を退けたら、いきなり左腕を掴まれる。「周防っ!」 相手は桃瀬で、その表情はすごく真剣な顔だった。「な、なんだ?」 まるで鬼気迫る勢いという感じにキョどり、唇の端を引きつらせる。「学ラン脱げ」 「は!?」 唐突に告げられた言葉に固まった。困惑してあたふたしている俺に、クラスの誰かが笑いながら、大きな声で教えてくれる。「周防諦めろ。桃瀬のオカン機能が発動したら、誰にも止められないから」(――オカン機能ってなんだよ、それ?)「脱がないなら、俺が脱がしてやる。じっとしてろ」 「ちょっ、ちょっと待てって!」 これじゃあ昨日の、妄想の続きみたいじゃないか。 俺が待てと言ってるのに、桃瀬は手際よくボタンを器用に外して、さっさと学ランを脱がした。「ほら、これはなんだ?」 目の前に突き出されたのは、さっきなにかに引っ掛けてしまった、外れかけの左袖のボタンだった。「そんなの家に帰ったら、親に直してもらうし、いいよ」 「ダメだ! 制服の乱れは、心の乱れだからな」 風紀委員長が言いそうなセリフを言い放ち、素早く自分の席に座ると、カバンからソーイングセットを取り出す。(どうしてコイツ、男子のクセして、ソーイングセットなんて持ってるんだ?) 俺の学ランから力任せにボタンを外して、器用に縫い付けていく姿は、まるで母親のよう。 その様子を扉の前で顔を引きつらせ、
last update最終更新日 : 2026-06-26
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Love too late:壊したくない距離感6
*** 桃瀬のアシストのおかげで編入二日目にして、クラスのヤツら全員と、仲良く打ち解けることができた。まるで元から、学園にいる錯覚をしてしまったくらい。 なので、みんなからの誘いを断れず、普段は進んで運動をしないのに、クラス対抗のサッカーも進んで参加してしまった。「学園にいるヤツらって、本当にアクティブ……。日頃の運動不足を思い知らされた」 能力別でクラスが分けられる個別指導塾で、机に突っ伏したまま、思わずグチってしまう。すでに体のあちこちから、筋肉痛という名の悲鳴がしていて、どこかを動かすたびに呻きたくなる痛みがした。 そんな痛みだらけの俺の肩を、遠慮なくポンポンと叩くヤツ――。「ヒッ!!」 「悪いっ、驚かせたか?」 筋肉痛のせいで痛みに顔を引きつらせた俺を、心配そうに覗き込む桃瀬がそこにいた。「いや、そんなんじゃないんだけど。今日から、ここに通うことにしたんだ?」 痛みのない首だけをゆっくり動かして桃瀬を見ると、困った顔で頷いた。「そうなんだけどさ。やっぱ、知り合いがいると安心できる。知り合いがいなかったら、この雰囲気に飲まれそうで、正直なトコ参っていたかもしれない」 「もしかして、俺と同じクラスなのか?」 能力別のこのクラスは、有名どころの大学を目指すべく、周りはとにかく必死こいて、黙々と勉強するヤツばかりだった。俺も最近レベルアップしたので、このクラスに入れたのに。(成績が落ちたから、塾に通うことにしたという桃瀬って、いったいどんな成績なんだよ!?)「ここで勉強する前に塾のテストを受けたら、ここのクラスに通うようにって言われた。そんでもって、これからやるって手渡されたテキストを見て、すっげぇ驚愕だったんだけど。こんな難しい問題、いつもやってんのか?」 桃瀬は俺の目の前で「ワケわかんねぇ」と言いながら、ページをめくっていく。「桃瀬、おまえの偏差値、どれくらいなんだ?」 正直、ショックだった。昨日今日と桃瀬の様子を見ていたけれど、授業中は積極的に手をあげていたわけでもなく、いたって普通だったし、休み時間も昼休みも教科書を開いていなくて、勉強をしているようには見えなかった。帰宅してからは自宅で、本を読んでると言ってたし。「偏差値? 覚えてないけど」(どうして、自分の偏差値を覚えていないんだよ!?)「な、んで?」 「なん
last update最終更新日 : 2026-06-27
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Love too late:遅すぎた恋心
 昨日、思いっきり桃瀬を傷つけてやった。俺としては、そう思ったのに――。「あ、周防おはよ!」 教室に入ると、いつものように話しかけてくる桃瀬に対して、どんな顔していいかわからず、固まることしかできない。桃瀬の態度に内心驚きながらも、小さく頷いて席に着いた。(――なんでだよ。どうしていつもどおりに、桃瀬はへらへら笑っていられるんだ?)「周防、話があるんだ。ちょっといいか?」 桃瀬はニコニコしながら傍にやって来て、俺の返事を待たずに、強引な感じで左手首を掴むと、さっさと椅子から引き上げ、教室から連れ出す。「おい、どこに行くんだ?」 話しかける俺の声を桃瀬は無視して、中央階段を勢いよく駆けあがり、どこかへ目指す。掴まれてる左手首に桃瀬の指先が、痛みを感じるくらいに皮膚に食い込んでいた。だけどイヤな感じは、まったくない。「桃瀬……」 薄暗い階段を一番上まであがって、突き当たりにある重い扉を開けたら、明るい日差しが突然目に飛び込んできた。屋上の空気はこれでもかと澄み渡り、微妙な俺の心を洗ってくれるようだった。 桃瀬は掴んでいる俺の手をそっと放し、心底済まなそうな顔をする。そんな表情を目の当たりにして、どんな顔をしていいかわからず、俯くことしかできない。「周防、無理に連れ出して悪かった。そこに座ろう」 桃瀬は屋上の隅っこにあるベンチに、そっと指を差す。桃瀬が座ってから、ひとり分空けて自分も腰かけた。 ふたりして並んで座ったのに、桃瀬は微妙な面持ちのまま黙り込む。俺もなにから話していいのかわからず、無意味な沈黙が延々と流れた。キーン、コーン、カーン、コーン♪ そうこうしているうちに、朝のホームルームを告げるチャイムが学校中に鳴り響いた。教室に戻らなきゃ――そう思うのに、体を動かすことができず、困って桃瀬を見た。ずっと前を向いていた桃瀬がゆっくりと首を動かし、俺の視線に絡めるように、じっと見つめる。 印象的な黒い瞳の中に、困惑した自分の顔が映っていて、なにか言いたげな桃瀬の様子を悟ったものの、先に口にせずにはいられなかった。「桃瀬、昨日は悪かったな。おまえが傷つくようなこと、ずばっと言っちゃって」 桃瀬みたいにいいヤツを、キモいなんていう言葉で傷つけるなんて、俺は最低の人間だ。「いいや、その……ズバリと指摘されて、ちょっとビックリしただけだし
last update最終更新日 : 2026-06-28
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Love too late:遅すぎた恋心2
自分の気持ちをうまいこと隠したまま俺は医大へ、桃瀬は県内にある有名大学にそれぞれに進学し、数年が経った。 高校時代の勉強とは質の違う覚えることの多さに、いろんな実習の毎日――内心ストレスを抱えつつ、どうにもならない恋に嫌気がさして、異性と付き合ってみたが、やはり長続きはしなかった。 互いの忙しさで逢う回数が少ないというのに、桃瀬との付き合いは相変わらず続いている。アイツの性癖を理解している、貴重な友人のひとりだからだろう。「ごめんね、けんちゃん。急にお友達が、ここに来ることになっちゃって」 「いいんだよ。すおー先生のお友達に逢ってみたいし」 実習で、小児科の患者をひとり任されていた。もうすぐ退院するコなので、少しずつ下界に慣らすべく、院内の散歩をしていたのだが――。 俺の忙しさを知っている桃瀬が、珍しく昼間に逢いたいなんていう連絡を寄越してきたので、木々の緑溢れる医大の中庭に呼び出した。 けんちゃんの小さな手を握りしめ、ゆっくりとした足取りで中庭に向かうと、ベンチに腰かけた桃瀬と目が合った。「周防、久しぶり! そうやって白衣を着ていると、すっかり病院の先生って感じだな」 木漏れ日溢れるベンチの下で長い足を組んで座り、印象的に映る瞳を細めてこっちを見てる姿は、格好いいしか言葉が出ない。 何気ないその様子に、胸がじんと疼いてしまった。「すおー先生のお友達、すっげぇカッコイイ!」 「でしょ、でしょー。自慢のお友達なんだよー」 「?」 いつもの俺らしくないしゃべり方を目の当たりにした桃瀬は、訝しげに顔を曇らせた。そんな彼の視線を受けるように、隣に座ってやる。けんちゃんは必然的に、俺の膝の上によいしょと座らせた。「周防の喋り方、いったいどうしたんだ? 勉強のし過ぎで、頭をどこかに打ちつけたのか?」 「そうそ、どっかにぶつけまくっちゃったって感じー!」 かみ合わない俺らの会話に、けんちゃんは「変なのー」って言いながら、お腹を抱えてゲラゲラ笑う。せっかく来たのに進まない話題に、イライラし始める桃瀬の表情が見てとれた。「悪い悪い。いつもの喋り方だと子どもたちに、怖いって怯えられちゃってさ。どうしたもんかなぁと考えて、試しにこれをやったら受け入れられたんで、こんなになっちゃったー」 「受け入れられたっていうより、顔とその喋り方のギャップだろ。
last update最終更新日 : 2026-06-29
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Love too late:遅すぎた恋心3
*** 待ち合わせした居酒屋で、無事に桃瀬と合流できた。テーブル席でにこやかに乾杯し、すぐさま話は桃瀬の恋バナになったんだけど。「俺のどこがダメかなんて、言うまでもないんだけどさ。どうしてこうも、うまくいかないんだろ……」 酒に強くない愛しの同級生は、あっという間に呑まれて、いつもと同じグチを言い出す。会社の呑み会のたびにこんな状態だと、間違いなく同僚に嫌われるであろう。「なぁ周防、聞いているのか?」 「聞いてる聞いてる。しっかり、最後まで聞いているからねー」 「先輩は、俺の体だけが目当てなんですねって言われてもさ。そうじゃないって否定したところで、全然信じてもらえなくて」 そしてまたこのパターンかよ。ちゃんと自分の気持ちを、相手に伝えてないから誤解を招くことになる。口下手というわけじゃないのに、どうも思っている気持ちを伝えるのが苦手な桃瀬。そういう不器用なところも俺からすると、結構かわいく思えるのに。 俺は冷たい生ビールを一口飲んで、小さなため息をついた。「周防ってば、ちゃんと聞いているのか?」 「ももちん、しつこい男は嫌われる元だよ。しかも何度、同じ過ちを繰り返しているのやら」 憐れな桃瀬の頭を、優しく撫でてやる。「……周防みたいに、俺のことをわかってくれるヤツ、いつか現れるんだろうか」 「さぁ、どうだろうねぇ――」 酒で真っ赤になっている顔を、微笑みを浮かべてじっと見つめた。 桃瀬の恋人なんて現れてほしくない、俺の傍にずっといてほしい。そんな想いを隠すための笑みを、桃瀬はどんな気持ちで見ているのだろう。「おまえに出逢えて、本当に良かったって思う。じゃなきゃ、この痛みに耐えられなかった」 「よく言うよ……」 俺たちの出逢いが、必然だったとでもいうのだろうか? それが好きな相手の失恋話を笑いながら聞くなんていう、ドMな作業をするためだったなんてことないよな。 なにかをぶつぶつ呟いてテーブルに突っ伏した桃瀬を、恨めしげに眺めてから、よっこらせと背負う。これもいつも通り。 愛しい人を背負って、その重さを噛みしめながら、ゆっくりと帰路にたどり着いた。
last update最終更新日 : 2026-06-30
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Love too late:遅すぎた恋心4
自宅に着いてリビングに桃瀬を降ろし、俺のパジャマに着替えさせる。医療従事者で良かったと思うのは、こういう作業を難なくこなせてしまうことだろう。 桃瀬は病人で動けない状態。そんなヤツを俺は看病すべく、パジャマを着せている――なぁんて強引な設定を考え、不埒なことをしないように、さっさと作業を終えた。「せーの、よいしょ!」 掛け声をかけて、くたくたの桃瀬を担ぎベッドに放り出す。結構乱暴に放り出したのに、まったく起きる気配がない。「それだけ桃瀬の傷が深かった……ということなんだろうな」 浴びるように酒を呑み、ひとりで愚痴り倒して、言いたいことを言い尽くし、死んだように寝てしまった桃瀬。俺は仲のいいただの友達だから、おまえはなんだって言えるんだろうけど正直、この状況はつらい。ずっと好きだったんだから、なおさらなのにな。「郁也……」 ベッドに腰かけて、桃瀬のシャープな頬のラインを、右手人差し指でそっと撫でる。そしてそのまま、唇をなぞるように触れてみた。 ――しっとりとしていて、柔らかい。 胸の奥がきゅっと疼いて思わず、引き寄せられるように顔を近づけキスをする。「んっ!」(わっ、バレた!) 鼻にかかったような甘い声を出した桃瀬に驚き、すぐさま唇を離そうとしたら、躰に桃瀬の両腕が巻きつき、あっという間に部屋の景色が一転した。目に映るものは、寝室の天井と桃瀬の顔。 触れるだけだったキスが、そのままどんどん深いものへと変わっていく――吸いあげられながら舌を絡め取られるだけで、俺を求めるコイツを拒むことなんてできない。 むしろ――。「っ……ンンっ」 むしろ、もっと俺を求めてほしい――愛してほしい……。「も、桃瀬っ……」 キスから解放されて喘ぐように、愛しい人を呼んでしまった。そんな俺の声に答えず、桃瀬は首筋をなぞるように舌を這わせつつ、両手を使って服の上から俺の躰をまさぐる。触れられたところから熱を持ちはじめるせいで、じわりと熱くて堪らなくなっていった。(なんだ、これ――大好きなコイツにこうして触れられるだけで、胸の中に甘い疼きが、こんこんと沸きあがっていき、どうしようもないほどのしあわせを噛みしめてしまうじゃないか)「あぁっ、はぁ……」 俺の心と体が、桃瀬を求めていく。 しかし酔った勢いなのか、寝呆けているのかわからない桃瀬に、このまま抱
last update最終更新日 : 2026-07-01
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