LOGIN親友に実らない片想い中の俺の前に現れた年下の大学生――運命の相手 は誰なんだろうか。 アレルギー専門の小児科医院を経営している周防武。 秘かに想いを寄せる高校からの親友が、以前恋していた相手と再会する衝撃的な場面に立ち合い、心の傷をさらに深く負った。 失恋して間がなく、「自分は重病人だ」と言い張る名前を絶対に名乗らないひとりの大学生と出逢い、ひょんなことから面倒を見ることになったことが、はじまりだった。
View More運命の人は、この世にふたりいるらしい。ひとりめで人を愛することと失うつらさを知ったのちに、ふたりめで永遠の愛を知るという。
だがそんなのは嘘っぱちだ。だって俺の場合、後にも先にも進まないのだから。
実らない恋愛だとわかっているのに、どうして諦めきれないのだろう。手を伸ばせば届きそうなのに、寸前のところで相手と俺の未来に不安を覚えた瞬間、思いっきり躊躇して固まったように動けなくなってしまう。
だから彼は、俺の手の届かない遠くへ行ってしまった。
俺が経営する病院に急患を持ち込んだ、同級生の桃瀬とその患者が、仲良く並んで挨拶してくれた。
「周防悪かったな。おまえの病院は小児科なのに、大人の急患を持ち込んで」
「本当にありがとうございました。死にそうなくらい具合が悪かったのに、一気に治せちゃうなんて、すごいです!」目と目を合わせてほほ笑み合いながら俺に告げる、ふたりの仲のよさで、なるようになったと安堵した。
俺は彼らにつられるように瞳を細め、ニッコリと笑い返してやる。まさか何十年前の恋が叶った瞬間に、自分が立ち合うことになろうとは、夢にも思わなかった。
(あ、でもなんとなくだけど、当たり前のような奇跡にも感じる。桃瀬が心の奥底で、無意識にずっと彼を想っていて、彼に似たような相手ばかりを恋人にしていた、そんな気がする)
だから俺がどんなに想っても、アイツの好みじゃないせいで親友どまり。どんなに好きになっても、けしてこの想いは届かない。
病院を去っていくふたりの後ろ姿に、そっと手を伸ばす。もう何度目だろうか。溢れ出しそうな気持ちをぐっと噛み殺して、桃瀬が他の誰かと歩いていく姿を、こうやって眺めるのは。
燃えるような夕焼けの中、影が長く伸びる。あっちは仲良くふたり分の影が伸びて重なり、俺の背中には寂しくひとり分の影。それがまるで、未来の自分の姿であるように思えてならなかった。
店内でのやり取りを想像しただけで、自然と笑みが浮かんでしまった。そんな俺の左腕を、強引に自分に引き寄せた歩。「うわっ!?」 胸元に飛び込んだ体を、ぎゅっと抱きしめてくれる。胸の高鳴りを知られたくなくて、慌てて両腕を使い、なんとか抵抗しようとしたけど、全然ビクともしなかった。「なに、赤い顔しながら抵抗してんだ、タケシ先生」 「ま、まだ片づけが終わってないのに……」 「タケシ先生が俺のことを考えながら畳んでる間に、ベッドの上をキレイに片付けました」 「……なっ!?」(――なんで歩のことを考えてるってバレてんだよ) 口をパクパクさせてる俺を見て、歩は心底おかしそうに笑う。「目尻をデレデレ下げて、楽しそうな表情をしていたら、誰でもわかるっちゅーの。大方、俺とのデートシーンでも考えていたんだろうな」 言い終わらない内に抵抗していた両腕を掴み、引き上げるとそのままベッドに押し倒す。「もう、ぜってー逃がさない」 囁くように言うと、唇を合わせてきた。高台で俺が歩にしたキス――舌を甘噛みされた瞬間、胸の奥がきゅっとしなる。その後におとずれてきた、呼吸を奪う荒いキスに、体がどんどん熱くなっていった。「はぁ、あっ……んぅ……」 大好きな歩に求められ、普段はあげないような鼻にかかった声を出してる自分。素直になるにはまず、テレをなんとかしなければならないな。「なぁ……もっと教えてよ、タケシ先生のこと」 「な、にを?」 「他にどんなことをすれば、感じさせることができるのかって」 濡れているであろう唇を、右手人差し指でそっとなぞられる。それだけなのに感じてしまい、ゾクゾクしてしまった。 お返しといわんばかりに、なぞっていた歩の手を掴んで人差し指を口に含み、音をたてて食んでやる。 ――簡単には、教えてやらない……。「ちょっ、その顔すっげぇ反則。かわいすぎるんだけど」(おまえを感じさせたいから、教えてやるもんか)「俺のことを感じさせたいなら、自分で探せバカ犬」 歩は挑戦的な俺の言葉に目を細めてから、両手の関節を鳴らした。「じゃあ遠慮なく探して、感じさせてやるよ!」 ムダにでかい声で宣言し剥ぎ取る勢いで、俺の服を脱がしにかかる。「おっ、おいこら! 服が破れる破れる! 丁寧に扱えって高いんだぞ、これは!!」 「いいじゃん、そんなの。破れたら買っ
歩は力なくグッタリした俺を担いだまま扉を開け、パッと電気を点けた。「うげっ! なんだよコレ……泥棒にでも入られたのか?」 「……見てわかっただろう。さぁ引き返せ、今すぐに!」 「その前に説明しろって。キレイ好きのタケシ先生がこんなに散らかすなんて、らしくないよ」 突っ込んでほしくないトコ、いつも指摘するなんて。少しは見逃すことを覚えてほしいのに。しかも担がれたままって、なんの拷問なんだか。ただでさえこの状況を見られてハズカシさの極みで、余計頭に血がのぼってしまう。「らしくなくて当然だろ。はじめておまえの通ってる大学に顔を出すんだし、久しぶりに逢うんだから」 ベッドの上や床に散乱したままの、朝のファッションショーの服。すぐに片付けられなくて、帰ってきてから整理しようと、そのままの状態だった。ただ、散らかしているだけじゃない。その理由を知られて、恥ずかしくないヤツがいるのなら見てみたい。 俺が告げた力ない言葉を聞き、歩はゆっくりと床に下ろしてくれた。そしてわざわざ頭の先から足先まで、俺の姿を見つめる。「ただ俺に逢うだけなのに、こんなに散らかして、なにやってんだタケシ先生」 「笑ってくれ。なにを着ても変わらないのがわかっているのに、バカみたいに舞いあがってさ。ハハハ……」 「すげぇキマってる。さすが俺の恋人って感じ」 歩の言ってくれた言葉が、じんと胸を疼かせた。それと同時に感じる、頬を染めあげる熱――どうしていいかわからず、瞳が忙しなく動いてしまった。 恥ずかしくなって背中を向けると、後ろからぎゅうっと体を抱きしめられる。「寝室に入らなかったらタケシ先生のキモチ、全然わからなかった。どうして隠すんだよ? 俺は全部知りたいっていうのにさ。今だってそうやって、かわいいい顔を隠そうとしちゃうし」 「やっ、だって……らしくないトコ、見せたくなくて。まるで俺がおまえに――」 「ん。わかってる、バレバレだし。耳まで赤くなってる」 甘ったるい声で囁いたと思ったら、首筋にキスを落とした。「くっ、いきなりなにするんだ!?」 「だって、こっち向いてくんないから仕方なく、目の前にあるものにキスをしただけだよ。俺のだって印、つけたいし」 耳元で囁くと、同じところに噛み付くようなキスをした次の瞬間、肌に残るであろうチリッとした痛みが走った。「こらっ、目立
仲良く手を繋いだまま家の中に入り、階段を上がってリビングに足を踏み入れたときだった。「あ、スマホが鳴ってる」 歩は渋い顔をしながら制服のポケットからスマホを取り出し、無言で出る。しかも、耳からスマホを遠ざけた状態で。『おに~ちゃんっ! 今、どこにいるの?』 ――ああ、妹さんが心配して電話をかけてきたのか。「うっせぇな。落ち着けって……学祭が盛りあがっちゃって、今夜は友達の家に泊まるから」 俺の顔をチラチラ見ながら、歩は意味深に笑った。今夜は泊まるって、つまりアレだしな。『ウソついてもバレバレなんだからね! お兄ちゃん、すおー先生の家にいるんでしょ』 「なっ、なんで?」 スピーカーにして話をしていないのに、兄妹の会話が筒抜けって何気にすごいな。しかもウソが簡単にバレるとなると、お兄ちゃんは大変だ。 いつも自信満々な歩が、小さい妹にやられてる姿はかなり貴重なもので、口元を手で覆って笑いを必死になって堪えた。『だって友達の家に泊まるとき、ちゃんと誰々って名前を教えてくれるのに、今は言わなかったから』 「やっ、それは大人数で、まだどこに泊まるか決まってなくて……」 『茜にウソついてもムダだよ』 その言葉に、ウッと息を飲む歩。バカ犬の素直さを、こういうところで発揮して、どうするんだか。 俺は頭を掻きながら思案して、目の前にあるスマホを迷うことなくひったくった。ギョッとした歩を無視し、勝手に話し出す。「茜ちゃん、こんばんは。久しぶりだね」 『わっ!? すおー先生』 「茜ちゃんのお兄さん、ずっと学祭で忙しかったでしょ?」 『うん。帰ってくるのが遅くなってた』 やっぱり心配してるんだな、兄思いのいい妹じゃないか。 ほほ笑みながら歩を見ると、テレながら人差し指でポリポリ頬を掻いていた。「今日、病院がお休みだったから、お兄さんの高校に行ってみたんだ。そしたら、顔色が結構悪くなっていたの。それで検査を兼ねてウチに泊まってもらおうと、さっき決まったんだ。茜ちゃんに心配かけたくなくて、お兄さんはウソを言っちゃったんだよね」 『そうだったんだ。お兄ちゃん、大丈夫ですか?』 「うん、大丈夫なようにちゃんと検査して、お薬を出しておく。元気になって、帰ってくるからね」 『お兄ちゃんを、よろしくお願いします』 しっかり挨拶をして電話を切った、しっ
*** やりすぎた――反省してもとき既に遅し……。 いくら恥ずかしかったからって、横っ面を思いっきりクリーンヒットさせる恋人は、俺くらいしかいないんじゃなかろうか。 痛めた頬を撫でながら、怒って先に帰ってしまった歩。せっかく仲直りできたのに、俺はなにをやってんだろ。 ガックリと肩を落してベンチから腰をあげ、俯きながら階段に向かって歩いて行くと、目に映る細身のシルエット。 ゆっくり視線をあげて、シルエットの正体を見つめた。「……歩?」 口を尖らせて、明らかに怒ってますという表情を浮かべているのに、左手を差し出してくれる。(差し出しているのは、なぜか左手人差し指なんだが……。これって地面に指を差してるワケじゃないよな?) まじまじと地面を見て確認してみたが、なにも落ちてるものはない。「タケシ先生、んっ……」 歩は不機嫌な声色で、人差し指を俺に向かって伸ばした。どうしようかと思いながら、恐々と右手で指先を掴んでみる。爪先をちょっと摘んだ感じ。 すると、それを合図に歩き出した。微妙な感じで摘んだまま、トボトボと後ろを歩く俺。 ――なんなんだ、この絵面。おかしすぎるだろ。指先1本に連れられるっていったい。普通なら洋服の裾なんかを掴んで、嬉しそうに歩くものじゃないのか!? 目の前にある大きな背中と、繋がれてる指先をチラチラ見比べながら、ゆっくりと階段を下りる。 どうして俺たちは高台から帰るときって、いつもケンカばかりしているんだろうか。朝焼けや夜景を見てる最中は、いい雰囲気なのに。 だけどいつもなら俺を置いて、ひとりで帰ってしまう歩が待っていてくれた。怒ってはいるけど手を差し伸べて、俺と一緒に帰っている。正確には、左手人差し指だけど。 それだけでも、嬉しさが胸の中に湧きあがってきたのに、残念なことにそれを伝える術がないから、一生懸命考えてみた。(そうだな。せめて少しでもいいから、接触している部分を増やしてやろう) ちょっとずつ摘んでいるところを開拓すべく、親指と人差し指を使って、じりじり移動させ、手のひらで包むことに成功。歩の指をぎゅっと握りしめてやる。そしたら親指の腹を使って、俺の手の甲をスリスリと撫でてくれた。その感じがなんだか、犬が喜んでしっぽを振ってるみたいに見えた。 たったそれだけのことなのに、俺のキモチが伝わったみたいで、す