宗一郎は立ち上がり、窓辺へと歩み寄って鷹斗に背を向けた。その声は沈み、微かな疲労が滲んでいた。 「儂も年をとった。最近はすっかり体が弱ってな。あと何年持つか分からん。今回お前に手を貸したのは、雅也の顔に免じてのことでもあり、お前自身にそれなりの力があると見込んでいるからだ。だが、次はないと思え」 宗一郎は振り返り、刃のように鋭い視線を鷹斗へ真っ直ぐに向けた。 「もし次また同じようなことが起きれば、儂の非情さを恨むなよ。その時は、歩を捨てて飛車を生かすような真似をするしかなくなる」 『歩』が誰を指し、『飛車』が誰を指すのかは、言うまでもない。 鷹斗は答えず、ただ静かにそこに座っていた。 「もういい、下がれ。スマホを忘れるな」 宗一郎は机の上のスマートフォンを前に押しやり、手で払うようにして退室を促した。 鷹斗はそこでようやく立ち上がり、机の前に進み出てスマートフォンを手に取ってポケットに突っ込むと、きびすを返して書斎を後にした。 書斎を出た後、鷹斗は真っ直ぐ寝室へ戻り、ベッドの縁に腰掛けてポケットからスマートフォンを取り出した。画面が明るくなった瞬間、彼の指の動きがピタリと止まった。 アドレス帳から、『澪』と登録されていた番号が消え失せていた。LINEの友だちリストからも、澪のアイコンが跡形もなく消えている。 まるで、彼の世界から完全に抹消されてしまったかのようだった。 寝室のドアがそっと押し開かれ、怜が顔を半分覗かせた。 「お兄ちゃん……大丈夫?」 怜の姿を見た瞬間、鷹斗の表情がわずかに緩んだ。 「ああ、何とかな。
Last Updated : 2026-09-19 Read more