All Chapters of 誕生日の夜、恋人と家族に見捨てられ、偽物の姉に人生を奪われた本物の令嬢は、復讐のために生き直す: Chapter 181 - Chapter 190

199 Chapters

第181話

宗一郎は立ち上がり、窓辺へと歩み寄って鷹斗に背を向けた。その声は沈み、微かな疲労が滲んでいた。 「儂も年をとった。最近はすっかり体が弱ってな。あと何年持つか分からん。今回お前に手を貸したのは、雅也の顔に免じてのことでもあり、お前自身にそれなりの力があると見込んでいるからだ。だが、次はないと思え」 宗一郎は振り返り、刃のように鋭い視線を鷹斗へ真っ直ぐに向けた。 「もし次また同じようなことが起きれば、儂の非情さを恨むなよ。その時は、歩を捨てて飛車を生かすような真似をするしかなくなる」 『歩』が誰を指し、『飛車』が誰を指すのかは、言うまでもない。 鷹斗は答えず、ただ静かにそこに座っていた。 「もういい、下がれ。スマホを忘れるな」 宗一郎は机の上のスマートフォンを前に押しやり、手で払うようにして退室を促した。 鷹斗はそこでようやく立ち上がり、机の前に進み出てスマートフォンを手に取ってポケットに突っ込むと、きびすを返して書斎を後にした。 書斎を出た後、鷹斗は真っ直ぐ寝室へ戻り、ベッドの縁に腰掛けてポケットからスマートフォンを取り出した。画面が明るくなった瞬間、彼の指の動きがピタリと止まった。 アドレス帳から、『澪』と登録されていた番号が消え失せていた。LINEの友だちリストからも、澪のアイコンが跡形もなく消えている。 まるで、彼の世界から完全に抹消されてしまったかのようだった。 寝室のドアがそっと押し開かれ、怜が顔を半分覗かせた。 「お兄ちゃん……大丈夫?」 怜の姿を見た瞬間、鷹斗の表情がわずかに緩んだ。 「ああ、何とかな。
last updateLast Updated : 2026-09-19
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第182話

タクシーは、西橋町の裏路地にひっそりと佇むラブホテルの前で停車した。 入り口は狭く、看板には怪しげなピンク色のネオンでハートマークが描かれている。こういう場所の最大の利点は、名前も聞かれず、素性も詮索されないことだ。支払いも簡素で、互いの事情に深入りせず、ただ目的を果たすためだけの空間が提供される。 修が澪を抱き抱えたまま受付に入ると、フロントの従業員は顔を上げることすらなく、ただ機械的な動作でルームキーと料金表を差し出してきた。 「ご利用は休憩ですか、それともお泊まりですか?」 修は一瞬ためらったが、「泊まりで」と短く答えた。 「一泊15000円になります」 修は財布を取り出し、紙幣を数枚抜き取ってカウンターに叩きつけた。従業員はそこでようやく重い瞼を上げ、澪の蒼白な顔に1秒だけ視線を留めた。 「お飲み物はお部屋へお持ちしましょうか?酔い覚ましのお茶やホットココア、それから――」 「解熱剤と氷はあるか」 修は言葉を遮った。 「ございます。後ほどお部屋へお持ちします」 修はルームキーを掴み取り、澪を抱えたままエレベーターへと向かった。 エレベーターの扉がゆっくりと閉まり、ロビーの淫靡な照明と空気を遮断した。修は腕の中の少女を見下ろした。澪の睫毛は微かに震え、眉間には深い皺が寄っている。時折、意味の分からない寝言を漏らしていた。 修はふと、喉の奥が引き締まるような感覚を覚えた。 修は自分自身に言い聞かせた。あいつをこんな場所へ連れてきたのは、決して何かをするためではない。ただ静かな場所を探して、ずぶ濡れの服を着替えさせ、布団に包んで温かい白湯を飲ませ、熱が下がるのを待つためだ。ただそれ
last updateLast Updated : 2026-09-20
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第183話

ブレザーを脱がせるのは案外スムーズにいった。下に着ている白いブラウスはずぶ濡れで、布地が肌にぴったりと張り付き、肩紐の輪郭がうっすらと透けて見えていた。修の視線はそこへ1秒も留まることなく、慌てて目を逸らした。耳の先は血が滴るほどに真っ赤に染まっている。 修はバスタオルを澪の体に巻きつけたが、その動作はまるで爆弾を処理しているかのように不器用だった。 「よし、これで……」 その言葉が終わらないうちに、澪の体がビクッと震えた。澪は体を丸く縮こまらせ、歯の根が合わずにカタカタと小さな音を立て始めた。顔色は青白く、唇は紫色に変色している。エアコンの暖房の風を浴びているにもかかわらず、その体はコントロールを失ったかのように震え続けていた。 「寒い……」 その声はひどく細く弱々しく、まるで遠くから漂ってきたかのようだった。 修の心臓がギュッと締め付けられた。掛け布団を引き寄せ、澪の体をすき間なく包み込み、さらにその上から自分のブレザーを被せた。 それでも澪は震えを止めず、小さく丸まっていた。 修は唇を噛み締め、ベッドの脇で数秒間立ち尽くした後、布団をめくって自らもベッドへ潜り込んだ。 手を伸ばし、澪を自分の胸の中に抱き寄せ、自らの体温で温めようとした。 澪の体は氷のように冷たく、バスタオルとブラウス越しにも、ひどく震えているのが伝わってきた。 修は布団を引き上げ、2人ごとすっぽりと包み込むと、澪の頭のてっぺんに顎を乗せ、静かに目を閉じた。 「……もう大丈夫。俺がいる」 修の声はひどく掠れていた。 腕の中の少女は
last updateLast Updated : 2026-09-20
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第184話

1時間後、ホテルのバスルームからシャワーの水音が聞こえてきた。 やがて水音が止む。修はバスタオルを腰に巻き、濡れて水滴の滴る黒髪のまま姿を現した。 暗闇の中、修は無表情でベッドの傍らに立ち、横たわる女を冷ややかに見下ろした。 澪はまだ意識を失っており、呼吸はいくらか落ち着いていたが、頬には不自然な赤みが差している。 修の口角が歪み、不格好な笑みを浮かべた。 この女を手に入れたというのに、なぜか計画が成功したことへの得意げな感情も、密かな喜びも一切湧いてこなかった。ただ胸の奥が重苦しく、ひどく塞ぎ込んでいる。 それどころか、微かな自己嫌悪を伴う悲哀すら感じていた。 修は頭を振り、鳥の巣のようにボサボサになった髪を乱暴に掻き回すと、きびすを返して窓辺へと歩いた。ズボンのポケットから煙草を1本取り出し、口にくわえる。 大人の真似事をしてライターで火をつけたが、一口吸い込んだだけでひどくむせ返り、顔をしかめた。 それでもやめず、立て続けに煙を肺へと流し込んだ。吸い殻の熱が指先に伝わってくるまで吸い続けると、ようやく窓枠に押し付けて火を揉み消した。 その時、ふいにナイトテーブルの上が光った。 澪のスマートフォンの画面が明るくなったのだ。 修は歩み寄り、スマートフォンを手に取った。ロック画面には、メッセージのプレビューが表示されていた。 【澪、君に話があるんだ。少し会えないかな。鷹斗】 差出人は見知らぬ番号だった。 修の顔色がどす黒く沈んだ。 修は、画面が自動的に暗転するまで、そのメッセージをじっと見つめていた。
last updateLast Updated : 2026-09-21
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第185話

部屋の中は暖房が効きっぱなしで、甘ったるい香水の匂いと、何とも形容しがたい空気とが入り混じって充満していた。鷹斗の視線は、真っ先にベッドの上へと向けられた―― 澪がそこに横たわっていた。白い布団に包まり、顔の半分だけを覗かせている。髪は枕の上に散らばり、顔色は青白かったが、呼吸は規則正しかった。 鷹斗が近づきながらナイトテーブルへ視線を走らせると、そこにはスマートフォン、シート状の解熱剤、そして半分ほど空になったミネラルウォーターのボトルが置かれていた。 澪は……具合が悪いのか? 鷹斗はベッドの縁に腰を下ろし、手を伸ばして澪の額に触れた。 よかった。熱は下がっている。 ほっとして胸をなでおろしたが、直後にもっと複雑な感情に支配された。なぜ澪が一人でラブホテルの部屋に寝かされているんだ?昨夜、一体何があった?なぜ熱を出している? その時、ベッドの上の澪がふいに身じろぎした。 --- 澪は、奇妙な温もりの中で目を覚ました。 長い夢を見ていた。夢の中で誰かに抱きしめられていた。その人の胸板は広く、体温は高く、まるで巨大で安全な熱源のように、自分を氷のように冷たい深淵から少しずつ引き上げてくれた。 鉛のように重い瞼を、それでも懸命に持ち上げる。 ぼやけていた視界が徐々にピントを結び、ひとつの顔が映し出された。 鷹斗がベッドの脇に座り、こっちを見下ろしていた。目の下には薄く隈ができ、顎にはうっすらと青ひげが伸びている。ひどく疲弊しているようだったが、澪を見つめるその瞳には、馴染みのある、安心させるような温もりが宿っていた。 「……鷹斗さん
last updateLast Updated : 2026-09-21
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第186話

だが、鷹斗はそれ以上深く追及しなかった。高熱の治りかけで、まだ意識がはっきりしていないのだろうと考えたのだ。 鷹斗はそう言って、スマートフォンの画面を澪の目の前で軽く揺らしてみせた。 「君から位置情報が送られてきたんだ。ここへ着いてみたら鍵が開いていたから、勝手に入らせてもらったよ」 澪は布団を上まで引き上げ、顔の半分を隠してくぐもった声を出した。 「私……たぶん、熱で頭がおかしくなっていて……その……ごめんなさい、昨日の夜、私……」 鷹斗は手を伸ばし、布団越しに澪の背中を優しく撫でた。 「いいんだ、気にしないで。昨夜はひどい土砂降りだった。雨に濡れて熱を出し、自分が何をしたのか覚えていないだけだろう?」 澪はどうしていいか分からなかったが、それでも鷹斗の言葉に合わせるようにコクンと頷いた。 「たぶん……そうだと思う。ごめん、迷惑をかけて……」 「迷惑だなんて、とんでもない」 鷹斗は微かに微笑んだ。その瞳の奥には、水面のように静かで柔らかな感情が揺蕩っている。ただ、怜にメッセージを送らせてよかったと心底安堵していた。そうでなければ、澪がこれほど酷い熱を出していることすら知る由もなかったのだ。 ここへ来る道すがら、鷹斗は多くのことを考えた。 宗一郎の考えには賛同したくなかった。あの老人は一見物分かりが良さそうに見えて、その実、言葉の端々にまで計算が張り巡らされている。 だが、一点だけ、鷹斗も認めざるを得ないことがあった。 
last updateLast Updated : 2026-09-22
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第187話

鷹斗は澪を凝視し、思考が一瞬完全に停止した。 「……詳細を聞かなくていいのか?」 澪は顔をぷいと背け、耳の先まで真っ赤に染めていた。 「だって、本当の結婚じゃないでしょう?ただの契約なんだし。その、『詳細』なんて言われても……私、まだ高校生だから、そういうことはよく分からなくて」 鷹斗の眉間の皺が、さらに深くなった。 何かがおかしい。いつもの澪とは全く違う。 それに、顔まで赤くしている。 鷹斗はふとある可能性に思い至り、体が微かに強張った。 ――まさか澪は、俺の言った『詳細』という言葉を、夫婦の夜の営みのことだと勘違いしているのではないか…… 鷹斗の声が急に真面目なトーンに変わった。 「俺の言う契約がどういう意味か、本当に分かっているのか?」 澪は緊張したように、布団の端をきつく握りしめた。 「分かってるよ。 要するに……そういうことでしょ」 「そういうこと、とは?」 澪の顔は限界まで赤くなり、しばらく口ごもっていたが、やがて自暴自棄になったかのように勢いよく布団を跳ね除けた。 「だから……夫婦間で、するべきことっていうか。 あーもう、まどろっこしいわね!変に隠し立てするのはやめよう。事ここに至っては、お互い包み隠さずいこうよ。 安心して、私はそんな面倒な女じゃないから。責任を取っ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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第188話

澪はこくりと頷いた。 「夫婦の間なら、何か話したり、それらしいことをしたりするものだよね……私、経験がないから、何も分からなくて……」 「奇遇だな。経験がないことにかけては、俺も負けてない」 「じゃあ、私たちは未経験の初心者夫婦ってこと?」 鷹斗はからかうように笑みを浮かべた。 「後悔したか? 今ならまだ間に合うぞ。指輪を返してくれれば、何もなかったことにしてやる」 そう言いながら、鷹斗は澪の指輪を奪い取ろうとする素振りを見せた。 澪は無意識に身をよじり、手を胸元に隠した。 「ちょっと!私のことからかってるの?一度言ったことを取り消すなんて、ずるいよ」 至近距離で二人が押し問答をしているうちに、鷹斗の腕が偶然にも澪の肩を抱き寄せる形になり、そのままベッドのヘッドボードに押し付けてしまった。 鷹斗の呼吸が一瞬止まった。 澪はこのあまりにも親密な距離に対して、一切の拒絶を示さなかった。それどころか、両手で指輪をきつく覆って胸に押し当てたまま、鼓動を激しく早め、理由もなく呼吸のリズムまで乱していた。 澪は鷹斗の顔がゆっくりと近づいてくるのを見つめながら、いつでもストップをかける権利が自分にあることを理解していたが、あえて止めようとはしなかった。 ただ静かに両目を閉じ、鷹斗の唇が音もなく重なるのに身を任せた。 その唇は清冽な泉のように涼しく、雲のように軽く、そしてほんのりと淡い煙草の香りがした。 だが、そのキスはあまりにも短く、澪が我に返る間もなく、鷹斗
last updateLast Updated : 2026-09-23
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第189話

「澪は本当に運がいいわね。真島家の跡取りだなんて、普通の人には高嶺の花ですもの」 リビングでは笑みを浮かべ、澪を祝福してみせた綾音。だが、背を向けた瞬間に顔から急速に笑みが消え失せ、瞳の奥に冷酷な光を宿した。 自室に戻るなり鏡の前に立ち、そこに映る一切の欠点のない己の顔を見つめていたが、突然机の上の香水瓶を掴み取り、鏡に向かって叩きつけた。 どうしてよ。あの田舎育ちの野蛮な女が、修をたぶらかしただけじゃ飽き足らず、よりによって真島家の跡取りまで言いなりにさせるなんて。 噂は瞬く間に学園中を駆け巡り、激しい波紋を呼んだ。 澪の中指にはめられた指輪がクラスメイトの目に留まり、学校の裏掲示板には憶測が飛び交うスレッドがいくつも立てられた。 『神崎澪、真島家の跡取りと交際中か?』『検証:澪の指輪について』といったタイトルが並び、何が写っているのかほぼ分からないほどぼやけた盗撮写真まで添えられていた。 修もその写真を目にした。どこかの角度からこっそりと撮られたもので、画面の中の澪は横を向いており、中指には淡く光を反射する輪がはめられている。そこに添えられた文章はただ一言。 【もうすぐおめでたい話が聞けそう?】 修は画面の指輪を、長い間じっと見つめていた。胸の内は、自分自身が想像していたよりもずっと穏やかだった。 修は沈黙したまま窓の外へと視線を向け、周囲のひそひそ話の中でも顔色一つ変えずに校舎の廊下を通り抜けていく澪の姿を見つめた。 その手には、まだあの動画が握られている。あのホテルの部屋で録画した、すべてをぶち壊すのに十分なほどの破壊力を持った証拠が。 あの動画さえ世に放てば、澪が一体誰の女なのか、全世界に知らしめることができる。 
last updateLast Updated : 2026-09-23
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第190話

「私は買い物のことを言ってるんだけど、あんた、何か変なことでも想像した?」 理奈は無邪気な笑みを浮かべて言った。 「……先輩!わざとでしょ!」 澪は言い合う二人を見て、やれやれと首を振りながらも、自然と口角が上がっていた。こういう平凡で、騒がしくて、何の打算もない時間は、彼女にとってどんな宝石よりも尊いものだった。 三人は最終的に、商店街の角にあるティーサロンに落ち着いた。全面ガラス張りの窓の外には行き交う人々の波があり、店内には軽快なジャズが流れ、空気には紅茶と焼き立てのスコーンの香りが漂っていた。 席についた途端、澪の視線はふと斜め前方のテーブルに引き寄せられた。 鷹斗がそこに座っていた。向かいには身なりの良い中年女性がおり、二人の前には何冊かの書類が広げられ、どうやら真剣な仕事の話をしているようだ。 今日の鷹斗はパリッとしたスーツに身を包んでおり、リラックスしつつも集中した様子で、時折ペンで書類に何かを書き込みながら、顔を上げて相手と会話を交わしていた。 「……ねえ、何見てるの?おや、ずいぶん奇遇じゃない」 理奈は澪の視線の先を追い、片眉をひょいと持ち上げた。 彼女はわざと語尾を伸ばし、意味ありげに澪をちらりと見た。 澪はすぐさま視線を外し、うつむいてカップの中の紅茶をかき混ぜた。 「変な想像しないで。たぶん仕事の話をしているだけだから」 「私、何も言ってないけど?何をそんなに焦ってるの?」 理奈が意地悪く笑う。 「焦ってなんかないわ」 ち
last updateLast Updated : 2026-09-24
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