All Chapters of 私を刑務所へ送り込んだ夫が、今さら執着するなんて: Chapter 31 - Chapter 40

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第三十一話 久しぶりの二人だけの時間

 ぼんやりとしか見えない視界を閉じないよう、凜華は目を開けていた。 涼真に何をされるのかわからない。 涼真を信じてはいけないという防衛本能が必死に働く。 しかし身体が脳からの指示を適切に受け取ることができないほど、身体は動かない。 涼真に運ばれるがまま、たどり着いたのは、病院だった。(ここは、涼真が働いている病院……?)(個室ではなく、かなり広い病室だわ) 首をわずかにしか動かせない凜華は、ベッドの上で横にされている。 白衣を着て現れた涼真は、医師そのものだった。「血液検査をするぞ」 涼真はか細い腕へと注射器を指す。(どうしよう。保険に入ってないから、すべて実費で支払わなくてはいけない) 口座を凍結された凜華は、保険料すら仕方がなく滞納していた。(そうだ。日葵は、どこにいるの?) 試験管三本ほど血液を採取した涼真は、となりにいた看護師に渡し、検査に出すよう指示をしている。「……。日葵は……。どこ?」 病室の中、涼真と二人きりになった凜華は不安そうに問いかける。「別室にいる。熱がある凜華と一緒にしておくのは、危険だろう?」 涼真の言うその通りだ。まだ抵抗力のない乳幼児を凜華と一緒の部屋で過ごさせるのは危険。 涼真の返事に凜華は小さく頷いた。「検査の結果は出ていないが。あんに不衛生な住環境と過酷な労働、それに栄養がない食事を摂っていれば、身体も限界を迎えるだろう」「一流の医師であったお前なら、こうなることくらい予想できたはずだ」 涼真はベッドサイドに置いてあるイスに座り、ため息をつきながら凜華へと語りかけた。 凜華は涼真の言葉を黙って聞いている。「私のすべてを奪っておいて……。よくそんなことを言えるわね」 力の入らない拳を握りしめ、瞳からは涙が流れていた。「あなたが私のことを売ったんでしょ。そのせいで私は罪人に仕立て上げられた」「刑務所に入っていなかったら、こんな生活にはなっていないわ」 もっともっと涼真に対する恨みつらみを大声で吐露したい。 今の凜華にはそのような元気もなく、声も絶え絶えで枯れている。「凜華……。俺のところへ来い。そうしたらこんな生活をしなくてすむ。娘も一緒に」 凜華が出所してから、はじめてゆっくりと二人だけで話す時間だった。(恨まれているのは知っている。何年かけようが、俺のものにしてみ
last updateLast Updated : 2026-07-20
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第三十二話 どうして――? 思い通りにいかない二人

「直哉さん、どうして最近すぐに返事をくれないの?」 灰原唯衣は、直哉の勤める病院まで来ていた。 面会室で待たされ、遅いと声をあげている。(この前まで、あんなにも大切にしてくれていたのに。どうして急に冷たくなったの?)(重要な経営会議や手術は、そこまで入っていないはずなのに) 唯衣は直哉のスケジュールを事前に調べていた。 が、自分のことが蔑ろになるような予定は入っていない。(他に好きな女でも? いや。直哉さんのことだからそんなことは、あり得ないわ)(まさか、まだ姉さんを追っているの? どうしてあんな女に執着するのよ。早く捨ててしまえばいいのに) ぎりっと爪を噛んでいると、面会室のドアが開き、直哉が入ってきた。「直哉さんっ!」 唯衣は立ち上がり、直哉へハグを求める。「どうしたんだ?」 直哉の反応は、とても素っ気ないものだった。 まるで唯衣には興味がない。そんな反応だ。「ずっと連絡してくれないし。デートもしてくれないから、会いに来たの」 ぷくっと顔を膨れて見せる唯衣、その容姿と子どものような可愛らしい素直な態度から、好感を抱く男性も多いだろう。「すまない。忙しいんだ」 直哉は唯衣に対して、謝ってはいるが、どこか心が籠っていない。「忙しいのはわかるけど。前だって忙しい中、会いに来てくれたのに。寂しいよ」 唯衣も淡々としている直哉の態度が気に入らなかった。 忙しさは変わらない。いや、妻である凜華が捕まった時に対応をしていた時期の方が断然と忙しかった。(あの時の方が会えてはいたし、優しく触れてくれたのに……)「今も調べ物がある。ここに居るのは自由だが、唯衣の相手をすることはできない」 直哉は、抱きついている唯衣を自分の身体から離す。「調べていることって……。まさか、姉さんのこと!?」「キミには関係がないだろう」 直哉は面会室から出て行く。(そうなのね。まだあの女のことを……) 唯衣自身も凜華については調査しており、詳しい状況報告が届くのを待っている状態だ。「あの女、いつまで私の邪魔をするのよ」 バンッと机を叩いた唯衣の手のひらは赤くなる。 ふぅふぅと怒りからか、肩で息をする唯衣は、何か良い方法がないか模索していた。(そうだ。宗像涼真くんなら何かを知っているかもしれない……) 涼真くんなら一緒に手を組んだ仲だし
last updateLast Updated : 2026-07-21
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第三十三話 結婚したいーー。邪魔な姉の存在

「お父さん、お母さん!」 唯衣は実家に帰り、両親へ泣きついていた。「どうしたの唯衣!? 何があったの?」 唯衣を溺愛している両親二人は、唯衣の切羽詰まった声に戸惑い、心の底から心配をしている。「ああっ、直哉さんがっ……!」 唯衣は本当に涙を流しているのではない。演技をして両親から同情を誘っているのだ。「直哉さんが、どうかしたの?」 母親は泣きついている唯衣の背中を擦りながら、落ち着いてと言い聞かせる。「まだ姉さんのことを気にしているみたいなの。優しい人だから。私、直哉さんと結婚したいのに。彼はまだ姉さんを気にしていて……」「はっ?」「えっ?」 唯衣を見守っていた父と母は驚きを隠しきれず、動揺している。「直哉くんがそんなわけないだろう。こんなにも唯衣のことを大切にしてくれているのに」「そうよ。きっと直哉さんにだって考えていることがあるんだわ。立場だってあるんじゃない? まだ凜華とは正式に離婚ができていないんだから」 父と母は、全面的に唯衣の味方だ。(あの直哉くんが唯衣を裏切るわけがない。本当に結ばれるべきは、唯衣となのに)(可哀想に。早く結ばせてあげたい。凜華は出所後、行方不明だと聞いている。なんとか離婚の手続きはできないのか) 両親二人の心の中は、唯衣の幸せを願うことだけ。 凜華の存在など、どうでもいいのだ。「私が話をしても、直哉さんは忙しいって聞いてくれないの。あの女が原因で心労を抱えているみたい」「だからお父さんとお母さんで直哉さんを説得してよ。私と結婚するようにって」(お父さんとお母さんが出てきたら、直哉さんだって態度を改めるはず。病院へかなりの資金提供をしているのよ)(お父さんの機嫌を損ねて、資金打ち切りってことになったら病院の財政は一気に苦しくなるわ) 唯衣は心の中では笑いながらも、両親に向かってお願いと手を合わせて懇願している。 両親はお互いを見つめ合い、深く頷き合った。「わかった。今度、お父さんから話をしてみる。ゆっくり話をしたいから、家に来るように連絡してみるよ」 父は、唯衣の頭を慈しむように撫でた。愛しい存在を守るように。「ありがとう。お父さん、お母さん、大好き」 唯衣は二人に抱きつく。両親は唯衣のたった一言、この言葉だけで救われる。・・・ 三日後――。 直哉を呼び出し、四人で食事をす
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十四話 日葵はどこ!? 目覚めた凜華

「ここは……」 凜華が目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。 記憶を探ろうとするも、思考が働かず、身体も重く、息苦しさを覚える。自分がベッドの上で寝ていることだけはわかった。頭を動かし、左右を見渡す。「病院だわ」 自分に繋がれた点滴を見る。(そうだ。私、具合が悪くなって……。それで、家の中で倒れて……) 凜華の火照った顔からさっと血の気が引く。(あの男、宗像涼真に連れて行かれたんだ……。日葵は!?) 周囲を見る限り、日葵の姿はない。(日葵、どこに行ったの? それにこの病室、一般の人が使える部屋じゃないわ) 日葵の姿を探した凜華は、自分の病室の広さに驚く。凜華の部屋は個室になっていた。 病室の広さとラグジュアリーな空間に包まれている、政治関係、芸能人、大手企業CEOだけが利用することができるVIP対応の個室。 自分も医師であったがために、この独特な空間の雰囲気を凜華は知っていた。「日葵……」 凜華は上体を起こし、日葵を探そうとベッドから降りようと足を出した時だった。<ガラッ> 病室の扉がゆっくりと開く。 病室に入ってきた人物と目が合った。「琥珀くんっ?」 そこにいたのは、まぎれもなく琥珀の姿だった。「凜華さん。起きたんですね!」 琥珀は瞳を大きくさせ、凜華へと近づく。「まだ寝てなきゃダメですよ。薬を使っているから今は熱が下がっていますが、しばらくは安静なんですから」「でも、日葵が!日葵はどこ? 私はあのあと、どうなったの?」 凜華は近づいた琥珀の白衣をすがるように掴み、瞳を潤ませる。(凜華さんでも、こんなに弱く、パニックになることがあるんだな)「落ち着いてください。ゆっくり話しますから」 琥珀は凜華を再び横にさせ、ベッドサイドにあった椅子に座った。 信頼している琥珀が現れたことで、凜華の不安は軽減されたものの、事態が飲みこめない。出所してから一度も離れたことがないわが子が無事であることだけを心の中で祈っていた。「ここは宗像先生がトップにいる病院です。宗像先生が倒れている凜華さんを運んだんです。日葵ちゃんは、病院近くのベビーホテルで預かってもらっています。俺も毎日様子を見に行っていますが、元気ですよ」 凜華はほっとしたのもつかの間、胸が締め付けられた。(私が不甲斐ないばっかりに日葵にまで寂しい思いをさせ
last updateLast Updated : 2026-07-23
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第三十五話 親密そうな二人に嫉妬する影

「宗像先生には、俺と凜華さんが今再び繋がっていることは伏せています。今も宗像先生が手術の合間に会いに来ました」「宗像先生も病院スタッフには凜華さんの素性は話していません。桜庭直哉は、うちの病院のライバル法人ですから。その妻をここで診ているなんて知れたら、大事になります」 涼真は、琥珀と凜華が元職場が同じであったことだけ知っている。 が、医療チームを組むほどの間柄だったことは知らない。琥珀が凜華に憧れていたことも、気づいてはいなかった。「ありがとう。気を遣ってくれて」 琥珀の冷静な判断のおかげで、凜華は救われている。 それに、琥珀になら日葵を安心して任せられる。今の凜華には、琥珀しか頼る人間はいない。「私、こんなに立派な病室にいるけれど、費用とかどうなるのかしら。日葵のベビーホテル代だって。それに、仕事を休むことを職場に伝えなきゃ」(まさか。これは涼真の嫌がらせ? わざとこんなに広い病室にして、あとで高額な請求をしてくるとか?)(このことをきっかけに、これから脅してくるかもしれない) 涼真に対する不信感が凜華は拭えず、どうしてもマイナスなことばかり考えてしまう。 今では幸せだったかもしれないと思える外科医だった凜華の生活、立場を一瞬で奪ったのが涼真だ。 それが愛情だったと言われても、凜華の心は動いてはいない。「費用のことは俺に任せてください。宗像先生の出方を伺ってから決めます」「凜華さんの職場には、俺から連絡をしておいたので大丈夫ですよ」(今後の対応について沈黙している宗像先生の出方次第だ。もしも凜華さんに高額な請求をするのであれば、俺が代わりに支払えば良いこと)(凜華さんの職場には説明をしておいた。働けないなら契約違反だって言っていたけれど、金さえ渡せば、上は大人しくなったから。簡単だった) 柔らかい表情の裏で、琥珀は強い気持ちを抱きながら動いていた。 自分が凜華を守るのだと、心に決めているから――。「そんなっ。いつも琥珀くんに頼るわけにはいかないわ」 凜華は何もできない自分の無力感を肌で感じることしかできない。(医師だった時の私の資産が残されているのなら、解決できる問題なのに)「とりあえず、宗像先生の様子を見ましょう。凜華さんは早く元気になることだけを考えてください」(涼真が何を考えているかわからない。琥珀くんの言う
last updateLast Updated : 2026-07-24
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第三十六話 琥珀と涼真の想い 譲れない感情

「琥珀くん、あの……」 凜華が琥珀に対して何かを言いかけた時だった。 ガラッと勢いよく病室の扉が開く。「宗像先生……」 琥珀は驚きを隠しきれない。 凜華は倦怠感からか身体が重く、自由に身体が動かなかった。 しかし涼真の姿を見て、唇を噛みしめる。「仁王。凜華とは前の職場が一緒だっただけの知り合いじゃなかったのか?」 涼真は琥珀に対して鋭い眼光を向ける。 ギラギラと嫉妬の炎が燃えているかのような、わかりやすい表情だった。「宗像先生、手術中だったはずじゃ……?」 琥珀は、話題を変えようとした。「ああ。担当医が急に変わったんだよ。俺じゃなくても対応できるからな」(凜華のことが心配だった。緊急対応ができるように、他の医師に任せたが、まさか仁王が凜華の病室に来ているなんて思わなかった) 涼真は自分が手術中、凜華が急変した時のことを考え、担当医から外れるようにしたのだ。 凜華は二人の間で固まっていた。涼真に対してなんて声をかけるのが正解か答えを出せずにいる。(私は、涼真のことが許せない。だけど、今回は彼がいてくれたから……)「涼真、ありがとう。あなたのこと、信じることができないけど、今回は助かったわ」(素直にお礼を言えば、涼真の機嫌も直るかもしれない。そしたら琥珀くんが問い詰められなくてよい) 涼真の目線は、琥珀から凜華へと移動した。「一時は危なかった。もう二度と無理はするな。娘も悲しむぞ」 涼真が凜華を見つめる目線は、まるで家族のような優しさに溢れている。 目元は下がり、心から凜華を心配している、そんな表情だ。「無理するなって……。全部あなたのせいじゃない? あなたが私を……」 凜華は涼真の言葉に励まされるどころか激高した。  興奮状態になったからか、急にせき込み、苦しそうに息をしている。 そんな凜華の背中を琥珀が自然と擦った。「大丈夫ですか!?」 声を発することができない凜華は、頭を下げて返事をする。 涼真は二人の様子をただ立って見ていることしかできない自分に腹が立った。(本当なら、あの位置にいるのは俺だ。俺が凜華を支えると決めた)(どうして仁王がいるんだ。ただの元同僚じゃないか……?) 琥珀が背中を擦ることに抵抗を見せない凜華の姿を涼真は見つめ、苛立ちが募っていく。「仁王。凜華から離れろ。俺が代わる」 ど
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第三十七話 明かされた琥珀の想い

「侮辱はしていません。本当のことを言ったまでです」 上司の涼真相手だとしても、琥珀の強気な態度は揺るがない。 この間まで、宗像先生と言いながら上司の姿を追いかけていた琥珀ではなかった。「上司に向かって、その態度はなんだ? 処分するぞ」(こいつ、凜華の前だからって調子に乗ってる。まさか、凜華のことを……?)「そんなことするのは、やめてよ」 凜華は涼真を睨みつける。「琥珀くんは、私を庇ってくれているだけ。関係ないわ」(私のせいで誰かが傷つくのはイヤ。あんな思いをするのは私だけで十分だわ) 凜華は逮捕された時のことを薄っすら思い出していた。 証言台に立っても誰も自分の味方をしてくれない。 一方的に罪を着せられ、身の覚えのない証言を話す、大切だと思っていた親友や家族。 刑務所内での容赦ない虐め。 消えることのない顔の傷。(平穏だと思っていた日々は、急に消えてしまうの)「凜華、泣いているのか?」 自分でも気づかないうちに、涙が流れていた。 涼真は凜華の涙を見て、たじろぐ。(俺のものにしたいのに。凜華が遠くなってしまう。凜華を刑務所に入れた意味がなくなる……) 思うようにいかない状況に、涼真は言葉が出てこない。 本当は涼真は凜華のことを大切に想っている。 愛情のかたちが狂っていると言われるくらいに――。 それが伝わらない。「宗像先生。これ以上凜華さんを傷つけるのはやめてください。俺、全部知っているんです」「あなたが凜華さんに好意があることも、理解しています」 琥珀はスッと息を吸い「俺も凜華さんのことを大切に想っています」 琥珀は凜華へ温かい眼差しを向けた。愛おしい人を見るように。柔らかく口角が上がっている。「なんだと?」 涼真は目を見開いた。「琥珀くん……」(琥珀くんの大切に想っているって言う気持ちは、元上司である私を尊敬してくれているってことよね……) まさか自分に好意があるなどと思わない凜華は、恋愛感情ではない、人としての好意だと思っている。  医師として仕事中心の生活をしていた凜華は、恋愛経験もほぼない。 男性の気持ちを察知することが、彼女には難しかった。「お前に凜華は渡さない。幸せにできないだろう? 凜華の夫は、あの桜庭直哉だ」「桜庭直哉に対抗できるのは、俺くらいしかいない」 涼真は今の医療界で
last updateLast Updated : 2026-07-26
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第三十八話 御曹司――? 狂った計算

 恥ずかし気もなく、力強く涼真は二人に告げた。 涼真の意思は揺るぎないもの。「そんなことを言われても。信じられない。私はずっとあなたを恨み続けるから」 凜華は動揺しながらも、涼真に対する負の感情を拭えない。「それでも俺は良い。凜華がそばにいてくれるのであれば」「あなた、狂ってるんじゃない?」 愛情表現が理解できない凜華は、怖くなった。(この人は私を陥れた人。なのにどうして、私を求めるの?)「いいえ。俺も負けません」 琥珀が口を開く。「凜華さんへあんなに酷いことをできる人間が、凜華さんを幸せにできるわけがない」「それに俺、家のことなんて継ぐ気がなかったから、今まで言わなかったんですけど……。仁王財閥の一族なんです」「仁王財閥だと……?」「仁王財閥……」 凜華と涼真は二人同時に呟く。 仁王財閥、それは歴史ある名家だ。誰もが一度は聞いたことがあるほどの大手グループへ成長している。一族の人間がトップに立ち続け、日本の経済を回していることは有名な話だ。「仁王財閥は、日本の中でもトップ5に入るほどの名家じゃないか」(まさか後輩の仁王があの有名な財閥の人間だと? そんな情報、聞いていないぞ)(いや、仁王財閥ともあれば、情報操作なんて簡単なことか)「はい。その財閥の人間が俺です。だから、あなたたちには権力では負けない」 琥珀は不適に笑っている。涼真や直哉が自分には簡単には手を出せないことは、最初からわかっていた。ただ、医師という仕事を選んだ身。琥珀は自分の出身を口外したことがない。 自分の立場を伝えておかなければ、涼真と直哉に対等には扱われないだろうという判断が彼をそうさせた。(仁王財閥だなんて。あんなに有名な家柄出身だったのに、私の厳しい指導にもついてきてくれた)(医師になりたいという純粋な気持ちがなかったら、最前線の医療チームの中に彼は抜擢されていない) 琥珀が身分を隠しながら、医師として成長していく姿を凜華は近くで見ている。(御曹司なのに、上司としてキツイことを言ってしまったこともあったかも) 凜華は琥珀と一緒に働いていた時を思い出した。 今、自分がシリアスな場面に置かれているのはわかっているつもりなのに、過去の琥珀への態度を反省している。 涼真は予想外のライバルに出くわし「チッ」 思わず舌打ちをした。(くそ、仁王
last updateLast Updated : 2026-07-27
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第三十九話 私と一緒にいたら、迷惑をかけてしまう

 涼真が出て行き、静まり返った病室に凜華と琥珀は残された。 チラッと凜華は琥珀を見る。 琥珀は病室の扉を見つめていた。「あの、今の話って本当なの……?」 琥珀は嘘をつく人間ではない。しかし琥珀の雰囲気はいつも柔らかく爽やか。日本の中でもトップクラスの財閥御曹司である風格など、これまで感じたことはなかった。 ただ――。(そういえば、この前。桜庭直哉でも俺には簡単に手は出せないって琥珀くんは言っていた。そういうことだったの?) 凜華には気になっていた琥珀の発言があり、それが今の説明で一致したのだ。 琥珀は凜華の方を向き「はい。本当ですよ」 少しだけ沈んだ表情だった。「凜華さんを騙していたわけではありません。立場とか家柄関係なく、普通の医者として働きたかっただけです」 琥珀は肩を落とす。(自分の身分を明かさないと、あの二人と戦うことができない。同じ土俵に立つこともできないんだ) 自分の立場を明かしたら、凜華は自分から離れて行ってしまうかもしれないと琥珀は恐れていた。「琥珀くんは、琥珀くんだよ」「えっ?」 凜華は口を開く。「琥珀くんがすごい人だったとしても、私は一緒に働いてきた琥珀くんを尊敬してる。ただーー。」「私は、罪人として多くの人から認識されている。そんな私が、こうやって琥珀くんと普通に接していて大丈夫か心配なの」「琥珀くんに迷惑をかけたくないの。罪人と関りがあるって知れたら、ご家族も心配するでしょう?」 凜華は琥珀の家柄、立場などはあまり気にしてはいなかった。 ただ自分が関わることで、琥珀という人間が汚れのある人間に見られるのが嫌なだけだ。「凜華さん……」 琥珀は凜華の近くに寄り、そっと彼女の手の上に自分の手のひらを添えた。「私も捕まる前は、たくさんの方に感謝されたり、笑顔で、キラキラした瞳で話しかけてくれる人が多かったの」「でも捕まって実刑が決まってから、すごく冷たい目をされるようになった。人ってあんなにも変わってしまうのね。裁判の結果がすべてで、私のことを信じてくれる人なんて表面上はいなかったから」 あんなにも頼られていた自分が、汚物を見るような顔をされる毎日になった。「俺は構いません。家族からなんて言われようと。凜華さんは罪を犯していないんです。冤罪に仕立て上げられた。悪いことは何もしていないんですから」
last updateLast Updated : 2026-07-28
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第四十話 冷静でいることができない二人の男

「宗像先生、こちらです!急に心拍が低下して…」 緊急で呼び出された患者のもとに涼真は来ていた。 しかし心の中は、患者の容体ではなく、凜華と琥珀のことで占めている。(くそっ。仁王が財閥の御曹司だと)(御曹司だろうが、関係ない。問題は凜華があいつに心を開いているということだ) 患者を前にしても、予定外の人物の登場に涼真は冷静さを失っていた。(対峙するのは、桜庭直哉だけで十分だと思っていたのに。くそっ、邪魔な奴が一人増えた) 苦しそうに喘鳴している患者を診ても、涼真からの指示はない。 現場の若手医師と看護師は、いつもの涼真と違うため、顔を見合わせている。「宗像先生っ!指示をお願いします!患者さんのバイタルサインが……」 モニターに映し出されているのは、段々と血圧が下がり、脈も徐脈になっている数値だった。「今すぐ緊急のオペだ。対応できる奴を集めろ!」(目の前のことに集中するんだ。俺は医者だろう) なんとか平常心を取り戻そうと涼真は奮闘する。(大丈夫だ。仁王なんて、凜華には元部下としか思われていない。何をそんなに心配する必要があるんだ) バタバタと動き回る看護師の中、涼真はモニターを見ながら、自分へ言い聞かせていた。・・・<コンコンコン> 部屋をノックする音が聞こえた。「失礼します。奥様に関する情報をまとめて参りました」 桜庭病院の院長室に直哉の姿があった。 今日は大きな手術もなく、在籍している医師も充実している。直哉は病院の収支報告書を見ていた。「何かわかったことはあったか?」 病院の資料をすぐに机の上に置き、凜華に関する資料を直哉は開く。「それが……」 使用人が言葉に詰まる。「わかっていることがあれば、すぐに言え」 凜華に関する資料は、かなり詳細に書かれており量も膨大だ。 直接報告を受けたであろう使用人に聞いた方が早いと直哉は考えた。「……。奥様のことを援助している者がいます」「はっ? なんだとっ!?」 直哉はバンッと机を叩き、立ち上がる。 目頭は血走っており、平常とはとても言えない。「そいつは誰だ!?」(凜華のことを援助している……? 凜華には親しい人間はいないはず)(家族は凜華のことを捨てたようなものだ。親しい知人や使用人も犯罪者と知ってからは近づかなくなったというのに) 直哉は凜華と接点のありそ
last updateLast Updated : 2026-07-29
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