All Chapters of 私を刑務所へ送り込んだ夫が、今さら執着するなんて: Chapter 41 - Chapter 47

47 Chapters

第四十一話 そんなことあるわけがないーー。直哉の誤算

「その二人は……」 使用人は一呼吸置いた。「宗像涼真氏と仁王琥珀という人物です」「宗像涼真だと……?」 あの冷静で沈着、物事を客観的に捉えることができる直哉でさえ、その名前を聞いて言葉を失う。「宗像涼真は、あの女を告発した張本人じゃないか?」(なぜだ? どうしてあの男が) 凜華を獄中へ追いやった男がなぜ凜華に再び関わり、援助しているのか直哉の頭脳でも理解できなかった。「あの男がいなければ、凜華の罪は立証されなかったはず」 直哉は一度イスへ座り直し、息を吐きながら、思考を重ねる。 使用人は直哉の様子を伺っており、ビクビクと肩を震わせ、直哉の次の発言に身構えている。「宗像はうちのライバル企業だ。そんな奴がどうしてあの女を……」 まだ凜華は直哉の妻だ。敵対している企業のトップである直哉の妻を援助するなど、通常では考えられない。 それに――。「まさか、あの女。うちの病院の情報を流すかわりに、宗像へ経済的援助を求めているのか?」 直哉にとって最悪な可能性。 桜庭病院の情報を宗像へ流し、桜庭病院もろとも陥れようとしている。 口座凍結できるのは、直哉しかいない。 それは凜華もわかっていることだ。 その腹いせに、宗像と手を組もうとしているのではないかと一瞬考えた。(いや、情報を流すなんて今の凜華にはできない。一年間獄中にいたんだ。セキュリティシステムは変わっている。情報を入手できるような場所への立ち入りさえ、困難だ)(機密情報を流すことをして、また刑務所へ入りたいのか? 宗像も同罪になるぞ) 直哉の思考時間は、数分ほどだ。 しかし近くに立っている使用人にしてみれば、その時間は何時間にも感じられるほど、張り詰めた空気。そしてあの桜庭直哉が頭を抱えている光景が、異様だった。「ご主人様……」 直哉の姿を見かねて、使用人が声をかける。「なんだ?」 鋭い眼光で使用人を直哉は睨みつけた。使用人が何か罪を犯したわけではないことは、理解しているはずなのに、予想外のできごとを当たる相手がいない。「宗像涼真は、奥様と幼馴染だったと聞いております。捕まる前は、親友のように、兄のように奥様も宗像氏のことを慕っていたようです」「はっ、そんなことは最初の調査でわかっている。あの女、そんな男に告発されたのだから、哀れなことだ」「はい。当初の情報では、宗
last updateLast Updated : 2026-07-30
Read more

第四十二話 吐き気がするーー。直哉を悩ませる二人の男

 直哉の思考は一般的で、疑問に感じてもおかしくはない。 好意を寄せている相手を刑務所へ送りたい人間などいないだろう。「あの女に惚れている……。そんな男がいるのか?」 調査報告を直哉は疑い出している。 いや、自分が事実を否定したいだけだったのかもしれない。「はい。もう一人、宗像涼真氏のほかに奥様のことを援助している男がいます」 使用人の言葉を聞き、直哉は開き直ったかのようにハッと笑ってみせた。「誰だ?」「仁王琥珀氏です」「仁王琥珀だと?」 直哉は聞き覚えのない名前を聞き返す。(仁王琥珀。聞いたことがない。凜華とはどこで知り合ったんだ?)「仁王氏は、奥様の元部下で後輩だった男です。今は宗像氏が経営している病院に勤めています」「なんだと……!」(仁王、そうか。以前、凜華が外科医として医療チームを組んでいた時の報告書で見たような名前だ)(たしかに昔の凜華は、輝いていたかもしれない。俺は女として見ることができなかったが、医者としては一流で容姿もそれなりだったからな)「まさか、刑務所に入ったあの女にずっと好意を寄せていたのか?」 罪を犯した人間だというのは、知っているはず。変わり果てた凜華の容姿であっても援助をしている男がいることを直哉は疑問に感じた。 強い意思、凜華に対する愛情がないと、支援などすることができない。容姿に惹かれているのではなく、凜華の内面にも好意を寄せる人物がいる。「吐き気がする」 今の凜華には何も残されていない。彼女は立場も財産もなく、容姿さえも変わってしまった。 支えるメリットがない今の凜華を支援する存在があることを想像すると、胸が熱くなり、どうしようもない感情に直哉は押しつぶされそうだった。「あの女は、まだ俺の妻だ。それを知っているにも関わらず、援助しているのか」(俺もバカにされたものだな) くくくっと直哉は、不気味に笑っている。 自分の所有物である凜華に手を出している二人が、直哉のプライドを強く傷つけた。「宗像はともかく。今すぐその仁王とか言う男を排除しろ」 使用人はわかっていた。直哉からそのような命令が下されるのを。「申し訳ございません。できません」 頭を深々と下げ、潔く断った。 そのまま床を見つめ、直哉に目線を合わせることがないまま、ある事実を告げる。「仁王琥珀氏は、あの仁王財閥の御曹
last updateLast Updated : 2026-07-31
Read more

第四十三話 思い出した新婚当初。凜華に気持ちはないはずなのにーー。

 その日、直哉は帰宅をすると、珍しく書斎に入ることなく、食事と入浴を済ませ、寝室のベッドへ横になっていた。 キングサイズのベッドの広さは、直哉の中で何か物足りなさを感じさせる。(このベッドで凜華と寝ていたなんて、考えられない) となりにいるはずのない凜華の面影を感じ、手を伸ばす。(眠れない夜に何度か寝返りを打つと、凜華はすぐに声をかけてくれた) 凜華との新婚当初、直哉は仕事のストレスや重圧もあり、眠れない日々を送っていた。 そんな直哉の様子に薄々気づいていた凜華は、眠れるようにホットミルクや白湯、カモミールティーを直哉の気分に合わせて毎日のように作り、直哉が少しでも休めるように寄り添っていた。(なぜ今、あの時のことを思い出すのだろう)(夫婦生活は破綻していた。凜華になんて気持ちはなかったはず)(今だって心の底から凜華のことを恨んでいる。会社の情報を盗むなど許せるはずがない……) 恨み、辛み、寂しさ、どうしようもない感情が溢れてくる。 直哉は凜華について調べられた資料を読み、しばらく動揺を隠しきれなかった。(宗像に仁王。あの二人が凜華の援助者となっている。その情報は今でも疑わしい)(結局、知りたかった当時の事件の情報は変わらぬまま。刑務所の中の凜華の様子もあの子どもの正体も不明のままとは、腕の良い情報屋ではなかった) 直哉が得られた情報、それは凜華がホテル従業員として社員寮で寝泊まりしながら生活していること、凜華のことを援助している男が二人いるということだけだった。 凜華の顔の傷、凜華が抱いていた乳幼児は誰なのか……。 一番知りたかった項目が記載されていない。 不明と処理されていることに腹を立てた直哉は、違う情報屋に依頼することにした。「不明で終わらせるわけがない」 尾灯の部屋で一人、ベッドの天井を見つめながら直哉が呟く。 あんなに愛おしく可愛らしいと感じていた、凜華の妹の唯衣であっても、今は心が躍らない。 霞がかかったような心の中は、直哉自身も経験したことがない。「くそっ!」 目を閉じると、凜華、直哉、琥珀の顔が浮かび、心は穏やかではいられなかった。「直接、あの女に聞いた方が早いか」 住んでいるところは知っている。 調査報告の中でもまだ引っ越しはしていないようだった。 次の日――。 直哉は凜華に会うために凜華
last updateLast Updated : 2026-08-01
Read more

第四十四話 現れた不審な男

「患者情報にないだと!?」 休日だった直哉は、自宅書斎にいた。 確認しなければならない書類を持っていた直哉だったが、その手が止まる。「はい。運ばれそうな周囲の病院を十か所調べましたが。情報にありません」(いや、こんなことができるのは……)「宗像涼真のいる病院を調べろ。あの病院には、仁王もいるんだろう? あいつらが関わっている可能性が高い」「宗像涼真氏がいる病院も調べましたが、情報にはなく……」「情報に載せないよう、病院内部に指示を出しているはずだ。あいつの力ならできるだろう」 院長及び経営者としてカルテを隠している可能性もある。 偽名で入院させていることも考えられる。 凜華の保険料が滞納されているとしたら、自費診療にもなる。 さまざまな可能性を考えても、凜華がそこにかくまわれている確率が高いと直哉は考えた。「かしこまりました。内部から調べてみます」 使用人は深く頭を下げ、書斎から出て行く。「くそ。使えない奴ばかりだ」 ドンっと直哉は机を叩く。「俺から逃げて、幸せになれるなんて思うなよ」・・・「うーー。あーー」「日葵、会いたかった!」 凜華は変わらず入院をしていたが、快方に向かっていた。 ゆっくりではあるが、身体を動かすこともできる。 血液検査の結果、値も正常値に近いものになったため、久しぶりにわが子、日葵と会えることになった。「良かったですね」 日葵を連れてきたのは、今凜華から一番信頼をされている琥珀だ。 短時間であれば、病室の中に連れてきて良いという許可が涼真から下りた。「きゃっ、きゃっ」 日葵は久しぶりの母親に抱かれ、嬉しそうに声をあげている。「ごめんね。日葵、ダメなママで……」 凜華は感情が高ぶり、涙を流す。(私が健康的な身体だったら、日葵とずっと一緒に居ることができたのに)「凜華さんのせいじゃないですよ。自分を責めないでください」 日葵を抱きかかえている凜華の背中を優しく琥珀が擦っていた。「日葵ちゃんも元気そうで良かった。きちんとした専門職がいるベビーホテルです。それに、宗像先生が圧をかけているので、さらにしっかりとした体制で見てくれているみたいですよ」(宗像涼真が……? 日葵を気にしてくれているというの?)「宗像先生とは一時険悪な雰囲気になりましたが、仕事上では普通に接してくれます。さ
last updateLast Updated : 2026-08-03
Read more

第四十五話 涼真から追い詰められた男は……

「宗像……!」 帽子の男は涼真に気づくと、慌てて出口へ走り去ろうとした。「ちょっと待て!」 涼真が機敏に対応し、男の腕を掴む。 左右に動き、ジタバタと男は必死に抵抗をしている。「何の騒ぎですか?」 物音を聞きつけた琥珀は、凜華の病室から出てきた。 一瞬で不審者がいることを理解した琥珀は、涼真に加勢し、男の腕をとる。「凜華さんと日葵ちゃんは、危ないんで出てこないでください!」 病室の中から心配そうに見つめる凜華に気づいた琥珀は、声をかけ指示をした。「やめろ!離せ!俺は何も悪いことはしていない!」 涼真と琥珀、二人がかりで床へ押さえつけられた男は、息を切らしている。 だが、抵抗することを止めなかった。「今、俺が押さえているから。仁王は病院の警備へ連絡をしろ!」「わかりました」 琥珀は、携帯を取り出し、電話をしている。 数分後、警備がかけつけ、男は取り囲まれた。「何をしていた? カバンのものを出せ」 涼真が指示をするも、男は何も言わず、カバンだけは頑なに渡さなかった。「埒が明かないな。面倒なんで、警察へ通報しますか?」 琥珀が男の様子を見て、ため息をこぼす。 警察という言葉を聞き、男が肩を震わせたように見えた涼真は、この男が何が目的で凜華の部屋をのぞいていたのかを考察していた。(凜華の病室はVIP対応の特別な病室だ。金目当ての強盗の犯行か?)(いや。凜華は一人ではなかった。仁王が病室にいたにも関わらず、こいつは逃げていない。盗み目的ならすぐに隠れるはず)(まさか……。こいつは……)「お前。桜庭直哉の密偵か?」 直哉が男に視線を合わせそう告げると、男は瞳孔を大きくさせた。 びくっと身体が反応したようにも見える。「違う」 何も言葉を発しなかった男が、わざわざ否定をした。「何を指示されてきたんだ。言え。言わないと、本当に警察に引き渡すぞ」「お前が警察に引き渡されたら、桜庭涼真にだって捜査の手が伸びる。それでも良いのか? まだここで俺に正直なことを話した方が楽だぞ」 涼真が揺さぶりをかけると、男は眉を動かしながら、悩んでいるようだった。 涼真は琥珀に向かい、スマホへ目線を送る。 琥珀は男にわからないように頷いた。「直哉様は奥様のことを心配されていて。私が代わりにただご様子を伺いに来ただけです。受付で確認をしても
last updateLast Updated : 2026-08-04
Read more

第四十六話 二人から事実を告げられ、凜華はーー?

 琥珀の緊迫した声を聞き、指示通り病室の中で避難していた凜華の心臓の音は速い。 病室の外では、涼真と琥珀の声が聞こえ、その声は病室内にはわずかにしか聞こえてこない。 そんな中、中年の男性の声も同時に聞こえてきた。(何が起こっているの……?) 日葵を巻き込みたくはない凜華は、物音が収まるまでその場を動かずにいた。 その時、涼真の声で<桜庭直哉>という名前が聞こえる。(まさか、直哉が関わっている?) 凜華は直哉が何を仕掛けてきたのかはわからなかったが、二人が心配になり、スッと日葵をベッドの上に横にさせ、出口近くまでゆっくりと歩き、聞き耳を立てていた。 聞き取れなかった男の声が、わずかに聞こえてた。<直哉様は奥様のことを……> その続きは聞こえない。 チラッと外を見ると、涼真と琥珀二人だけの姿がそこにある。 警備という声も聞こえたが、警備スタッフもどこかに行ってしまったようだ。(さっきの男性は、警備の人に連れて行かれたのかしら?) 涼真と琥珀は落ち着いて会話をしており、危険そうな気配はない。 恐る恐る扉を開けようとした時、琥珀の声が聞こえた。「桜庭さん、凜華さんがここにいるってわかったんですね」(えっ……)(直哉が私がここにいるってわかって、誰かを送り込んできたの?)(何のために?) 落ち着くために、凜華はベッドへ戻り、日葵を抱き上げる。 不穏な空気を感じていないのか、日葵は、きゃっきゃっと声をあげるだけだ。 日葵の顔を見ていると、涼真と琥珀の二人が部屋に入ってきた。「直哉が……。何をしてきたの?」 思わず、聞いてしまった。 何が起こったのか真実を聞きたかったから。 涼真と琥珀は、顔を見合わせるも、口を開いたのは涼真だった。「隠していても仕方がない。桜庭直哉が凜華の様子を探るために、使用人か密偵を送り込んできたんだ」(私の様子を探るために……?)「直哉さんは奥様を心配して……。なんてさっきの男は言っていましたが、正直、信じられません」 琥珀も事実を述べた方が凜華のために良いと考え、男の発言をそのまま伝えた。「そんなこと、ありえないわ。直哉が私のことを心配するなんて」(私を心配しているなんて嘘よ。きっと何か裏があるんだわ)「病室がわかってしまった。凜華も体調が良くなっているから、病室を変えるか」「そうですね
last updateLast Updated : 2026-08-05
Read more

第四十七話 目が離せない子ども

「カメラだと映像が小さい。モニターに映し出せ」 直哉は書斎に設置してあるスクリーンを出すよう指示を出す。「かしこまりました」 涼真と琥珀に見つかってしまった動揺をまだ隠しきれない使用人は、いつものスムーズな対応ができず、さらに焦る。(まずい。落ち着け。きっと大丈夫だ) 書斎にミニシアターほどのスクリーンが現れ、直哉は凝視する。「これが……。凜華か」 モニターに移されたのは、凜華と小さな乳幼児、琥珀の姿。「こいつは……」 凜華の隣で仲睦まじい様子で話す医師の姿が直哉は気になった。「仁王氏です」(これが、仁王琥珀か。まだ子どもみたいな奴じゃないか) 年下、それに童顔の琥珀を見て、どこかで見たことがあると直哉は思い返す。「あの時の男か!」 思わず声を大きくした。「あの時、凜華から離婚届けを預かり、俺へ届けた男。凜華は友達の弟などと嘘をついていたが、今は宗像の病院に勤める医師だな」 直哉は、はじめて面会室で会った時、たしかに来客者に<仁王>と名前の記載があったのを思い出す。(凜華はこいつをかばっていた。友達の弟だと関係に嘘をついていたな。俺にこいつの身分がバレてしまうのが怖かったのだろう)「それほどまで大切にしたい相手か」 琥珀が柔らかい表情で凜華へ話している姿を見て、腹の奥底から何か湧き上がるものがあった。 が、凜華の腕の中にいる乳幼児へ目線が行く。「まだこの赤ん坊を預かっているのか。入院しても尚、ともにいなければならない存在なのか?」 凜華が大事そうに抱いている乳幼児、子どもなど興味はないのに。なぜかその子から直哉は目が離せなくなった。 琥珀に抱いた真っ黒い感情も薄れ、その子を見ていると心が少しだけ和む気がする。(やはり凜華に似ている……。まさか……) 直哉が考えないようにしていた可能性。その子どもが<預かっている子ども>ではなく、凜華の子どもだとしたら――? そう思った瞬間、画面は切り替わり、映像が終わってしまった。「以上になります」 そそくさとカメラを片づける使用人に、直哉は違和感を覚える。(おかしなところで映像が切れている。最後、一瞬だけあの男が映ったような気がした)「最後の部分だけ、もう一度映せ」「へっ?」「命令だ」 使用人の手が止まる。 しぶしぶと映像を再び流した。最後の一分間は直哉の指示通
last updateLast Updated : 2026-08-07
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status