「岡田陽太(おかだ ようた)、男性、35歳。心疾患、高血圧、高血糖、脂質異常症、肝硬変……」滉はさらに患者のカルテと検査結果に目を通した。データを見る限り、決して楽観できる状態ではない。央都病院の外科主任たちが渋い顔をしていたのを思い返し、想像以上に深刻な病状なのだと察した。だが、それもあくまで彼らの基準で言えばの話だ。100%とは言えないまでも、全力を尽くして持てる技術を発揮し、大きなミスさえ犯さなければ、90%の成功率は見込める。滉ももう四十歳だ。紗彩に裏切られ、結婚生活は破綻の危機に瀕し、海東大学附属病院では不当な圧力までかけられている。そうした過酷な経験が、彼を嫌でも成熟させていた。滉は主任たちに、成功率は60%だと伝えた。だが、主任たちは内心面白くなかった。自分たちが四割しか見込めない手術で、滉はそれよりはるかに高い数字を口にしたからだ。その差はあまりにも大きい。彼らは皆、滉が大風呂敷を広げているのだと冷笑した。「水野先生、ご謙遜を。この手術は先生にお任せするしかありません!」そう持ち上げられても、滉はまず礼儀として一度辞退してみせた。何しろ、ここは自分の勤務先ではない。しかし最後には腹を決めて引き受け、手術の準備に入り、メスを握った。これは難度の高い手術で、滉がすべてを終えた頃には午前三時を回っていた。ホテルへ戻る時間もなく、主任の部屋にあるソファで三時間ほど仮眠を取った。患者が目を覚まし、術後の危険な観察期間を無事に乗り切るのを見届けてから、ようやく海東大学附属病院へ戻り、出勤のタイムカードを押した。滉が相変わらず資料整理などの雑務をしていると、ドアをノックして誰かが入ってきた。先日の夜、ホテルで陽太と浮気をしていたあの女だった。「水野先生、陽太を助けてくださって本当にありがとうございました。どうお礼を申し上げればいいかわからなくて、朝食を買ってまいりました。まだ温かいので、冷めないうちに召し上がってください」「結構です。もう朝食は済ませましたから」滉はこの女に微塵も好感を抱いておらず、顔も上げずにそっけなく突き放した。だが、女は帰ろうとはせず、厚かましくも滉の向かいの席に腰を下ろして尋ねた。「陽太の容体はどうですか?」「手術は終わりました。成功だと言っていいでしょう。この先の治療は俺
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