水野滉(みずの こう)は、目の前に並んだ3通のDNA鑑定書を呆然と見つめていた。「親子関係は認められない」という文字が、やけに目に刺さった。3人の娘全員が、自分と血縁関係にないことが確定したのだ。長女の水野寧音(みずの ねね)は15歳、次女の水野静玖(みずの しずく)は11歳、三女の水野澪(みずの みお)は6歳。長年育ててきた娘たちが、まさか誰ひとりとして自分の実の子ではなかったなんて!ふざけるにもほどがある!全身から血の気が引き、ハンドルを握る両手が震えた。胸の奥は痛みと苦しさでぐちゃぐちゃだった。滉は妻の野村紗彩(のむら さあや)と同い年だ。24歳で知り合って恋に落ち、結婚した。それからの16年、仲睦まじい夫婦として暮らしてきた。その間、紗彩は3人の娘を産み、身体に大きな負担をかけたはずだった。出産を経ると体型が変わる女性は少なくない。けれど紗彩は違った。3度の出産を経験してからのほうが、むしろ女性らしい曲線美を増していた。顔にはシワひとつなく、白くきめ細かい肌は、まるで20代後半で時が止まっているかのようだ。紗彩は名家のひとり娘だった。5年前に家業を継いで野村グループの会長に就任すると、一躍、海東市随一の女性富豪となった。家柄も財力も美貌も備えた妻と、天使のような3人の娘。滉は一時期、自分こそ海東市で一番幸せな男だと思っていた。それなのに、誰がこんな結末を想像できただろう……一方、滉の生家は漁師で、ごくありふれた平凡な家庭だった。5年前に両親が相次いで病死してからは、頼れる身内もほとんどいない。滉の職業も、海東大学附属病院に勤務するごく普通の医師だ。18年働いてきたが、世間に名を知られることもない、ただのしがない勤務医にすぎない。この16年、紗彩は滉を軽んじ、都合よく動かせる駒として扱っていたのだろう。好き勝手に利用し、裏切り、辱め続けていたのだ。彼女が向けてきた優しさや寛容さも、すべては上からの施しにすぎなかったのではないか。たとえ家に帰って紗彩の不貞を突きつけたところで、金にものを言わせる彼女のことだ。手切れ金と口止め料として、はした金を投げつけてくるだけかもしれない。結局のところ、浮気相手が誰なのかすら明かされない可能性もある。最悪の場合、もし紗彩が相手の身元を明かしたとしても、今の自分
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