「昴さんっ!!」「は、はい!」 ここに来るまで、気が気じゃ無かった。無事な姿を見れば安心出来るかと思っていたのに、この反応はどうなのだろう、かと。「そんな風に笑わないでください!!」 言われた言葉で頭は真っ白になるし、不安で手足が冷たくなるし、心臓が凍ったように痛い思いをしたのに、心配をかけた方がこちらの姿を見て笑顔になるなんて許せない。病院という施設だということに配慮することが一切出来ないまま足音を立てて近付くと、海亜は右手を振り上げ昴の左頬に向かって勢いよく振り下ろす。「っっ!!」「…………っ」 だが、それはすんでの所で止まり、彼の頬に衝撃が走ることは無かった。「心配したんですっ」「……うん」 代わりに、力なく下ろされた右手が、血と泥で汚れた昴のシャツへと触れる。「事故にあったって聞いて、心臓が止まるかと思ったんだからっ」 様々な感情がおり混ざり、大きな波となって海亜を襲う。「無事で、よかっ……」 ひとまずは、無事だったことに感謝しよう。大粒の涙を流しながら抱き付きたいのを必死で堪え、海亜は彼の状況をが思ったよりも悪くなかったことに胸を撫で下ろす。「ごめん」「本当ですよ」 彼女を泣かせたかった訳では無いのに、こんな風に傷付けてしまったことを後悔しているのだろうか。昴もこれ以上は巫山戯るようなことをせず、海亜を慰めるようにゆっくりと、彼女の腕を撫でた。「ごめんね」「……はい」 それを離れた場所から見ていた千々石は、ひとまずは二人の様子が落ち着くまで言葉を発せず待機することを選ぶ。 消毒液の匂いと機械の音。慌ただしく動くスタッフの足音や声が聞こえてくるが、まるで自分たちを置き去りにして周りが動いているような感覚に囚われ揺れる心。暫くは誰も言葉を発することは無く、静かな時間だけが過ぎていった。
Last Updated : 2026-08-23 Read more