春休みも残り一週間。 俺――白石|晴真《はるま》は、鏡の前で決意を固めていた。「よし……高校デビュー、完璧に決めてやる!」 笑顔の練習、髪のセット、完璧だ。本番もこの調子でいこう。……なぜか母さんが廊下から覗いている。「晴真、今日はどこかに行くの?」 「行かない。これから惰眠を貪るところだよ」 「そう……。さすがに入学式では整髪料をつけないでよ」「最初が肝心なのに」「まったく。お母さんの椿油を貸してあげるから」「仕方ねーなー。入学式はそれで我慢するか」 ばばくさい。と思っても言わない、やさしい男なのだ、俺は。 ――ガチャリ。 玄関の扉の音がする。「おーい晴真。大量の漫画をもらって来たぞー」「やったぜ」「あら、惰眠を貪るんじゃないの?」「漫画のが大事だ」 父さんは昔、幼い頃にトラックにひかれそうになった。それを男子高校生が助けてくれたという。その人は亡くなり――、毎年、父さんは線香をあげに行っていた。そのご両親も高齢になり、家を処分することになって、「あの子の遺したものを息子さんに」と譲ってもらったらしい。 遺品だと思うと少し怖いものの、漫画は読みたい。読み終えたら、父さんの部屋に置いといてもらおう。「まだまだあるぞ。車に積んである。一緒に運んでくれ」「マジか」 漫画好きの男子高校生だったのかもしれない。目の前で小さな子がトラックにひかれそうになっていたとして、俺に助ける勇気は正直、ないと思う。 漫画好きの、すごい人だったんだな……。 しばらく父さんと一緒に段ボールを運び込み――。「すごい量だな……」「お前の春休みが潰れるな」「望むところよ!」「特に面白いのは、父さんに教えてくれ。読みたいからな。あ、汚すなよ」「もちろんだよ。化けて出られたら困る」「……化けて出てくれたら、お礼が言えるんだけどな」 父さんの声が少しだけ沈む。 今のは失言だった。「申し訳ありませんでした」と心の中で父さんの命の恩人に謝る。それから、早速ひょいひょいとカッターナイフを持ってきた。「……開けてみてもいい?」 「まったく、開ける気満々だろう。いいぞ」 テープを切ると、やや黄ばんだ漫画がぎっしりと詰まっていた。折れもなく状態はいい。几帳面な人だったんだろう。 うむ。これはいい品揃えだ! 読んでみたかった昔の大ヒット作が
최신 업데이트 : 2026-10-04 더 보기