澪は奈央からプリントアウトされた紙を受け取り、内容を確認した。 タイトルには「告発」とあった。差出人名はなく、メールアドレスは記載されているが、おそらく「捨てメアド」だ。ユーザー名はランダムなアルファベットや数字、記号で構成されている。 本文に目を向けると、澪の背筋が凍った。「朝倉澪は、ダーマコードCEOと不適切な関係であり、コラボ選定は私情によるものである」 違う。選定は私情など一切挟んでいない。 確かに、企画を見たときから画期的な商品だと思った。そして商談に来たのが仁で、驚いたのは確かだ。 商品のよさは確かで、Onlyéはすでによく売れている。肌タイプ別にブレンドされた化粧品で、使い心地も多くの人が満足するはずだ。 いいものを選んでなにが悪いのだ。 そもそも澪は、コスメの知識では誰にも負けないと自負している。自分は乾燥肌で、しかも敏感肌だ。そのため、コスメに含まれる添加物にはとても敏感である。Onlyéは、そうした不安要素をすべてクリアした無添加化粧品なのだ。少し値が張っても、いいものが欲しいと思う人は多い。 しかし、「不適切な関係」という言葉が引っかかった。 あの日、澪は花音の結婚式を抜け出し、仁の部屋に行った。そして体を重ねてしまった。けれど、そのことは誰にも話していない。きっと仁もそんなことをペラペラ言う人ではないはずだ。 ふたりがあの場にいたことを知っている人物――。 そのとき、上司が澪を呼んだ。「朝倉さん、ちょっと……」 上司は眉を下げて、困った顔をしていた。 澪はまっすぐ前を向き、上司のもとへ向かった。 上司は無言だ。澪はその後ろをただ黙ってついていった。 澪が連れてこられたのは会議室だった。ただし会議室といっても、人事の面談などに使われる小さな部屋で、四、五人が入れる打ち合わせスペースだ。「失礼します」 部屋に入ると、人事課長がいた。上司はその横に座った。
Last Updated : 2026-08-01 Read more