三度目の離婚届は、玄関のたたきに落ちていた。 四つに裂かれた紙片が、脱ぎ捨てられたパンプスの横に散っている。 直哉はしゃがんで一枚拾い上げた。花音の名前を書くはずだった欄が、ちょうど真ん中で裂けている。 あいつは、離婚する気がまったくないらしい。 こうなったら、どんな手段を使ってでも離婚を成立させてやる。そうしないと、自分の腹の虫がおさまらない。 本当なら、今ごろ澪と幸せな家庭を築いていたはずだ。毎朝、「おはよう」と声をかけ合い、寝るときには「おやすみ」と言う。そして、澪を腕に抱いて眠る。そんな日々だったはずだ。 それなのに、その生活をぶち壊したのは花音だ。たった一回の過ちで、妊娠したからと責任を押しつけられた。澪を手放すしかなかったのだ。 確かに澪には、かわいげがない。仕事中心で、堅物だし、表情も豊かとは言えない。 それでも、澪の美しさは誰にも負けない。一途で、なんにでも一生懸命取り組むところはすごいと思う。 自分の隣にいるべき相手が違うことが、これほどストレスになるとは思ってもみなかった。 とにかく、産婦人科をあたって花音の妊娠と流産について真相を突き止めなければならない。 近所の産婦人科を一軒ずつ訪問して聞いて回った。「妻がこちらを受診していないか、お伺いしたいのですが」 自分の身分証を提示し、花音の名前を伝えた。けれど、受付から返ってきた答えは、直哉が期待していたものではなかった。「申し訳ございませんが、患者様の情報につきましては、ご家族の方にもお答えいたしかねます」「妻なんですよ。妻の受診歴を、夫が聞いてなにが悪いんですか」 受付の女性は表情を変えなかった。それが答えだった。 次の産婦人科でも、その次でも、返ってくる言葉は判で押したように同じだった。 そうやって、自宅から通えそうな産婦人科をすべて回った。けれど、花音が受診したという事実は、ひとつもつかめなかった。 もっと遠くの産婦人科へ行っていたのだろうか。産むときのこと
Last Updated : 2026-09-10 Read more