「あなたに会いたくて、この仕事、受けたんです」 まったく、理解できない。 今、会議室に入ってきたクリエイティブディレクターは、澪の目の前に立っている。いま、なんと言った? 「あなたに会いたくて」と言わなかったか。「え……っと」 澪は固まったままで、そう言うのがやっとだった。 しばらく目の前の有村を見つめているうちに、澪はようやく我に返った。ざわざわと会議室でプロジェクトメンバーがささやいているのが耳に届いた。「なに? 朝倉さん目当てってこと?」「っていうか、朝倉さんって、付き合ってる人いるんじゃなかったっけ? ほら、ダーマコードの……」「違う違う、あれはデマだったでしょ?」 上司が咳払いをした。大きな音に、澪の体がビクッと震えた。「有村さん、まずはご着席ください。今後のことについてお話しできればと思います」「ああ、すみません! 僕、前のめりすぎましたね」 有村は澪ににっこりとほほえみ、向かいの席に座った。なんともマイペースな人だ。「皆さん、改めてご紹介します。こちら、今回のプロジェクトに入っていただく、クリエイティブディレクターの有村さんです」 上司が向かいに座る有村を紹介した。有村はガタッと椅子を鳴らしながら立ち上がった。「改めまして、有村です。今回のプロジェクト『Onlyé for you』のクリエイティブディレクターに就任いたしました。ホームページと広告をメインに作業させていただきます」 丁寧にお辞儀をするところを見ると、社会人としては問題ないようだ。有村は、すっと椅子に座った。背筋を伸ばし、姿勢がいい。「弊社で本プロジェクトの指揮を執っているのは、朝倉です。今後、彼女と話すことが多くなると思いますのでよろしくお願いします」 上司が澪を紹介したので、澪はその場に立ち上がった。「朝倉です。どうぞよろしくお願いします」 頭を下げてからゆっくり上げると、有村は口元をほころばせた
Last Updated : 2026-08-21 Read more