オレリアン・キャピタルからの出資を断るという仁の決断を前に、澪は焦った。「そんなことしたら、仁の会社がっ!」 全身から血の気が引くのがわかった。仁は大学院まで進んだのちに会社を起こし、Onlyéの名は今や国内で誰もが知るようになっていた。それをみすみす手放そうとしているのか。「ダーマコードは、仁の子どもみたいなもんじゃない……。今まで手塩にかけて育てた会社でしょ? それを……」 タオルを握る手に力がこもった。 くやしい。自分のせいで仁がそのような選択をしなければならないなんて。 顔を伏せ、自分のつま先を見つめた。目の奥がじんわりと熱くなり、涙があふれ出しそうになった。「俺が何年かけて、ここまできたと思っているんだ?」 仁のやわらかい声が頭上から降ってきた。澪がゆるゆると顔を上げると、仁は口の端だけを上げて、静かに言った。「澪もよくわかっているだろ? うちの会社は、もうベンチャー企業とは言えないほど成長した。広い意味ではまだベンチャーなのかもしれないが、俺は順番を間違えるつもりはない」 仁の瞳が徐々に真剣な眼差しになっていくさまを、澪はまっすぐ見つめた。「順番……」 仁はきっと、オレリアン・キャピタルからの出資を断っても会社を運営していけるだけの力を持っているのだ。そのような強い意志のようなものを感じる。 それでもやはり、不安は拭えない。微妙な表情をしていたのだろう。仁が口角を上げた。「しょうがないな。澪に教えてやるよ。ただ、うちの社内の状況を話すのは澪だからだ。他言無用で頼む」「も、もちろん」 仁は息を吐き出して説明を始めた。「まず、資金調達の件だが、うちはもう、ほぼ資金調達しなくてもいいぐらいの利益を得ている」 澪はなにも言わずにただ頷いた。それはよくわかっている。Onlyéだけを見ても、グロウセオリーのECサイトでかなりの売り上げを記録している。
Last Updated : 2026-08-11 Read more