夜。書斎で樹は机へ向かっていた。そして、新しい書類に手を伸ばしたとき。 コンコン。樹は時計を見た。少し口元が緩む。「どうぞ」入室を許可すると、小春がティーセットを載せたワゴンを押して部屋へ入ってきた。「休憩しませんか?」「そうだな」樹が頷くと、小春は柔らかく微笑む。そして慣れた手つきでカップへ紅茶を注ぎはじめた。この時間に紅茶を運ぶことは、いつの間にか二人の日課になっていた。「茶葉を変えたか?」「今日作ったバタークッキーにはこちらが合うと……えっと」小春はエプロンのポケットから小さなメモ帳を取り出す。「ウバという種類です。渋みが少なく、香りが強く、キレのある味で、チョコレートにも合うそうです」渡されたとき言われたであろうことを、そのまま説明する小春に樹は小さく笑う。「そうか」樹は置かれた皿に乗っているクッキーを手に取り、一口齧る。「小春が作ったにしては、甘さが控えめだな」「そのほうが紅茶の風味が引き立つと聞いたので」カップを口元へ運ぶ。「うん、美味い」「よかったです」小春は嬉しそうに笑う。「庭にハーブがたくさん植えてありますよね」「ああ」「今度は摘みたてで、お菓子や、あとハーブティーを淹れてみたいと思っています」「ほう」「ミントやレモンバームは爽やかな香りで、お仕事の気分転換にもなると思って」「図鑑にそう書いてあったのか?」樹の指摘は正確で、小春は少しだけ顔を赤らめる。知ったから試してみたいなんて、子どものようだと思われたかもしれないと小春は思った。「図鑑が役に立っているようで良かった」樹は静かに頷いた。「ハーブティーは飲んだことがない。楽しみにしている」小春の表情は自然と明るくなった。「紅茶のお代わりは?」「もらおう」小春が頷いて、カップに手を伸ばしたときだった。小春の手が机の上の書類に触れ、ひらりと机から落ちる。「すみません!」小春は慌ててしゃがみ、落とした書類を拾った。「ありがとう」「いえ、落としたのは私なので……」声に変化があり、樹は小春を見た。小春は一枚の書類を見ていた。「小春……?」思わず尋ねると、小春がパッと書類から目を離す。「すみません!」「いや……何か、気になることがあるのか?」勝手に仕事の書類を見てしまったことに申し訳なさはある。だが、それ
Last Updated : 2026-08-20 Read more