皆川隆盛が退院する。朝食の席。耳元でささやかれた柳沢の報告に樹は顔をしかめた。周りの空気も静かに張り詰めた。「分かった」篠原樹は短く答える。顔からは、穏やかさが消えた。「いかがしましょう」柳沢の言葉に樹は迷うような表情を浮かべた。そして、そのまま小春を見てしまう。小春は何かがあったことには気づいていたのだろう。自分が食事中だから気を使っているのだ。そう思った小春は、残っていたクロックムッシュを大きな口を開けて食べる。早く食べ終えてしまおう。しかし、そういうときに限ってベシャメルソースが漏れ出る。いつもは大人しく、小さな口で食事をする小春の珍しい姿に樹は目を瞠る。そして、笑った。「慌てる必要はない」それは小春への言葉であり、柳沢への言葉でもあった。「先に食事をすませてしまう。考えることもあるから――ゆっくりとな」「畏まりました」柳沢は表情を緩める。「お食事中に失礼いたしました」柳沢は小春へ軽く一礼すると、そのまま食堂を出ていった。扉が閉まると、小春は遠慮がちに口を開いた。「お仕事のお話、でしたよね」「ああ」「……すみません」食べ続けず、自分が席を外すべきだった。食事を残してはもったいないのは確かだが、仕事の邪魔をしてしまった。申し訳なくて、小春は俯く。そんな小春へ、樹は静かに首を横へ振った。「気にしなくていい」「ですが……」「仕事の話だが、どうするか考える必要がある。それは、食べながらでも出来る」そう言うと、樹は自分のクロックムッシュを齧る。カリッといい音がした。「美味いな」今日の朝食は小春が作ったものだった。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-01 อ่านเพิ่มเติม