Tous les chapitres de : Chapitre 91 - Chapitre 100

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第91話

どんな気分かって?最高に決まっている。若葉がメッセージを受け取ったとき、ちょうど出かける支度をしていた。このあと、佳奈を迎えに空港へ行く予定だった。佳奈の出張が予定より早く終わり、早めに戻れることになったのだ。実は佳奈を迎えに行くと決める前に、若葉は昭夫にも電話をかけていた。すでに退職したので、必要なら今日からでも入社手続きができると伝えたのだ。だが、昭夫はそれほど急いでおらず、しばらく休むか、旅行にでも行ってきてはどうかと勧めた。その費用はすべて明和バイオが負担するという。しかし、若葉は断った。これ以上待たせるのは申し訳なかったし、あの場所を離れた今は心身ともに調子がよく、特に休養を取る必要もなかった。話し合った結果、若葉は翌週の月曜日から明和バイオで働くことになった。だからこそ、今日は佳奈を迎えに行く時間があったのだ。【すごくいい気分だよ】若葉はスマホを手に取り、和之に返信した。【それならよかった】和之からは、すぐに返事が届いた。若葉は時刻を確認し、もう一通送った。【これから友達を迎えに行くから、またあとでね】そのメッセージを見て、和之の指が止まった。入力欄には、まだ送っていない文章が残っていた。【この前のスキー場で、ちょうど今日イベントがあるんだ。よかったら行かないか?】和之は何も言わずにその文章を消し、若葉へ返信した。【分かった】支度を終えると、若葉は下へ降り、車に乗った。免許は持っていたものの、普段はあまり運転しないため、道中はずっと慎重に走った。佳奈の車を運転して空港に着いた頃には、予定よりかなり遅くなっていた。佳奈はすでに待っていた。若葉の姿を見つけると、抱きしめようと駆け寄りかけたが、数歩進んだところで急に足を止めた。その様子がおかしくて、若葉は笑いながら歩み寄り、佳奈のキャリーケースを受け取った。「どうしたの?1か月も会ってないから、私の顔を忘れた?」「わ、若葉、あなた……」「わ、私が……どうしたの?」若葉は佳奈の口調をまねた。なぜこれほど驚いているのかは分かっていた。ダイエットに成功してからというもの、若葉を見た人は皆、同じような顔をしていたからだ。「うん。ダイエットに成功して、昔の体型に戻ったの」佳奈は信じられない
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第92話

佳奈も笑った。「それなら、少しは役に立ったってことね。私が持ってても、遅かれ早かれ捨ててたと思うし」帰りの車内でも、二人の話は尽きなかった。若葉が退職したことを知った佳奈は、宗介に何か嫌がらせをされなかったかと尋ねた。「何もされてないよ」若葉は首を横に振った。「むしろ、早く辞めてほしかったんじゃないかな。そうすれば、全部のプロジェクトを涼香に任せられるから」「涼香に務まるの?」佳奈は鼻で笑った。「あの二人の関係なんて、この業界じゃ知らない人はいないでしょう。もう完全に開き直ってるわね。それより、時間ができたら離婚のことももう一度確認したほうがいいよ。あんな最低な男とは、早くきっぱり縁を切らなきゃ」「うん、分かってる」若葉も最近、そのことを考えていた。少し前まではそこまで手が回らなかったが、会社を辞めた今、次に片づけるべきなのは離婚の問題だった。「そういえば、新しい会社にはいつから行くの?」「来週の月曜日」「そんなに早いんだ。しばらく休むのかと思ってた。でも、早く仕事を始めるのもいいかもね。忙しくなれば、こんな嫌なことを考える暇もなくなるし」若葉は、もうこんなことには何の影響も受けないから大丈夫だと言いかけた。だが、佳奈が自分を気遣って言ってくれているのは分かっていた。「大丈夫。このところ、かなりゆっくりできたから、疲れることもないと思う」「それならよかった」佳奈はそう言うと、ふと思い出したように尋ねた。「そうだ。明和バイオが深津市で新しいプロジェクトに投資するって聞いたんだけど、若葉が向こうで担当するのって、そのプロジェクトじゃないの?」それは若葉も初耳だった。昭夫から入社について話を持ちかけられた際も、大まかな説明しか受けていない。具体的なプロジェクトの内容や役職についてはまだ何も聞いておらず、若葉もあえて尋ねてはいなかった。「それはまだ分からない。入社してからの配属次第かな。それより佳奈は、この業界とは関係ないのに、どうしてそんなに詳しいの?」佳奈は笑った。「明和バイオだよ?世界最大のバイオ企業なんだから、毎日のようにニュースで取り上げられてるし、知らない人のほうが少ないでしょう。それに、今回の深津市での新規プロジェクトは、少なく見積もっても2000億円規模ら
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第93話

その言葉を聞いた瞬間、若葉の頭には昭夫の顔が浮かんだ。佳奈の言うような光景を想像しただけで、全身に鳥肌が立つ。若葉は笑いながら佳奈をからかった。「小説の読みすぎだよ」「でも、本当に何があるか分からないじゃない」佳奈はまだ諦めていなかった。「いいご縁なんて、いつどこで巡ってくるか分からないものよ」「じゃあ、佳奈にはいつ巡ってくるの?」若葉も同じ言葉でからかい返した。「私はまだまだ先だよ。私のこと、知ってるでしょう?恋愛にはまるで興味がなくて、頭の中は仕事のことばっかりなんだから」「へえ、そうなんだ?じゃあ、大学時代に片思いしてた人は誰だったの?」佳奈は大学時代、ある男性に片思いしていた。相手が誰なのかは教えてくれなかったため、若葉も知らない。ただ、かなり本気で好きだったことだけは分かっていた。さっぱりした性格の佳奈が、その人の話になると決まって頬を赤らめた。授業を休んで学外のイベントに参加することも多かった。目的はただ、遠くからその人を一目見ることだった。当時から、若葉は佳奈が本気で恋をしているのだと分かっていた。「今も、その人と連絡を取ってるの?」「とっくに連絡なんて取ってないよ。それに、もう吹っ切れたから」そう言いながらも、佳奈は明らかに落ち着かない様子だった。「その人、結婚したの?」若葉がさらに尋ねると、佳奈は気まずそうに答えた。「そんなの知らないよ」だが、すぐに付け加えた。「たぶん、まだしてないんじゃないかな」その返事を聞き、若葉は佳奈がまったく吹っ切れていないと悟った。連絡は取っていないと言いながら、結婚していないらしいことは知っている。どう考えても、ひそかに近況を追っているのだろう。「相手がまだ結婚してなくて、佳奈も独身なら、もう一度頑張ってみたら?少なくとも、何もしないまま後悔せずに済むでしょう?」若葉は佳奈を励ました。だが、佳奈はすっかり弱気になった。「やっぱりやめとく。私はあの人の好みとは全然違うし、わざわざ傷つきにいくこともないでしょう。それに、今の一人暮らしも結構気に入ってるの。仕事もあるし、友達もいる。恋愛にのめり込んで、わざわざ苦しい思いなんてしたくないよ」若葉には反論できなかった。つい最近、恋愛で散々苦しんだばかりの自
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第94話

やはり、佳奈が箱を開けると、中に入っていたのは最近最も人気のあるシークレットだった。何度引いても当たらなかったものだ。佳奈はフィギュアを手に取ると、すっかり夢中になった。「若葉、大好き!これ、本当に当たらないんだよ!手に入れるまで、相当引いたでしょう?」「それほどでもないよ」若葉は運にも恵まれていたうえ、ちょっとした計算や観察のコツも使ったため、実際に引いた回数はそれほど多くなかった。ただし、何軒もの店を回り歩いたのは確かだった。「こんなに貴重なものをもらったら、どうお礼をしたらいいか分からないよ」佳奈は心から感激し、少し言葉がまとまらなくなっていた。「大したものじゃないよ。佳奈が私にしてくれたことに比べたら、全然足りないくらい。ジムの会員証やバッグをくれて、家にも住ませてくれて、宗介との離婚まで手伝ってくれたでしょう?どれを取っても、このプレゼントよりずっと大きなものだよ」だからこそ、若葉はきちんと佳奈に感謝を伝えたかった。もともとは今月の給料かボーナスでプレゼントを買うつもりだったが、そのどちらも宗介に支給を止められてしまった。かといって、昭夫から受け取った金に手をつけるわけにもいかない。あれこれ考えた末に、自分の気持ちを伝えるために選んだのが、このフィギュアだった。若葉は続けた。「今はあまり余裕がなくて、高いものは買えないから、とりあえずこれだけでごめんね。新しい会社で働き始めたら、改めて何か贈るから」「そんなのいらないよ。私はこれがすごくうれしい」佳奈はすぐに言葉を返した。「それに、私たちの間で、そこまできっちり貸し借りを分けなくてもいいでしょう?」「佳奈が気に入ってくれたなら、それでいいよ」プレゼントを見終えると、若葉はあらかじめ用意していた料理をテーブルに並べ、キャンドルに火を灯した。佳奈は、まるで自分とデートするつもりみたいだとからかったが、若葉も否定しなかった。どんな形であろうと、二人が楽しく過ごせればそれでよかった。その夜は二人ともあまりに楽しくて、少し酒も飲んだ。若葉は酒に弱いため、飲み終えるとシャワーを浴び、先に眠った。一方の佳奈はまだ余裕があり、シャワーを浴びてベッドに入ってからも、目が冴えていた。今日、若葉が用意してくれたものは、どれも佳
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第95話

和之は間違えて「いいね」を押したわけではなかった。若葉の写真を見て、わざわざ反応したのだ。「吉川佳奈」という名前の女性といつラインを交換したのか、和之はもう覚えていなかった。ただ、今日投稿された写真を見て、ようやく少し思い出した。大学時代、若葉はよくショートヘアの女性と一緒にいた気がする。では、あのときの女性が佳奈だったのだろうか。写真の佳奈は若葉とはタイプが違っていたが、澄んだ瞳と愛らしい顔立ちから、きっとさっぱりした性格なのだろうと思えた。和之はスマホを閉じ、それ以上見ることはなかった。一方、佳奈はメッセージを送るかどうかいつまでも決められず、最後には諦めてそのまま眠ることにした。夜は淡い月明かりに包まれていた。思いを抱えたまま眠りにつく者がいる一方で、まだ慌ただしく動き回っている者もいた。盛沢市、水明湾の高級住宅街。司は窓辺に立ち、電話をしていた。黒いシャツとスラックスを身につけた姿はすらりと伸び、凛とした雰囲気をまとっている。背後のシャンデリアの光が横顔に差し、その端正な顔立ちをいっそう際立たせ、息をのむほど美しく見せていた。電話の相手は昭夫だった。昭夫にも、自分の上司がなぜ突然、深津市へ拠点を移すと言い出したのか分からなかった。しかも急な話で、明日の朝には出発しなければならないという。移動手段や身の回りの荷物は、さほど問題ではなかった。明和グループには自家用ジェットがあり、必要な飛行手配もすぐに整えられる。いつ出発し、どれだけ荷物を運ぶかも、司の一言で決められる。難しいのは、スケジュールと仕事の調整だった。昭夫は念のため伝えた。「宮本社長、年末が近いため、これから各支社の責任者が面会にいらっしゃいます。私の記憶が正しければ、明日は南部支社の高橋支社長がお見えになる予定です」司は少しも考えることなく答えた。「日程を組み直せ。場所も深津市に変更する」「ですが、ご出席予定の行事もございます。行政との共同事業に関するものも多く、そちらは簡単に変更できません」「断れるものはすべて断れ。外せないものがあれば、その都度こちらへ戻る」「では、ご両親との夕食はどうなさいますか?」昭夫は仕事上の補佐だけでなく、司のプライベートに関する予定にも携わっていた。宮本家に仕
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第96話

「何だ。何かあるのか?」その話が出て、司はようやく昭夫に目を向けた。先ほどまで昭夫の問いに一つひとつ答えてはいたものの、視線を向けることは一度もなかった。それが若葉の名前を出した途端、初めてまともに昭夫を見たのだ。昭夫に異論などあるはずもなく、慌てて説明した。「いえ、何もありません。ただ、何か特別な準備が必要かと思いまして。若葉さんにとっては慣れない環境ですから、少しでも温かく迎えたほうがよろしいかと」「ああ」珍しく司は昭夫の意見に同意した。「お前に任せる。ただし、彼女を驚かせるようなことはするな」その言葉に、昭夫は思わず呆気に取られた。この優しく気遣うような口調は、本当に世間から冷酷無情と恐れられているあの社長なのだろうか。「早く行け」司に促され、昭夫は我に返った。「すぐに手配いたします」オフィスを出たあとも、昭夫は先ほどのことをしみじみ考えていた。若葉のおかげで、自分も司のこんなに優しい一面を見ることができた。とはいえ、昭夫にはやはり、いつもの冷淡な司のほうが馴染み深い。先ほどの司には、どこか違和感があった。月曜日、若葉は仕事用のスーツを選んで身につけた。痩せた今は何を着てもよく似合い、もともとの肌の美しさと整った顔立ちも相まって、明和グループへ出社したその姿は、社員というより、雑誌の表紙撮影に現れた人気女優のようだった。社内に入った途端、周囲の視線が一斉に若葉へ集まった。誰もが食い入るように見つめていた。「やばっ。今、ものすごい美人が俺の横を通らなかった?あんなにきれいな人、生まれて初めて見たんだけど。スタイルも雰囲気も、芸能人以上だろ!」「分かる。思わず見とれちゃった。それに、すごくいい香りがしたよね。そばを通っただけで、ぼうっとしちゃった。仕事中じゃなかったら、絶対追いかけてサインをもらってたよ」「聞いた話だと、あの人が今度の新規プロジェクトの責任者らしいよ。社外から引き抜かれて、今日が入社日なんだって」「本当に?あんなにきれいで、仕事までできるなんて、『天は二物を与えず』なんて、絶対嘘でしょ。あの人の前じゃ、私なんてただのモブだよ」「普段からモブじゃない?」隣にいた同僚が笑いながら言った。からかわれた本人は不満そうに言い返した。「はいはい、私はモブ
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第97話

若葉は、昭夫がダイエットのことを言っているのだと分かり、ごく自然に答えた。「はい。少し痩せました」昭夫は以前の若葉も十分きれいだったと思っていたが、痩せたことで、立ち姿も雰囲気もいっそう上品になったことは認めざるを得なかった。物静かで、柔らかな雰囲気をまとっていた。「以前にも増しておきれいになりましたし、雰囲気もさらに素敵になりましたね」同じ褒め言葉でも、昭夫の口から聞くと、品定めするような嫌な感じはまったくなかった。心から若葉の変化を認め、褒めてくれているのだと伝わってくる。「ありがとうございます」二人はそのまま話をしながら入社手続きを済ませた。すると昭夫は、今度はオフィスまで案内すると申し出た。若葉はすぐに断った。これほど忙しい人を、いつまでも自分に付き合わせるわけにはいかない。入社手続きに同行してくれたのは、初めて来た若葉が迷わないようにするためとも考えられるが、オフィスまで案内してもらう必要はなかった。「もう大丈夫です。一人で行けますから、一ノ瀬さんはほかのお仕事に戻ってください」だが、昭夫は答えた。「お気遣いは無用です。本日の私の最優先事項は、若葉さんの入社に必要な手配をすべて滞りなく終えることですから」そう言って、すでに若葉とともにエレベーターへ乗り込んでいた。若葉のオフィスは25階にあり、個室が用意されていた。周囲にはプロジェクトの各担当者が配置され、基本的な体制はすでに整えられているものの、最終的な確認と判断は若葉に委ねられていた。オフィスには淡く上品な香りが漂い、観葉植物と花も美しく調和していた。細部まで考えて整えられたことが、ひと目で分かる。室内へ足を踏み入れた途端、若葉は温かみを感じた。以前の会社に入ったとき、誰からも相手にされなかった状況とは、まさに雲泥の差だった。若葉は改めて昭夫に礼を伝えた。だが、昭夫は気にする必要はないと答えた。何しろ、これらを用意させたのは別の人物なのだから。若葉にはその意味が分からず、昭夫が謙遜しているのだと思った。そして、オフィスの入口にあるプレートへ目を向け、再び驚いた。そこには、はっきりと「VP」と記されていたのだ。VP――Vice President。文字どおり、副社長に相当する役職であり、
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第98話

だが、若葉が戸惑ったのは、プロジェクトのことではなかった。入社前にネットでプロジェクトの情報や研究分野について調べ、今回のプロジェクトは難易度が高く、国内では前例がないものの、決して実現不可能ではないと分かっていた。経験と根気さえあれば、あとは時間の問題だった。若葉が本当に慣れずにいたのは、これほど信頼されることだった。以前の会社では、自分のチームと接するとき以外、周囲から冷遇され、疎まれることばかりだった。支えてくれる人がいて、応援してもらえるとは、こういうことなのだ。心にぽっかり空いていた穴が埋まり、たとえ失敗に直面しても恐れず、何の心配もなく前へ突き進めるような気がした。それなら、もう多くを語る必要はない。これから成果を出し、自分を選んだことが間違いではなかったと証明すればいい。若葉の案内を終えると、昭夫はすぐに司のオフィスへ報告に向かった。司のオフィスは26階にあった。若葉のオフィスより一つ上の階にあるものの、全体のレイアウトも造りもまったく同じで、日当たりまで少しも変わらなかった。これは以前、司がわざわざ指示したことだった。昭夫にはその意図が分からなかったが、言われたとおりに手配していた。扉を開けると、司は窓辺に立っていた。物音に気づいて振り返り、尋ねた。「すべて整ったか?」「はい、滞りなく」昭夫は答えた。昭夫の位置からは、司の均整の取れた体つきと端正な顔立ちがよく見えた。昭夫は心の中で、司なら今の仕事をしていなくても、どの業界でもきっと成功していただろうと思った。「どうだった?気に入っていたか?」「はい。花も観葉植物も、オフィスの内装も気に入ってくださいました。ただ、役職については高すぎるのではないかと気にされていたようです。ですが、ご指示どおりに説明したところ、それ以上は何もおっしゃいませんでした」昭夫は一つずつ報告した。「ああ」司はうなずいた。若葉がそう考えることは予想していたため、あらかじめ昭夫にも説明しておいたのだ。「それから、もう一つございます。ご報告すべきか迷っているのですが……」「彼女に関することか?」「はい」「なら、何をためらっている?」昭夫は気まずそうに咳払いした。若葉本人に関することではあるものの、仕事とは無
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第99話

司が25階へ下りたとき、見えたのは若葉の後ろ姿だけだった。入社研修があり、担当者に呼ばれてその場を離れるところだった。昭夫が言っていたとおり、若葉は痩せていた。体型も、まとっている雰囲気も以前とは違っていた。だが、どれほどきれいになったかと聞かれても、司にはよく分からなかった。もともときれいだと思っていたからだ。司の目には、今も変わらず若葉は若葉だった。それよりも気になったのは、この1か月足らずの間に、彼女がどんなつらい思いをしてきたのかということだった。これほど痩せた姿を見れば、その苦労は想像に難くなかった。先ほど昭夫は、女性はきれいになるためにダイエットをするものだと言っていた。だが、司にはどう考えても理解できなかった。これが年齢の差というものなのだろうか。何しろ司は、若葉より10歳も年上だった。その点、若葉の夫は同い年だ。彼なら若葉の気持ちも理解でき、共通の話題もあるのだろう。今回ダイエットをしたのも、夫のためなのかもしれない。司は以前から、若葉が長年想い続けてきた相手と、念願かなって結婚したことを知っていた。そもそも、あの事故がなければ、司が若葉と知り合うこともなかったのだ。司は眉をひそめると、そのまま25階を離れ、自分のオフィスへ戻った。研修を終えて戻ってきた若葉は、女性社員たちが、社長がどれほど格好よかったかと話しているのを耳にした。つい見惚れてしまった、スタイルも雰囲気も芸能人以上だった、ただあまりにも冷たく、誰も寄せつけないような空気をまとっていた――そんな話で盛り上がっていた。若葉は不思議に思った。先ほど昭夫がここにいたときには、それほど大きな反応を見せていなかったはずだ。それなのに、いなくなった途端にこの騒ぎようである。本人の前では平静を装っていたのに、いなくなった途端、こんなに夢中になって盛り上がるものなのだろうか。それに、「冷たくて人を寄せつけない」という評判を聞くのも、これが初めてではなかった。だが、若葉の目には、昭夫はとてもそんな人には見えない。もしかすると、自分の知らない一面があるのだろうか。若葉はそこで考えるのをやめた。人には誰しもさまざまな一面がある。驚くようなことでもなかった。初日は、社内の様子や社員の顔を覚え、プロジェクトの概
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第100話

若葉は、今度こそ本気で驚いた。「それ、どうして知ってるの?」「簡単よ」美津子はどこか得意げに答えた。「毎日ここにいれば、嫌でもいろいろな噂が耳に入ってくるもの。少し気をつけて聞いていれば、すぐ分かるわ」だが、それは本題ではなかった。美津子が本当に言いたかったのは、その先だった。「前にお母さんが送った写真、覚えてる?瑞光総合病院のオーナーが写ってた写真」「覚えてるよ」若葉は美津子を見つめ、続きを待った。「じゃあ聞くけど、今日、入社先で社長に会った?同じグループなら、社長も同じ人でしょう?どうだった?格好よかった?前にお母さんが言ったとおり、芸能人より格好よかったでしょう?」散々話を引っ張った末に、まさかそこへ行き着くとは思わず、若葉は呆れながらも笑ってしまった。そして、美津子の口調をまねて答えた。「会ったよ。格好よかった。すごく格好よくて、芸能人より格好よかったよ」「じゃあ、若葉の好みのタイプ?」美津子はここぞとばかりに畳みかけた。それを聞いた若葉は、危うく食べ物を吹き出しかけた。昭夫が自分の好みのタイプかと言われても、それはない。「違うよ」若葉は正直に首を横に振った。「そう……」美津子はがっかりした様子だった。「お母さん、ずっと楽しみにしてたのに。あれだけ格好いい人なんて、現実ではなかなかいないから、若葉もきっと気に入ると思ってたのよ」若葉は呆れた。いったい何をそんなに楽しみにしていたのだろう。そもそも、仮に自分が昭夫を好きになったところで、相手も自分を好きになるとは限らない。「ほら、早く食べて」若葉は美津子の皿に料理を取り分け、その話を終わらせた。食事を終えても、若葉はすぐには帰らず、美津子と一緒にテレビを見ていた。途中で電話に出るため病室を離れたが、戻ってくると、ちょうど大勢の人が美津子の病室から出てくるところだった。病室の前には幾重にも人垣ができていて中へ入れず、若葉は人が引くのを待ってから、ようやく病室へ戻った。若葉を見るなり、美津子は興奮した様子で言った。「今来ていたのが、明和グループの社長よ。わざわざ患者のお見舞いに来てくれたの。まだ遠くまでは行ってないはずだから、挨拶してきたら?」若葉は特に行くつもりはなかった。だが、
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