考えてみれば、宗介が若葉の前でここまで感情をあらわにし、長々と話したのは初めてだった。だが、若葉の心は少しも動かなかった。もう彼のために一秒たりとも時間を無駄にしたくない。先ほどの問いにも答えず、単刀直入に切り出した。「離婚協議書には、いつ署名してくれるの?」「そんなものは見ていない」わざと話をこじらせているのは分かっていた。それでも、さっさと片づけるために、若葉は辛抱強く答えた。「もう一度送るわ。条件に問題があるなら早めに言って。できれば今月中には決着をつけたいの」「無駄だ。俺は署名しない」「どうして?」若葉にはまったく理解できなかった。宗介も涼香も、それを望んでいたはずではないか。今は一刻も早く離婚し、宗介との関係を完全に終わらせたい。そのためなら、多少譲歩しても構わないと思っていた。「条件は話し合えるし、そっちに希望があるなら聞く。私が望んでいるのは一つだけ。できるだけ早く離婚することよ」ここまで歩み寄れば、さすがの宗介も応じるだろうと思った。ところが、宗介はまるで取り合わなかった。「いつから、お前が俺にそんな条件を出せる立場になった?」冷たく言い放った。「離婚するにしても、切り出すのは俺だ」これ以上付き合っている時間はない。若葉は最後の手段を口にした。「それなら、離婚調停を申し立てるしかないわね」ところが宗介は怒るどころか、薄く笑った。「やってみればいい。深津市で、お前の依頼を引き受ける弁護士が見つかればな」若葉は宗介をまっすぐ見据えた。「本当に恥知らずね」吐き捨てるように言うと、そのまま車を降りようとした。もう一秒たりとも、同じ空間にいたくなかった。だが、指先がドアに触れた瞬間、カチッと音がしてロックがかかった。直後、横から伸びてきた手に顎をつかまれ、強引に顔を向けさせられる。宗介だった。視線がぶつかった瞬間、若葉は嫌悪を隠そうともせず声を上げた。「何するの?放して!」宗介は目を細めた。「今、俺を何て言った?」若葉は鋭くにらみ返す。「恥知らずだって言ったの。間違ってる?自分が何をしてるのか、少しは考えてみたら?」さらに冷たく言い放った。「むしろ、これでもまだ言い足りないくらいよ」宗介は若葉をじっ
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