身支度を終えた宗介は、ようやく階下へ向かった。涼香は不満を抱えたまま、そのあとをついていく。移動中の車内には、宗介がいるせいか重い空気が漂っていた。ほとんど誰も口を開かない。たまに声が聞こえるのは、宗介が何かを尋ね、ほかの者が答えるときくらいだった。30分ほどで、車は明和バイオに到着した。車を降りた宗介は、そのまま大股で先へ進んでいった。立ち止まる気配もなく、明らかにいつもより足が速い。涼香は、会議に遅れるのを気にしているのだと思い、声をかけた。「宗介、そんなに急がなくても大丈夫よ。始まるまで、まだ30分もあるでしょう」「ああ」返事はしたものの、歩く速さは少しも変わらない。一行は仕方なく、そのあとを早足で追った。宗介自身は、なぜこんなに先を急いでいるのかよくわかっていた。何度も会い損ねたせいで、相手への興味はますます強くなっている。これまで散々自分を苛立たせてきた女が、今度こそ目の前に現れる。どんな人間なのか、この目で確かめたい。そして、自分にここまで逆らったことを後悔させてやるつもりだった。会議室へ着くと、まだ開始前だったこともあり、中にいたのは修司とその部下たちだけだった。宗介は室内をひととおり見回した。だが、探している相手の姿はない。眉をひそめて尋ねた。「案件責任者は?」修司は愛想よく笑い、すぐに答えた。「安藤副社長のことですか?少し用事がありまして、すぐにいらっしゃいます」「安藤」という姓を聞いた瞬間、宗介も涼香もわずかに反応した。先に口を開いたのは涼香だった。「前は、安田って名字だって言ってなかった?」修司がそう話していたのは事実だった。若葉が来たばかりの頃、彼は彼女をまったく相手にしておらず、会議にもまともに顔を出していなかった。名字すらきちんと覚えていなかったほどだ。「申し訳ありません。以前、勘違いしておりました」修司は笑顔のまま取り繕った。だが、日頃から彼を怒鳴りつけている涼香は、容赦しなかった。「名字まで間違えるなんて、いったい何をしてるの?」言い終えた途端、宗介を含むその場の全員の視線が集まった。涼香はようやく言いすぎたことに気づき、気まずそうに口を閉じた。冷静に考えれば、自分でも少し過剰だったと思う
Read more