――どうやら、この屋敷には狼族以外の誰かが入り込んでいるらしい。「本当か?」 騎士が半信半疑でニールを見る。「本当だ」 ニールは真剣な顔で床にしゃがみ込み、鼻をひくひくと動かした。「兄ちゃんもわかるだろ?」 メイナードも静かに目を閉じる。 少しだけ空気の匂いを確かめるように息を吸うと、小さく頷いた。「ああ」「狼族の臭いじゃない」 その一言で、食料庫の空気が変わった。「では、犯人は……」「まだ屋敷の中にいるかもしれねえ」 ニールが立ち上がる。「肉だけ持って逃げるなんて変だ」「変?」 私が首を傾げると、ニールは当たり前のように言った。「食うなら、その場で食えばいい」「そういうものなの?」「狼は腹が減ったら食う」 なるほど。 言われてみればそうだ。 わざわざ塩漬け肉を抱えて逃げる狼なんて聞いたことがない。「つまり、人間かもしれないってこと?」「いや」 メイナードが首を横へ振った。「人間とも限らない」「え?」「少なくとも、狼族ではない」 その言葉に、お父様は険しい顔になる。「騎士隊」「はっ!」「屋敷の門を閉じなさい。誰も外へ出すな」「承知しました!」 騎士たちが慌ただしく走っていく。 食料庫の中には、私とメイナード、ニール、お父様だけが残された。「ねえ」 私は床に残った足跡を見つめる。「二人なら、この足跡を追える?」 ニールはニヤリと笑った。「当たり前だ」「兄ちゃんより先に見つけてやる!」「競争することじゃない」 メイナードが苦笑する。「シェリルを危険な目に遭わせるな」「わかってるよ」 そう返事はしたものの。 ニールの耳はぴくぴくと嬉しそうに動いていた。 どうやら兄と一緒に何かをすること自体が楽しいらしい。「じゃあ、お願いね」 私がそう言うと、ニールは少しだけ目を丸くした。「……オレに?」「そう」「兄ちゃんじゃなくて?」「二人とも」 私は笑う。「狼族のことは、二人の方がずっと詳しいもの」 ニールは照れくさそうに鼻をこすった。「……しょうがねえな」「任せろ!」 そう言って勢いよく飛び出そうとした、そのときだった。「待ちなさい!」 料理長の悲鳴が響く。 振り返ると、食料庫の奥に積まれた樽が、ガタン、と大きく揺れた。「誰かいる!」 騎士たちが一斉に
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-07 Mehr lesen