「ヴィクター様!」 少し離れた場所から、侍女たちの慌てた声が響いた。 え? この子がヴィクター? そう思って目の前の男の子を見たけれど、すぐに違うと気付いた。 侍女たちが見ているのは、私たちの後ろだった。「いつまで座り込んでいる」 冷ややかな声が落ちてくる。 振り返った瞬間、私は息を呑んだ。 私たちから少し離れた場所に、一人の少年が立っている。 艶のある黒髪。 鮮やかな青い瞳。 まだ八歳のはずなのに、周囲の子供たちとは明らかに雰囲気が違った。 背筋をまっすぐに伸ばし、こちらを見下ろす姿には、すでに人の上に立つ者の威厳がある。 ――ヴィクター・オルブライト。 皇太子にして、原作の攻略対象の一人。 尊大で冷酷な俺様皇子。 大人になった彼は、自分に興味を示さないヒロインを何としても振り向かせようとする。 私が原作で一番苦手だった男だ。「兄上!」 エリオット殿下が嬉しそうに声を上げた。「いらしていたのですか?」「ああ」 ヴィクター殿下は短く答える。 それから、芝生の上で尻もちをついた男の子へ視線を向けた。「立て」「は、はい!」 男の子は慌てて私の手を借り、立ち上がった。 その途端、周囲にいた子供たちが一斉に遊ぶのをやめる。 さっきまで響いていた笑い声が、嘘みたいに消えた。 全員が姿勢を正し、ヴィクター殿下へ頭を下げている。 私もすぐにドレスの裾をつまみ、礼をした。「皇太子殿下にご挨拶申し上げます。ランカスター公爵家のシェリル・ランカスターでございます」「面を上げろ」「はい」 顔を上げると、青い瞳が私を値踏みするように見つめていた。「お前がシェリルか」「はい、殿下」「父上か
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-13 Mehr lesen