LOGIN逆ハーレム小説のヒロインに転生した私。でも攻略対象はヤンデレに俺様、変人魔法使いとクセ者ばかり! 一番の推しだった狼族の幼馴染だけは幸せにしたいと彼が歪む未来を書き換えた結果、王子だった彼は私だけに忠誠を誓う執事になってしまう。優しくなったはずなのに、私への執着だけは予想以上で!? 「お嬢様、あなたをお守りするのは私だけで十分です」 執着執事×転生公爵令嬢の異世界溺愛ロマンス!
View More「おかあさまー!」
元気いっぱいの声とともに、小さな女の子が芝生を駆けてくる。 私は両手を広げ、その小さな身体を抱きとめた。 「お帰りなさい、リリア」 「ただいま! 今日はね、剣のおけいこで先生にほめられたの!」 「まあ、それはすごいわ」 頭を撫でると、娘は得意げに胸を張る。 その隣に、銀髪の青年が静かに歩み寄った。 「お嬢様。お疲れではありませんか?」 「もう、お嬢様じゃないでしょう? 結婚したのは何年前のことだと思ってるの?」 「人生の大半を、あなたにお仕えして過ごして来ましたから」 昔と変わらない穏やかな笑みに、思わず苦笑がこぼれる。 そのやり取りを見ていた娘が、不思議そうに首を傾げた。 「ねえ、おかあさま」 「なあに?」 「パパって、どうしていつもおかあさまのそばにいるの?」 「え?」 「だって、おうちでも、お仕事でも、いつもいっしょ!」 私は思わず吹き出した。 「それはね……昔、お母様が失敗しちゃったからなのよ」 「しっぱい?」 「そう。本当は、この人を『負け幼馴染』にする予定だったの」 「まけ、おさななじみ?」 聞き慣れない言葉に、娘はきょとんと目を丸くする。 「主人公のことが大好きなのに、最後には別の人に恋人を取られちゃう人のことよ」 「えぇ!? かわいそう!」 「今にして思うと、そうだったんだけど……。この人、勝っちゃったのよね」 「勝っちゃった……?」 「そうよ。負け幼馴染になるどころか、私と結婚しちゃったの」 「あなたの言うことは、いつもよくわかりませんけれど。私は、あなたの夫になれて幸せでしたよ」 「もう、過去形で言わないで。私を手放す気でもあるの?」 「まさか。……逃がしませんよ、絶対に」 キョトンとした顔の娘を私の腕から片腕で奪い返して、そうして、メイナードは代わりに自分が空いた隙間に収まってきた。 まったく、この独占欲は昔から変わらない。 ……どうやら、私は修正する方向を少し間違えてしまったらしい。 だから――気づけば私は、この人に誰よりも深く愛され、誰よりも強く執着されることになっていた。 そう、これは、ヤンデレヒーローを負け幼馴染に修正しようとしたはずが、なぜか推しの執着をさらに深めてしまった、一人の転生公爵令嬢のお話である。 ――すべては、私がこの世界に転生した日から始まったのだ。男の表情が、わずかに強張った。 それでもすぐに笑みを作り直し、深々と頭を下げる。「もちろんでございます」「私どもに隠すようなことは何もございません」 エドワード公爵様は静かに頷かれた。「では、いくつか聞こう」「はい」「まず、ミアはなぜ薬草園へ入った」「それは……」 男は困ったように眉を下げる。「この子は昔から落ち着きがなく、時々勝手に抜け出してしまうのです」「今日は姿が見えなくなったものですから、皆で探しておりました」「薬草を盗んだ理由は?」「分かりません」 男は首を横に振る。「空腹だったのかもしれません」「孤児院では毎日きちんと食事を出しておりますが、育ち盛りですから」 その言葉に、私は思わずミアを見た。 小さな腕。 細い首。 決して、十分に食べている子どもの体には見えなかった。 けれど、今は何も言わない。 見た目だけで決めつけることはできないから。「ミア」 エドワード公爵様が穏やかに声を掛けられる。「この人の言う通りか」 ミアはびくっと肩を震わせる。 男の方を見る。 そして、小さく俯いた。「……」 何も言わない。「怖がることはない」 エドワード公爵様は穏やかな口調を崩されなかった。「ここで話したことで、お前を責める者はいない」 ミアは唇をぎゅっと結ぶ。 何度も何度も言葉を飲み込み、最後に小さく首を横へ振った。「ちが……」 かすれた声だった。 男の顔がぴくりと引きつる。「ミア」 男は笑顔のまま声を掛ける。「ちゃんとお話ししなさい」
「この子はひどく臆病でして」「すぐ怯えてしまうんです」 男は愛想笑いを浮かべた。 けれど、その笑顔はどこかぎこちない。 私は隣にいるミアへ目を向ける。 男が話し始めてから、一度も顔を上げていない。 膝を抱え、小さく体を縮めている。「ミア」 私はそっと声を掛けた。「この人のこと、知っているの?」 ミアはびくりと肩を震わせた。 答えない。 ただ、震えるばかりだった。「ほら」 男は乾いた笑みを浮かべる。「いつもこうなんです」「人見知りがひどくて」「そうか」 エドワード公爵様は穏やかな表情を崩されなかった。「名前を聞こう」「わ、私はマルコと申します」 男は慌てて一礼する。「町外れの聖リュミエール孤児院で子どもたちの世話をしております」「今日はこの子が勝手に抜け出したものですから、探しておりました」 ずいぶんと滑らかに話す。 まるで、前から用意していた言葉のように。「ミア」 私はもう一度だけ、優しく声を掛けた。「お腹はいっぱいになった?」 こくり。 小さく頷く。「よかった」 私は微笑んだ。「じゃあ、一つだけ教えてくれる?」 ミアは不安そうな目で私を見る。「この人と一緒に帰りたい?」 その瞬間だった。 ミアの顔から、さっと血の気が引いた。 首を横に振ろうとして。 男と目が合う。 ぴたり、と動きが止まった。「……」 唇が震える。 何か言おうとしている。 でも、声にならない。 やがて、小さく俯き――。「…&hel
薬草園の外れ。 木々の陰から、誰かがこちらを窺っていた。 その姿を見た瞬間、ミアの小さな肩がびくりと震える。「……っ」 ぎゅっと唇を噛み締め、今にも泣き出しそうな顔で俯いた。 私はその変化を見逃さなかった。 知っている人なのだ。 少なくとも、ミアにとって怖い相手。「誰だ」 ヴィクター殿下の低い声が響く。 木陰の人影は、こちらの視線に気付くと踵を返した。「逃げます!」 護衛騎士が駆け出そうとする。 その瞬間だった。「メイナード」 私が声を掛ける。「お願い」「ああ」 メイナードは短く頷くと、風のように駆け出した。 あっという間に木立の中へ消えていく。「いや……」 ミアが小さく呟いた。「やだ……」 その声は震えていた。 私はそっとミアの背中へ手を添える。「大丈夫」 優しく声を掛ける。「メイナードは強いから」 ミアは何度も首を横へ振る。「ちがう……」「ちがうの……」 それ以上は続かなかった。 涙が溢れ、また俯いてしまう。 私はそれ以上聞かなかった。 今は話せないのだろう。 しばらくして、木立の向こうから足音が近付いてくる。 戻ってきたメイナードの隣には、一人の男がいた。 三十代くらいだろうか。 粗末な服を着た男は、護衛騎士に腕を取られている。 薬草園へ連れて来られると、男は集まっている人々を見回した。 豪華な服を着た貴族たち。 護衛騎士。 そして、自分を取り押さえたメイ
ほどなくして、執事がお盆を持って戻ってきた。 湯気の立つ温かいお茶。 それから、小さく切り分けられたパンと、具の入った温かなスープ。 香りが漂うと、子どものお腹が小さく鳴った。 その音に、子どもはびくりと肩を震わせる。 恥ずかしかったのだろう。 慌ててお腹を押さえ、俯いてしまった。「……食べていいのよ」 私がそう言うと、子どもは恐る恐る私を見上げた。「でも……」「怒られない?」「ええ」 私は優しく頷く。「今日は誰もあなたを怒らないわ」 それでも、子どもはすぐには手を伸ばさなかった。 ちらり、と周りの大人たちを見る。 怖いのだ。 食べてもいいと言われても、信じられないくらいに。「エドワード公爵様」 私は振り返った。「皆様、少しだけ離れていただけませんか」 研究者たちは顔を見合わせる。「離れる?」「大勢に囲まれていたら、きっと安心できません」 エドワード公爵様はすぐに頷かれた。「そうですね」「皆、少し距離を取りましょう」 研究者たちも騎士たちも、一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。 それでも、万が一に備えて護衛だけは少し離れた場所で見守っていた。 残ったのは、私とエドワード公爵様、それからヴィクター皇太子殿下とサイラス、メイナードだけだった。「これなら、少し安心できるかしら」 私はパンを小さくちぎり、自分で一口食べてみせる。「ほら、大丈夫」「美味しいわ」 子どもは私とパンを何度も見比べていた。 やがて、おそるおそる手を伸ばす。 パンを受け取ると、小さく口へ運んだ。 一口。 また一口。 その動きは