「昨日のことで迷惑かけたね」 也夜から携帯番号をもらっていた來は、その夜すぐにお礼のメールを送った。 返事は驚くほど早く、次の休みに会いたいと書かれていた。 そして二日後。二人は駅近くの老舗の喫茶店で待ち合わせた。 店内には昭和の香りが残り、壁には古いジャズのポスター。 名物の鉄板スパをそれぞれ注文し、運ばれてきた瞬間、同じものを頼んでいたことに思わず笑い合った。 也夜は色の薄いサングラスを外し、胸ポケットにしまう。 店内の柔らかな照明に、整った顔立ちがいっそう際立った。「いえ……僕のほうこそ。あそこまで切っちゃって」「マネージャーには怒られたけど、社長は“いいんじゃない?”って言ってくれたよ」「そうなんだ。じゃあ、仕事に影響はなさそう?」「大丈夫、大丈夫。君も大輝さんに搾られた?」「絞られましたよ、ほんと……参りました」 そのタイミングで鉄板スパが運ばれてくる。 香ばしいソースの香りに、ふたりの笑顔が自然とこぼれた。 店員は五十代くらいの女性で、也夜のことには気づいていないようだった。「ここ、よく来るの?」「子どもの頃、親に連れて来られてね。老舗だし、若い人はあんまり来ないだろ?」 周りを見渡すと、確かにスーツ姿のサラリーマンや年配客が多い。 來も以前、大輝に連れられて一度だけ来たことがあったが、それ以来だった。「でも、也夜さんくらい有名だと、すぐ見つかっちゃいません?」「……そうだね。ありがたいけど、怖いときもある。 こういう仕事って、どれだけ長く愛されるかが勝負だから」「なんか……僕には想像できない世界です」 フォークを動かしながらそう言うと、也夜がゆっくりと來を見た。 その視線が、まっすぐに心を射抜く。 少し前のシャンプー台での眼差しを思い出し、來の胸がざわついた。「……來くんってさ」 也夜は少し笑い、フォークを皿に置いた。「目を逸らすの、下手だよね」 來は思わず息を呑んだ。 何かを見透かされているようで、顔が熱くなる。「來くんも、こっちの世界に入ったら絶対モテるよ。背も高いし。百八十は超えてるよね?」「はい……一八五あります」「僕よりあるんだ。てっきり同じくらいかと思ってたけど、僕は一八三」 モデルとして活躍する也夜より背が高いと知って、來は少し驚く。 だが、猫背ぎみのせいでそう見え
最後更新 : 2026-07-23 閱讀更多