Partager

第二十八話

Auteur: 麻木香豆
last update Date de publication: 2026-07-30 06:23:27

「本当に手を出した相手を間違えたね」

 再び喫茶店。今は夜。ディナーで仕事終わりの隆とカウンターでご飯を食べる來。

 カウンターの中にいる祐がそう來に投げかけた。

 來は項垂れている。そんな彼に湊は肩を叩く。

 大輝からしばらく休むようにと言われたあと色々わかったことがあったのだ。

 リカが來と付き合っていたことが公に露呈し、他のツートップのメンバーたちの結婚引退も抱き合わせですぐに卒業公演、西流ガールズNeoの解散に向かっていくのだが……。

 リカはそもそも親が大輝の店と取引のある美容有名メーカーの社長であり、西流ガールズNeoではツートップが抜けてから猛プッシュして稼いでいこうと目論んだものの今回の交際発覚と、更なる事実で崩れてしまったのだ。

 なんとリカはSNSの裏アカを所有しており、もともと也夜のファンだった彼女はそのためにアカウントを作っていた。也夜のことを推す呟き、也夜が事故にあってから復帰を祈る呟きが多かった。

 しかしアイドル活動や美容学校での人間関係の愚痴(固有名詞は無かったが)、オタクたちのことが増えていき、來と関係を持ってからは推しであった也夜の恋人と関係を持て
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 君のことを忘れたいから遠回りしてきた   第四十話

     それから來は、ぽつぽつと語られる分二と也夜の昔話を聞くことになった。断片的な出来事のどれもが、分二がどれほど也夜を可愛がっていたのかを雄弁に物語っていた。 当時、分二は大学生で、也夜はまだ高校生。ファンの中でも目立つ存在だった分二は、人気が出る前の也夜にずいぶんと肩入れしていたらしい。ライブやイベントに来るたび真っ先に彼を見つけ、誰よりも熱心に応援していたその様子に、事務所のスタッフでさえ驚いたほどだという。 あまりに一途で、あまりに距離が近い。「友人ですか?」「親戚の方……?」 そんな訝しむような声まで上がったほどだが、もちろんどれも違う。 分二はただ誰より早く、誰より深く、也夜に魅せられていたのだ。「もともと当時の彼女に誘われて行ったんだよ。その子の推しからチケット買うとポイントが貯まるって。で、たまたま違うファンの友達が行けなくなって余ったから恋人の僕に行かないかって。普通恋人に渡すかい?」「ないね」「だろ、でも人が少ないと可哀想とか言われて。当日も僕と違う男を前にキャーキャー言ってるの見てさ。うんざりだった」「普通なら行かないよね……僕なら途中で帰る」「僕も帰ろうとしたんだよ。……そこで也夜がいたんだよ」 分二が言うにはまだ研究生だった也夜が先輩たちのライブの間に出てきてグッズ宣伝をするとのことだ。 その時間内はトイレに行ったり床に座るファンたちばかりでライブの熱狂はどうしたとばかりのものだったらしい。 分二の当時の彼女も外でタバコ吸うと言って出て行ったらしい。荷物を置いて。だからその場から離れられなかった分二はまだ売れてもいない研究生のコーナーを見ることになる。 まだ人前に慣れていない研究生たちのコーナーは稀にファンや家族や友人たちがいて声かけたりもするがちゃんとしたファンはついていない。 徐々に増えていく子もいれば未だ立っても人気が出なかったりそもそもこのコーナーを見てる人はそんなにいなかったと言う。 分二は不憫だなと思いながら研究生たちのコーナーを見る。5人ほどの中に一際背の高い青年がいた。背が高くても猫背で長い前髪で暗い表情。 しかしその彼の瞳に分二は気付けばずっと見惚れていた。 ようやく也夜が喋る番で先輩のグッズ紹介をした。「ファンたちも厳しい人と温かい人両極端でさ。研究生だからと言って容赦無くはけろとか

  • 君のことを忘れたいから遠回りしてきた   第三十九話

    「どう? これ全く今と違うよね」「うん……でも会った頃みたいに後ろ髪伸ばしてる」 少しホストみたい、と思いかけた來は、その言葉を喉の奥に押し戻す。 写真の中の也夜は、來の知っている彼よりどこか幼く、そして少しだけ媚びたような笑顔をしていた。 “アイドル”という職業が求めるものの一端を、來は初めて具体的に理解したような気がした。 ……いや、理解したいだけなのかもしれない。 分二はさらに奥のアルバムを引っ張り出し、別の写真を差し出した。「これはもっと前かな。アイドル五年目の時。もともと研究生からトップスリーまで上がったんだよ。あと半年か一年やってたらセンターになれたと思うんだけどね。彼、ソロ活動が向いてたっぽい」「そんなに長く……いつから?」「確か、中学生の時にスカウトされて、21で留学するまで続けてたんだよ。研究生名義で活動はしてたけど、そこまで売れていたわけではなかったらしい」 どうして分二は、こんなにも也夜のことを細かく覚えているのか。 來が知らない彼の過去が、分二の口から次々と、まるで昨日の出来事のような熱を帯びて溢れ出してくる。 そのたび胸のどこかが、ほんの少しだけざわついた。 自分の知らない也夜を、分二はこんなにも知っている。 悔しいような、置いていかれたような……それでもやっぱり、もっと知りたいという欲の方が勝ってしまう。 也夜は来に、アイドル時代のことをほとんど話してくれなかった。 話題にするだけで機嫌を悪くされることもあった。 けれど、こうして目の前にある大量のグッズや写真を見るかぎり、彼が“嫌いだった”というより、むしろ何か別の理由で蓋をしていたのだとしか思えない。 清流ガールズNeoの時のように、華やかさの裏側に闇が潜んでいたのかもしれない。 分二はCDやアルバムまで出してきた。 來は、それを手に取ることが どこか申し訳なくて……でも視線は吸い寄せられるようにジャケットへ滑っていった。 也夜が触れられたくなかった過去。 けれど、目の前で積み上がっていく“彼の知らない彼”は、來をどうしようもなく惹きつけた。「歌も歌っててね。ソロも一つ出してる。聞くかい?」「いや、いいよ」「また今度聞かせてあげるよ」 ネットでもソロCDは“廃盤”と書かれていた。 それなのに分二の部屋には、普通に置かれていて……思

  • 君のことを忘れたいから遠回りしてきた   第三十八話

     也夜が過去にアイドルであった話は人づてに聞いていた。アイドルと言っても地下アイドルグループに所属していたのに近いものだったらしい。そしてかなり若い頃に。 分二に体を起こされ朝ごはんを眠気まなこで二人で作り、それから分二が來を連れていきたいところがあると車を出してくれたのだ。「もしさ、あそこの家を也夜に渡すんだったらさ、もしもの話だよ?」 昨日あれだけ分二が嫉妬して來を服従させていたのにも関わらずまた也夜のことを話題に持ちかけてきた。 來はうん、と頷いた。「マンションあるからさ、まだ契約してるから。ほとんど倉庫みたいなもんだし、車ももう一台ある」「なんか分二の部屋汚さそう」「こら」「ごめんごめん……なんでも知ってるなんでも興味があるからいろんなものがありそう」「まぁね、ペットは知り合いがもらってくれたし」「……飼ってたの?」「前にね。一時期海外出張増えたから……ペットも命あるものだし。難しいね」 と言うのだがもしかしたらと思って來は聞いてみた。「ペットもだけど……家庭を持たないのも……」「そうだね、いろんな女性とお付き合いしてさ家庭を持つとかそうでない話して。中にはお子さんがいる人ともつきあったけどさ……僕は同時にたくさんの人を愛することはできない人間でね。ペットの時は全力でペットに愛を注いだ。女性も。でも……子供もとなるとどちらか……分散させるとか無理だなぁって。酷いだろ?」 なるほど、と來は思った。「だからさ、僕は子供を持つことができない男同士で結婚を考えたわけで。養子とかも親からは言われるけどそれもね。僕の性分では無理だな……」 確かに分二は西流ガールズneoに対してもすごい愛を注ぎ込みその子をトップにさせたのだが他の新人が入るとぴたりと前の好きな子を応援しなくなった、それをリカから聞いていたのだ。「なんだろうね、子供の頃からそうだったのかな。欲しいと言ったら何でも買ってもらえてとめどなく。それがだんだんわかってきて言わなくなったんだ」「そうなの。ラッキーじゃん。僕は反対に何も買ってくれなかったから羨ましいよ……だからバイトして学費とか貯めて欲しいものも買って……」「そう、僕もそうしたかった。他のみんなはちゃんと働いてお金を貯めて自分で買う……そしたらそれに愛着をすごく持てたんだよ」 と言うまに分二の車は大きなマンシ

  • 君のことを忘れたいから遠回りしてきた   第三十七話

     美園よりも先にタクシーを降りた。マンションには地下駐車場があり、そのまま地下まで降ろしてもらう。 支払いは自分が、と言いかけたが、美園がカードを持っているからいい、と静かに制した。「……ありがとう」 來はそう言ったものの、美園は応えなかった。 その無言が胸のどこかに引っかかったが、今さらどうにもできない。ため息をひとつ、來はエレベーターへ足を向ける。 部屋の前に立ち、いつもの癖で軽く息を整えてからドアを開けた。鍵は開いていた。「ただいま」「おかえり」 奥から聞こえた声に、來は一瞬足を止める。分二だった。 気づけば、分二がすぐ玄関まで来ていた。「……おかえり」「ただいま」 同じ言葉をもう一度交わす。 わずかに空気がぎこちない。それでも、ほんの数秒のあとで分二はいつもの笑顔を作った。 その笑顔に安心したのか、胸の奥のざわつきが少しだけ静まった。「也夜、目が覚めたってな」「うん。話も少しした」「えっ、できたの?」「うん」 分二の顔が大きく揺れた。本気で驚いているのが分かる。その反応に、來は……そりゃそうだ、と胸の奥がざらついた。「ねぇ、分二が也夜のこと……」「なにを」「目を覚ましたこと……ネットとかで」「んなわけないだろ」 分二は笑いながら、ほんの少し食い気味に言った。「でも、あんなにすぐネットに流れるなんて……病院内とか、そういうところで漏れるんだろうね」「……だろうね。ごめん」「ううん」 言葉が続かず、二人の間にまた気まずい空気が落ちた。「でも也夜、目を覚ましたんだね」「うん」「よかったね、來」 返事に詰まる。胸がぎゅっと痛んだ。「……だからと言って、僕との結婚は無しにならないからね」 やっぱりそう言うんだ。 分二は來を抱き寄せた。思っていたよりも強い腕だった。「だよね? 來」「……分二」「なんだよ、YESじゃないの?」 抱きしめる力が一段階強くなる。呼吸が浅くなった。「YESとか、その前に……分二は、也夜のファン?」 來が問うと、分二の腕がほどかれた。 まるで反射的に、触れてはいけないところに触れたように。「……ファンじゃないわけでもない」 分二は、ほんの少し声を落とした。「ずっと気になってたんだよ。ファンでもなければ、なんなんだろうって」「そりゃ、彼は人気者だし。素敵な

  • 君のことを忘れたいから遠回りしてきた   第三十六話

     美園とともにタクシーの後部座席に滑り込んだ瞬間、外の喧騒が一気に遠のいた。さっきまで胸の奥でざわついていた緊張が、扉一枚隔てただけで少しだけ薄れていく。「親御さんたちは、まだ病室のほうで待っててくださるって」と美園が静かに言う。 來は頷きながら視線を伏せた。事務所の社長やマネージャーたちも、励ましの言葉を残してすでに帰っていった。けれど、病院を出る最後の瞬間まで、周囲は落ち着かない。 病院側から「正面は報道陣が来ている」と伝えられ、先に出た社長たちが裏口へタクシーを回してくれていた。 どうやらこの病院、タレントから政界の大物まで、名のある人物がよく運ばれてくるらしい。スタッフたちの動きは無駄がなく、その場の混乱を最小限に抑えることに慣れているのが一目でわかった。 來自身は、自分がそんな大げさに扱われる存在だとは少しも思っていない。だが……(有名人になったみたいだ……) そんな、妙な気持ちが胸をよぎった。けれど、実際の“有名人”は來ではない。也夜だ。どちらかといえばその“恋人”として、來は巻き込まれる立場だ。 建物の上階の窓から下を覗くと、確かに数台の報道車が並び、カメラを構えた数人が出入り口付近に張り込んでいた。こんなにも早く情報が広まるのかと驚くと同時に、やはり也夜の名前にはそれだけの力があるのだと痛感した。 案内してくれた病院職員によれば、ここには報道陣専用の会見室まであるらしい。もっと大きなスターや政治家が運び込まれたときには、記者どころかファンの群れが押し寄せることもあるという。 今回、ファンが入り込んでいるかはわからなかったが……「一部ではね、お見舞いの品とか手紙とか持って来ようとしたファンがいたらしいの。でも病院も全部受け取り拒否にしたみたい。ファンの側にも“そういうのは控えよう”って暗黙のルールができてるって」 美園はそう説明した。 來はふっと胸の奥が温かくなるのを感じた。(……也夜は、本当にマナーの良いファンに支えられてたんだな) 表舞台に立つ人間は、どうしてもいろいろな人を引き寄せてしまう。だけど、彼の周囲には節度を守れる人たちが多かった。それは、也夜自身の人柄が生んだものなのかもしれない。 タクシーがゆっくりと走り出す。裏門から出た車は、報道陣の気配とは反対方向へと滑るように離れていった。 來は窓の外をぼんや

  • 君のことを忘れたいから遠回りしてきた   第三十五話

     來は美園を先に帰し、マダムたちの接客を終えると、その足で急いで病院へ向かった。他のスタッフがすでに大輝へ連絡していたらしく、まだ予約があったにもかかわらず、彼はすぐにヘルプへ駆けつけてくれたらしい。 大輝は名のある美容師だ。急遽現れた彼の姿に、來の指名客たちも「今日は来てよかった」と口々に喜んでいた……と、後で聞かされた。 だが当の來は、そんなことがどうでもいいほど動揺していた。 也夜が二年ぶりに目を覚ました。 ずっと植物状態だった彼が、なぜ突然。 喜びなのか恐怖なのか、自分でも感情が掴めないまま、スタッフにタクシーへ押し込まれた。 マダムたちと最後に何を話していたのかも、もう覚えていない。 気づけば病院の前に立っていた。 震える指で美園へ「着いた」とだけメールを送る。送信が完了した頃、視界の端で誰かが小走りにこちらへ向かってくる。 也夜の事務所の社長だった。隣には久しぶりに見る秘書の姿もある。「元気だった? ごめんなさいね……なかなか連絡も取れずに」「いえ、ご無沙汰しております。タレントさんを何人か、僕の美容院に紹介してくださったと聞きました」「まあ……それは後でいいのよ。今は早く病室へ行きましょう」「はい」 社長に促され、一緒に院内へ向かう。 その途中……「どこから漏れたのかしら。也夜くんが目を覚ましたって情報、もうSNSに流れてるのよ」 その言葉に、來の心臓がひやりと音を立てた。「どこのどいつかしら。……看護師かしらね」 社長が苛立ち混じりに吐き捨てる。 來も一瞬、職場の誰かが漏らしたのではと胸をよぎったが……そんな邪推をしている場合ではなかった。 看護師の案内に従い、久しぶりに向かう病室。 しかし辿り着いたのは、以前とは違う部屋だった。 そしてその前には、美園と——何年ぶりかに見る也夜の両親が立っていた。 社長の姿を目にした瞬間、両親は揃って深く頭を下げる。 だが、來に視線が移った途端、その表情はぴたりと凍りついた。 嫌悪とも困惑ともつかない、なんとも言えない顔だ。「お久しぶりです……」「……久しぶり、だな。娘がそちらでお世話になっていると聞いた。……そそのかしたのか? せっかく大企業に勤めていたのに」 相変わらずな父親の物言い。 しかし、來はもういちいち反応できるほど落ち着いていなかった。 

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status