私は保留印の押された申立書を、机の上に置いた。紙自体は薄くて軽い。それなのに、机へ置いた音だけが妙に重く響いた。 「白鳥家でも、そうでした」 声は落ち着いていた。 「澪にはまだ早いって、何度も言われました。家のため、お母様のため、私のためって」 征臣の顔から、色が少し消えた。 「……同じことをした」 「悪意があったとは思ってません。守ろうとしたんだってことも、分かってます」 声が少し掠れた。そこまで言うと、かえって続きが苦しくなる。 「でも、知らなかった。私の名前の紙なのに」 申立書に押された保留印を見た瞬間、父の机が浮かんだ。理由が違っても、本人の知らないところで紙が止まる感触は同じだった。 私は左手を見た。 契約婚約の指輪が、照明を細く返している。母の指輪とは違う。これは征臣が差し出した選択の証だった。 だからこそ、今は重い。 「『君のためだ』と言われると、また何も言うなと言われている気がするんです」 会議室の空気が止まった。 相沢が息を呑んだ音が、小さく聞こえる。 征臣は動かなかった。 言い返せたはずだ。危険だった。最善だった。時間がなかった。いくらでも言葉はある。 でも、彼はどれも選ばなかった。 「悪かった」 短い謝罪だった。 言い訳が続かなかったことに、不意に目の奥が熱くなった。 私は泣かずに、指輪へ触れた。 会議室の窓ガラスに、自分の顔が薄く映っていた。怒っている顔だった。白鳥家では、すぐに直せと言われた顔。けれど今は、直したくなかった。 「次は……止める前に、私を呼んでください」 「止める前に?」 「はい。私が嫌だと言えるところで、話してください」 征臣は一拍置いて、息を逃がした。 「……分かった、とはまだ言えない」 意外な答えに顔を上げる。 「たぶん俺は、また止めたくなる」 征臣の手が机の端で強く閉じた。 「でも、次は君のいないところで決めない」 完璧な約束ではなかった。だからこそ、少なくとも今ここで私に好かれるためだけの言葉ではない、と信じられた。 相沢は視線を落とした。征臣も、それ以上は言葉を重ねなかった。 私は指輪に触れた。金属の下で、皮膚が少し熱を持っている。 征臣は私の手を見てから、触れていいかと視線で尋ねた。 私は首
Last Updated : 2026-08-22 Read more