相沢が、榊原財団の会議録を追加資料として提出した。 白鳥清隆、有馬家担当者、榊原宗一郎。三者が同じ日に承認した記録が残っている。 欄外には、〈払い出し可〉〈確認済〉〈白鳥清隆〉と、短い手書きのメモが並んでいた。 家の支出書類で何度も見た字だった。右上がりの〈認〉と、最後だけ強く払う〈隆〉。 母は、父の筆跡まで帳簿へ挟んでいた。 信じたかったから保管したのか、疑っていたからなのか。今は聞けない。 「父の字です」 声にした途端、掌が冷えた。 清隆がこちらを見る。 また〈お前〉と呼ぶ前の目だった。 「娘が、父を売るのか」 以前なら、その一言だけで座り直していたかもしれない。 今は、母の帳簿を閉じない。 「娘ではないと、おっしゃいました」 父の目がわずかに揺れた。 「今日は、申立人として確認します」 久我山がペンを置く。 「白鳥清隆氏。受領印と筆跡は正式鑑定へ回します。菜月氏の告発状が白鳥家内部で止められた可能性も、現時点の記録に残します」 父の手が、初めて机の縁を握った。 見ているのは私ではない。周囲の視線だった。 瀬里奈はハンカチを畳み直し、莉々花は唇を噛んでいる。泣くべき場面を測るような気配が、今はどちらからも出てこなかった。 帳簿の最後のページを開く。並んでいたのは家計の数字ではなく、日付、時刻、配送番号、薬箱確認表の番号、そして父の受領印が押された日の午後三時二十分だった。 文章はほとんどない。数字と、短い注記だけが続いていた。 紙の端を押さえる。湿気を吸ったように少し波打っている。港町で濡れたのか、母が何度も開いたのかは分からない。 「白鳥澪さん」 久我山の声が届く。 「そのページを説明できますか」 説明、という言葉がすぐには喉を通らなかった。 母が最後に残した字を、こんなに大勢の前で読む。何度も目を通したページなのに、最初の数字が遠かった。 少し後ろに、征臣がいる。 立ち上がる気配はない。代わりに読むことも、手を伸ばすこともしない。 背中で位置だけを確かめ、ページへ目を戻す。 「三月十四日の薬包について、母は〈自分のものではない〉と記録しています。配送番号は、東都メディカルサポートの控えと一致します」 声が掠れた。 水を求めず、そのまま続け
Last Updated : 2026-09-26 Read more