聴聞会場の最前列には彩花と蓮がいた。紗英は出席せず、自筆の供述書だけを提出している。 入場直前、記者の一人がスタッフへ封筒を渡した。 紙の角から、莉々花が好む甘い香水の匂いがした。「予定外の質問が来る。君が母親の病状を利用して、白鳥家を乗っ取ろうとしているという筋だ」 征臣の声が低くなった。 すぐには怒れなかった。 母の名前を、まだ道具にする。 手袋の青い布が、指の震えにつれて小さく揺れていた。紙を持ち直す。これなら、落とさずにいられる。「その質問も受けます」 事務局員が、中断の合図を決めるかと確認した。「危ない時は、合図してください」 青い手袋の指先を一度握る。「答えづらい質問まで切らないでください」 征臣は机に置いていた手を離す。「そこは切らない」 会場へ入ると、音が一度ばらばらになった。 シャッター。椅子。速記のペン。咳払い。 壇上の中央に席札がある。 白鳥澪。 鷹宮の婚約者でも、白鳥家長女でもない。名前だけだった。 マイクの位置を直す。金属が手袋越しにも冷たい。「本日は、お集まりいただきありがとうございます」 母、白鳥菜月に関する調査と今後の対応について話す、と最初の一文を読んだところで、後方の椅子が大きく鳴った。「その告発状は偽物だ!」 清隆が立ち上がっている。襟は乱れ、スーツの袖が椅子へ引っかかっていた。「あの女は昔から、家の書類へ勝手に触れていた」 あの女。 胸の底で、紙を爪でこするような音がした。 征臣が動きかける。 私は手を上げた。「父の発言も残してください」 久我山が頷き、速記担当者は手を止めずに書き続ける。 告発状を机へ置いた。「大きな声で言われても、筆跡は変わりません」 清隆の顔が赤くなる。「筆跡と、数字で示します」「娘のくせに、親を売るのか」 記者席のペンが一瞬止まった。 父の弁護士が
Last Updated : 2026-10-01 Read more