翌朝、基金準備室へ戻ると、机の上には応募書類の束が積み上がっていた。 黄色い付箋が何枚も突き出している。逆さに貼られた一枚だけが妙に気になって、私はまずそれを直した。 一番上に置かれていたのは、一度は辞退しかけたあの少女の申請書だった。前より少し強い筆圧で、最後までしっかりと名前が書かれている。 その下にはスタッフのメモが添えられていた。 『再応募希望。本人確認済み。保護者同席不可の可能性あり』 さらに赤いペンで、学校への匿名問い合わせについて追記されていた。私の騒動は、もう私個人の枠を超えて、周りにも影響を及ぼし始めている。 電話番号を確認する。最後の二桁を読み違えてしまい、もう一度最初から目で追った。 ふと、入口で気配がした。 振り向くと、征臣が立っている。 「座らないんですか?」 「考え事をしているようだったから、邪魔にならないようにと思って」 「立って待たれる方が、かえって落ち着きませんよ」 少し迷ったあと、彼は向かいの椅子を引いて座った。 私は申請書の赤いメモを指でそっと押さえた。 「名前だけ元に戻して、それで終わりにはしたくないんです」 口にしてから、ずいぶん大きなことを言ってしまった気がした。けれど、紙の上の少女の名前を見ていると、その先でまた彼女の手が止まる瞬間まで想像してしまうのだ。 家で無理だと言われた時。学校へ知られた時。そして、一度失敗した時。 「……そういう時に、もう一度だけでも書き直せる場所にしたいんです」 掌の中で、準備室の鍵を裏返した。冷たい金属の感触が指の腹に当たる。 「続けたいです。怖いですけど……」 そこで言葉が途切れた。征臣はあえて続きを促そうとはしなかった。 隣のプリンターが低く唸り、一枚の紙を吐き出した。その日常的な音のおかげで、少しだけ呼吸が深くなる。 私はまず面談日を決めた。赤いメモは捨てず、今後のために最後のページへ回しておく。 申請書の家族構成欄には空白があった。スタッフは記入漏れとして赤線を引いていたが、私は規程を開いて確認した。 『所得確認には必要。ただし事情がある場合は、面談で代替できる』 赤線を消し、代わりに黄色い付箋を貼った。保護者の同意書はまだ届いていない。弁護士と学校の相談員へ連絡し、学校側へ直接確認を入れる前に、も
Last Updated : 2026-10-16 Read more