手首を掴む指先に、今までずっと抑えていたものが滲んでいる。「愛子」名前を呼ばれる。近い。「俺は」言いかけて、翔太は一度だけ口を閉じた。たぶん、最後のところでまだ耐えようとした。でも、もう遅かった。視線が揺れて、すぐに戻る。「まだ好きだよ」静かな声だった。けれど、真っ直ぐだった。「五年前に終わったって思ってたのに」少しだけ苦く笑う。「再会して、隣で、普通に話せるようになって」握る指に、ほんの少し力が入る。「やっぱり好きだな、って思ったから」胸が痛い。言葉が重い。でも、翔太の目は逸れない。「愛子に」「ちゃんと向き合ってほしいし」 「また付き合ってほしいって思ってるよ」その言葉の真っ直ぐさに、何も言えなくなる。顔が近い。視線が近い。こんな距離で、こんな顔で、こんなことを言われたら、まともに目なんて見られるわけがない。私は逃げるように下を向いた。心臓が、うるさい。耳の奥まで、自分の鼓動が響いている。「……なんなの」ようやく絞り出した声は、少し震えていた。「その言い方」翔太の指先が少しだけ動く。掴んだ手首を離さないまま、でも強くもしない。逃げようと思えば逃げられるくらいの力なのに、熱だけが妙に残る。「……今さらなんなの、その告白」無理やり言葉を続ける。目を見られない。見たら、もっと揺らぐ。「こんなの、急に言われても困る」喉が少し詰まる。けれど、それだけじゃ終われなかった。正人の顔が、頭をよぎる。倉庫。抱きしめられた腕。今週、でお願い。ちゃんと向き合おうと思った。その気持ちは、本当だった。だから、言わなきゃいけない。自分に言い聞かせるみたいに、小さく息を吸った。「……私、もう決めてたんだよ」翔太の目が、少しだけ動く。でも、何も言わない。ただ、見ている。まっすぐ。逃がさない目。「今日、ここ来た時には、正人と」 「お試しでも、向き合ってみるって」言い切った瞬間、部屋が静かになった。お香の煙が、ゆっくり揺れる。エアコンの音だけが小さい。けれど、手は離れない。むしろ、翔太の表情が少しだけ変わった。想像していた反応じゃなかった。怒るでも、落ち込むでもない。不思議なくらい、静かだった。それどころか、少しだけ余裕そうにすら見える。「別にいいと思うよ
Last Updated : 2026-08-22 Read more