自殺未遂から救われて7日目。宮城若菜(みやぎ わかな)は、市橋千聡(いちはし ちさと)が望んでいた「物静かな」妻になった。新しく見つけた面白いものを、そのたびに彼へ嬉しそうに話すこともない。彼のシャツについた口紅の跡を見つけて、取り乱しながら問い詰めることもない。家庭へ戻ると言いながら浮気を疑われていた千聡が、毎日誰と連絡を取っているのかを執拗に探ることもなくなった。彼が望んでいた通り、静かに、干渉せず、彼へ絶対的な自由を与える妻になったのだ。だから、買い物中に重大な人質事件へ巻き込まれて負傷したときも、若菜は一人で警察署で事情聴取を終え、そのまま黙って病院で傷の手当てを受けた。病院を出るころには、もう深夜になっていた。意外なことに、入口には、千聡のロールス・ロイスが停まっていた。男は車にもたれながらスマホをいじっていた。長身で、冷たい横顔は、初めて出会った日のまま変わらず端正だった。若菜の姿を見つけると、千聡は反射的にスマホをポケットへしまい、大股で歩み寄ってくる。「こんな目に遭ったのに、どうして俺に電話しなかった?ニュースを見なかったら、こんなに大事になってるなんて知らなかったんだぞ」包帯の巻かれた彼女の腕を見ると、そのまま抱き寄せようと手を伸ばした。若菜はそっと身をかわし、そのまま車へ乗り込む。「大したことじゃないから」伸ばした手は空を切った。あまりにも淡々とした若菜の口調に、千聡は眉をひそめる。彼女はこんなはずじゃなかった。付き合って十数年、若菜は道端で野良猫に餌をあげたことさえ写真を撮って彼に送ってきた。それなのに今は、生死の境をさまよったばかりだというのに、一言で済ませてしまう。千聡の胸に、理由のわからない苛立ちが込み上げた。「若菜......もうあんなことしないって約束したんだろ?どうしていつまでも意地を張るんだ」若菜は窓の外を見つめたまま、顔さえ向けない。「心配させたくないから教えなかっただけよ。もう帰りましょう」またその一言だった。まるで自動返信のようにそっけなく返され、千聡は怒りに任せてハンドルを強く叩いた。けたたましいクラクションが鳴り響き、向かいで花を売っていた女性が驚いて胸に手を当てる。女性が顔を上げてこちらを見た、その瞬間――車内の
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