All Chapters of 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。: Chapter 61 - Chapter 70

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第61話  昼休みの約束

昼休みのチャイムが鳴ると同時に、朱里の心臓は早鐘を打ち始めた。デスクの上に置かれたマグカップが、手の震えを映している。(平田先輩と……話す。たったそれだけなのに、どうしてこんなに緊張するの)周囲の同僚たちが弁当を広げ、談笑する中、朱里は静かに席を立った。向かうのは、会議室の奥──いつも嵩が休憩時に使う、窓際の小部屋。ドアをノックすると、嵩がすでに中で待っていた。カップに入ったコーヒーを手に、窓の外をぼんやり眺めている。「……来てくれたんだな」「はい。えっと……なにかお話が?」嵩はゆっくりと振り返り、少し気まずそうに笑った。「昨日、メッセージ……返せなくてごめん」「……いえ、仕事もお忙しかったでしょうし」そう答えながら、朱里はうつむいた。本当は、その言葉を待っていたのに。「昨日の朱里の言葉、正直、驚いたんだ」「……やっぱり、変でしたよね。あんな言い方して」「いや、嬉しかった。ただ……その“また会いたい”って、どういう意味だったのか、少し考えてた」(どういう意味って……)朱里の喉が、ひゅっと詰まった。伝えたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。「好き」なんて一言、口にした瞬間、全部壊れてしまいそうで。沈黙を破るように、嵩が続けた。「俺、最近ちょっと焦ってたんだ。仕事も、資格の勉強も。中谷さんがどう思ってるのかも……」「え?」「大嫌い、って言われるたびに、俺の何がいけないんだろうって考えてた。でも
last updateLast Updated : 2026-08-02
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第63話  距離、10センチの会話

午後の陽射しが、ガラス越しにテーブルへ柔らかく降り注いでいた。 ショッピングモールの中にあるカフェは、休日の喧騒を少しだけ遮断してくれる。二人席のテーブルを挟んで、朱里と嵩が向かい合っていた。 「……やっぱり、ここのカフェ、混むね」 「休日だからな。待たされたけど、朱里が行きたいって言ったから、しょうがないか」 「なによ、それ。わたしのせいみたいに言わないでよ」 そう言いながらも、朱里の声にはどこか柔らかい笑みが混じっている。 大きめのマグカップに入ったカフェラテの泡を、スプーンでくるくると回す。 「……こうして先輩といると、仕事のこと、忘れそうになる」 「おいおい、忘れたら困るだろ。試験勉強もしてるんだろ?」 「うっ……そうだった。言わないでよ、思い出すじゃん」 「ははっ。まあ、頑張ってるのは知ってる。お前、なんだかんだで努力家だし」 ふいに嵩の声が優しくなった。 朱里は、スプーンを止めて視線を落とす。 胸の奥が、じんわりと温かくなる。 どうしてこんな言葉ひとつで、心が揺れるんだろう。 「……ねぇ、先輩」 「ん?」 「わたしさ、“大嫌い”って言い過ぎてるかな」 「は?」 突然の言葉に、嵩が目を瞬かせる。 「いや、その……つい口癖で言っちゃうけど、本気じゃないんだよ?」 「知ってるよ。お前の“大嫌い”って、“好き”の裏返しみたいなもんだろ」 「ちょ、ちょっと! なに勝手に分析してんの!」
last updateLast Updated : 2026-08-03
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第64話  予感とため息

朝、鏡の前で髪を整えながら、私は自分の顔をじっと見つめた。……なんか、疲れてる。目の下のクマが微妙に主張してる気がする。「ま、いっか。社会人の勲章ってことで」無理やりポジティブに言ってみたけれど、口角は上がらなかった。昨日の夜、ふとスマホを開いたときに見てしまったのだ。社内ポータルの写真──休日の勉強会で、瑠奈が嵩と並んで笑っている。背景にはカフェの白い壁と、本やノートが散らばったテーブル。もう、それだけで充分だった。眠れなくなる理由としては。「……勉強会、ねぇ」つぶやく声は、自分でも呆れるほど低かった。診断士に合格した嵩が、今度は瑠奈の勉強を見てあげているらしい。休日に、カフェで、二人きりで。そんなの、もう“勉強”というより、“恋の予習”ではないですか。出勤途中の電車でも、私はスマホを開いたまま、何度もため息をついた。通知には、グループチャットで瑠奈が送ったメッセージが浮かんでいる。> 「平田先輩って、本当に教え方上手なんですよ~!今日も“理解力が高い子だな”って褒められちゃいました♡」絵文字がまぶしい。私はそっとスマホを伏せ、車窓の外に視線を逸らした。“理解力が高い子”って、なにその会話。私だって褒められたかった。でも嵩の前で「教えてください」なんて、恥ずかしくて言えるわけない。職場に着くと、ちょうど嵩と瑠奈がエレベーターの前で話していた。私は咄嗟にスマホを取り出し、知らないフリで画面を見つめたまま通り過ぎようとする。けれど、嵩がこちらに気づいて、軽く手を上げた。
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第65話  恋の勉強会

昼休みの社内カフェスペース。 私はコーヒーを片手に、ノートパソコンの画面を見つめていた。 ……見つめてはいるけれど、まったく頭に入ってこない。 というのも、向かいのテーブルで、瑠奈と嵩が“例の話”をしているからだ。 仕事の相談──らしい。 でも、話しているトーンはどう考えても、業務報告じゃない。 「昨日の“勉強会”、すごくわかりやすかったです! 平田先輩って、本当に説明上手ですよね」 「いや、瑠奈ちゃんが飲み込み早いだけだよ」 ……“瑠奈ちゃん”て言ったよね、今。 コーヒーを飲む手が止まる。 思わず口の端が引きつった。 さりげなく聞き流すふりをしたけど、心の中では鐘が鳴っていた。 ドォォォン!って。 (ねぇ平田先輩、私のとき“中谷さん”って呼んでましたけど?) 私の脳内に、赤ペン先生が登場して訂正してくれそうだ。 ──呼び方の差、減点100点。 「そういえば、今度の週末、また図書館で集まるんですよね?」 「うん。ちょっと応用問題を中心にやるつもり」 「じゃあ私、またカフェで勉強ノート作ってきますね!」 ……カフェ。 ……またカフェ。 (ねぇ、あなたたち、“図書館”より“カフェ”のほうがメインじゃない?) もう心のツッコミが止まらない。 だけど、それを顔に出したら負けだ。
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第66話  見えないライバル

日曜の昼下がり。朱里はリビングのソファで雑誌をめくっていた。お気に入りのカフェ特集のページで手が止まる。ふと、数日前のことが頭に浮かんだ。あのショッピングモールの帰り、嵩が何気なく口にした一言──。「望月さんって、なんか頑張り屋だよな」あの瞬間、笑って流したつもりだった。けれど、その言葉が棘のように、胸の奥に引っかかっている。(なんで今さら、彼女の話題なんて……)彼女──望月瑠奈。嵩と同じ部署で働く後輩。社内では“明るくて可愛い子”として人気がある。朱里も何度か会ったことがあるけど、笑顔が自然で、愛想もいい。まるで自分の欠点を鏡で見せられるようで、正直、苦手だった。そのとき、スマホが震えた。画面には「平田嵩」の名前。『今、どこ?』『近くのカフェ寄ってく?』朱里は迷った。嬉しい気持ちと、少しの不安が入り混じる。けれど、結局いつも通り「行く」と返してしまう。──午後3時、カフェ・グレイン。ドアを開けると、嵩が窓際の席に座っていた。白シャツに腕時計。コーヒーの香りが似合う男。そんな印象に、朱里の心臓は少し跳ねた。「ごめん、待った?」「いや、今来たとこ」いつも通りのやりとり。でも、今日は少し違った。嵩の隣には、資料の束とタブレット。それを見て朱里は眉を寄せる。「また勉強? この前、資格受かったばっかりじゃん」「ああ、あれは中小企業診断士。今は財務関係の資格、取ろうかと思って」「え、また? 仕事忙しいのに?」朱里の声が、思わず強くなった。嵩は穏
last updateLast Updated : 2026-08-05
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第67話  ため息ひとつぶんの距離

カフェを出たあと、朱里と嵩は並んでショッピングモールの通路を歩いていた。人混みのざわめきとアナウンスが、やけに遠く感じる。隣を歩く嵩の歩幅に合わせながらも、朱里の心はちぐはぐなままだった。「なぁ、朱里。さっきのカフェ、気に入った?」「うん、美味しかったよ。ラテアート、かわいかったし」言葉のトーンはいつも通り──でも、笑顔は少し引きつっていた。嵩はそんな彼女の表情を横目で見て、小さく眉を寄せた。「なんか、怒ってる?」「怒ってないよ」「……嘘」淡々とした嵩の一言に、朱里は足を止めた。彼は少しだけ前に出て、振り返る。その穏やかな目が、朱里にはやけにまっすぐに見えた。「朱里って、分かりやすいからさ」「なにそれ。別に、全然分かってないくせに」「分かるよ。俺のこと、ちょっとムカついてるんだろ?」図星を突かれて、朱里は思わず視線をそらした。けれど、それを認めるのも悔しい。「……ムカついてなんかない。ただ……」「ただ?」「“望月さんが刺激になる”とか、そういう言い方するのやめて。なんか、嫌なの」その言葉が出た瞬間、空気が止まった。通路を行き交う人々のざわめきが、遠くに霞む。朱里の頬はほんのり赤く、唇が震えていた。嵩は数秒黙ってから、ふっと息をついた。「……そっか。ごめん」意外なほど素直な謝罪だった。朱里は拍子抜けして、ぽかんと嵩の顔を見上げる。「謝るの、早くない?」「だって、朱里がそう感じたなら、それは俺の配慮
last updateLast Updated : 2026-08-05
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第68話  望月瑠奈からのメッセージ

朱里は手にしたスマホを見つめたまま、動けずにいた。画面の中にあるたった数行の文字が、まるで心の奥を揺さぶるように重たく感じる。> 『こんにちは、中谷先輩。今、平田先輩と一緒ですか? もし可能なら、少しだけお話ししたいことがあって……』「……どうしよう」思わず漏れた朱里の声は、かすれていた。「出ればいいんじゃないか?」嵩の低い声が返ってくる。彼の表情は穏やかで、焦りも疑いもない──それが逆に朱里を苦しめた。「だって、今……」「俺といるから? 別に構わないよ。話したいなら話せばいい」あっさりと言い切る嵩に、朱里はぐっと唇を噛んだ。“構わない”──その一言が、まるで自分なんて大した存在じゃないと突きつけられたようで、胸の奥がきゅっと痛む。(……構わないって、なに? 少しは、嫌がってくれてもいいのに)朱里は小さく息を吐いてから、意を決して返信を打った。> 『今、先輩と一緒にいます。どうしたの?』送信ボタンを押したあと、画面を見つめながら沈黙が落ちた。数秒後、すぐに返信が届く。> 『そうなんですね! ごめんなさい、ちょっと勘違いしちゃいました。また社内で話しましょう!』……その明るい絵文字つきの文面が、妙に胸に刺さった。明るく、軽く、まるで「わたし、平田さんのこと気にしてるけど、悪気はないですよ」とでも言いたげな感じで。「……瑠奈ちゃん、なんだって?」嵩が尋ねる。朱里はスマホを伏せたまま、できるだけ平然を
last updateLast Updated : 2026-08-06
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第69話  好きと嫌いの境界線

「……あ、そろそろ行こっか」朱里はカフェの紙コップをゴミ箱に捨てながら、努めて明るく言った。けれど、その声にはどこかぎこちなさが混じっている。モールのざわめきが、彼女の動揺を誤魔化してくれているようだった。嵩は隣で穏やかにうなずく。「うん。帰り、駅まで送るよ」「い、いいよ! 近いし」「どうせ同じ方向だし」淡々とした口調なのに、なんだかズルい。“どうせ”って言葉ひとつで、心の距離を勝手に近づけてくるのだから。──朱里は知らないうちに、また心をくすぐられていた。モールのエントランスを出ると、秋の風が頬を撫でる。さっきまでの騒がしさが嘘のように、外は静かだった。「そういえば、望月さんの話──もう終わったのか?」嵩の何気ない一言に、朱里の足が止まった。「……え?」「前に話してただろ。新人の子、調子が悪そうだって」「ああ、うん……」違う。そうじゃない。朱里が“瑠奈の話”をしたときのそれは、もっと複雑な感情だったのに。嵩は、まるで仕事の相談のようにしか捉えていない。(ほんとに鈍感……! いや、もしかして、わざと?)朱里はため息をついて、少し歩幅を広げた。「ま、いろいろあるけど。あの子、可愛いもんね。モテそうだし」「……そうか?」「え、否定しないんだ」思わず立ち止まり、朱里は嵩を見上げる。嵩は困ったように笑った。「可愛いとは思うよ。でも、それと仕事は関係ないだろ」「……
last updateLast Updated : 2026-08-06
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第70話  告白じゃない、けれど

翌朝、朱里はいつもより早く出社した。まだオフィスには数人しかいない。蛍光灯の白い光が少しだけ冷たく感じる。デスクにコーヒーを置きながら、朱里は昨夜の言葉を思い出していた。> 「100回言う前に、俺の方が“好き”って言いそうだけど?」──あれは、冗談だったのか。それとも、少しだけ本音だったのか。(いや、きっと冗談だよね……。だってあの人、そういうのサラッと言えるタイプだし)頭ではそう思っても、胸の奥のもやもやは晴れなかった。メールを打ちながらも、文字が視界の端で揺れて見える。「おはようございます!」明るい声がして顔を上げると、瑠奈が笑顔で立っていた。その手にはコンビニの袋。「コーヒー、買ってきたんです。先輩の分もありますよ」「え? あ、ありがとう」「昨日、平田さんと打ち合わせの帰りに話したんです。朱里さん、ブラック派ですよね?」(……昨日? やっぱり二人でいたんだ)朱里は微笑みを浮かべながら、心の中でそっとため息をついた。瑠奈の無邪気さが、余計に胸をチクリと刺す。「ありがと。気が利くね」「いえいえ! あ、今日の午後の会議、私も同席することになりました。がんばります!」「……うん。がんばろうね」そう言いつつも、朱里の視線は無意識に嵩の席を探していた。まだ出社していない。机の上には昨日の資料がそのまま置かれている。(……また資格の勉強してるのかな)彼が夜遅くまで図書館に通っていることを、朱里は知っていた。
last updateLast Updated : 2026-08-07
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