昼休みのチャイムが鳴ると同時に、朱里の心臓は早鐘を打ち始めた。デスクの上に置かれたマグカップが、手の震えを映している。(平田先輩と……話す。たったそれだけなのに、どうしてこんなに緊張するの)周囲の同僚たちが弁当を広げ、談笑する中、朱里は静かに席を立った。向かうのは、会議室の奥──いつも嵩が休憩時に使う、窓際の小部屋。ドアをノックすると、嵩がすでに中で待っていた。カップに入ったコーヒーを手に、窓の外をぼんやり眺めている。「……来てくれたんだな」「はい。えっと……なにかお話が?」嵩はゆっくりと振り返り、少し気まずそうに笑った。「昨日、メッセージ……返せなくてごめん」「……いえ、仕事もお忙しかったでしょうし」そう答えながら、朱里はうつむいた。本当は、その言葉を待っていたのに。「昨日の朱里の言葉、正直、驚いたんだ」「……やっぱり、変でしたよね。あんな言い方して」「いや、嬉しかった。ただ……その“また会いたい”って、どういう意味だったのか、少し考えてた」(どういう意味って……)朱里の喉が、ひゅっと詰まった。伝えたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。「好き」なんて一言、口にした瞬間、全部壊れてしまいそうで。沈黙を破るように、嵩が続けた。「俺、最近ちょっと焦ってたんだ。仕事も、資格の勉強も。中谷さんがどう思ってるのかも……」「え?」「大嫌い、って言われるたびに、俺の何がいけないんだろうって考えてた。でも
Last Updated : 2026-08-02 Read more