All Chapters of 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました: Chapter 131 - Chapter 140

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健診の日

 健診当日。 美月は朝から少し緊張していた。 鏡の前で身支度を整え、バッグの中をもう一度確認する。「母子手帳……」 バッグから取り出し、開いてみる。 診察券も予約票も入っている。 昨日買ったばかりの母子手帳ケースへしまい直すと、自然と笑みがこぼれた。「忘れ物はありませんか」 リビングから蒼真が声を掛ける。「はい、大丈夫です」 美月はバッグを肩へ掛け、玄関へ向かった。「それじゃあ、お願いします」「行きましょう」 二人はサービスアパートメントをあとにした。 車内では穏やかな音楽が流れている。 美月は窓の外を眺めながら、小さく息を吐いた。「緊張していますか」 蒼真が前を向いたまま尋ねる。「少しだけ」 美月は照れ笑いを浮かべる。「ちゃんと育ってくれているかなって」「きっと大丈夫ですよ」 短い言葉だった。 それだけで、美月の肩から少し力が抜ける。「ありがとうございます」 病院へ到着すると、蒼真は車を駐車場へ入れた。「終わりましたらご連絡ください」「ロビーで待っています」「はい」 美月はゆっくりと車を降りる。 受付を済ませると、待合室には何人もの妊婦が座っていた。 皆、それぞれ付き添いの家族と話したり、本を読んだりしながら順番を待っている。 美月も静かに椅子へ腰掛けた。 診察室から名前を呼ばれ、ゆっくり立ち上がる。「朝倉さん、どうぞ」「はい」 診察室へ入り、医師の前へ座る。「体調はいかがですか」「つわりは少し落ち着いてきました」「それは良かったですね」 医師はカルテを確認しながら微笑む。「では、赤ちゃ
last updateLast Updated : 2026-08-11
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見つけた

 病院の自動ドアが開く。 美月は母子手帳ケースをバッグへしまいながら、ゆっくりと外へ出た。 診察は順調だった。 赤ちゃんも元気に育っている。 その安心感だけで、足取りは少し軽くなっていた。 ふと顔を上げる。 駐車場へ停められた車の横に、一人の男性が立っていた。「……美月!」 聞き慣れた声に、美月の足が止まる。 胸がどくりと鳴った。「拓也……」 どうしてここに。 そんな言葉が頭をよぎる。 拓也は美月へ駆け寄ろうとした。「やっと会えた!」 その表情には安堵が浮かんでいる。 まるで、ずっと探していた人を見つけたかのようだった。 美月は思わず一歩後ろへ下がる。「来ないで」 その一言に、拓也は足を止めた。「美月、話を聞いてくれ」「俺は――」「話すことはありません」 美月は震えそうになる声を押さえながら答える。「弁護士の先生を通してください」「そんな冷たいこと言うなよ」 拓也は苦しそうな表情を浮かべた。「子どものことが心配なんだ」「順調だったのか?」 美月は答えない。 なぜ健診の日を知っているのか。 そのことの方が恐ろしかった。「どうして……」 思わず漏れる。「どうしてここにいるの?」 拓也は少し視線を逸らした。「偶然だ」 その言葉を聞いた瞬間、美月の表情が曇る。 偶然なはずがない。 こんな日に。 こんな時間に。 ここで会うなんて。「美月さん」 その時だった。 少し離れた場所から蒼真の落ち着いた声が
last updateLast Updated : 2026-08-11
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洗脳されてる

 美月の言葉に、拓也は立ち尽くした。「私は、あなたとは話しません」「必要なことは、すべて藤崎先生を通してください」 その声は震えていた。 それでも、はっきりとした意思が込められていた。「美月……」 拓也は信じられないものを見るような目で妻を見つめる。「本気で言ってるのか?」 美月は何も答えない。 もう話すことはない。 そう決めていた。 その時だった。「美月さん!」 和江が美月へ近付こうとする。「あなた、騙されてるのよ!」 美月は思わず一歩下がった。「お義母さん……」「目を覚ましなさい!」 和江は必死だった。「その人の言うことばかり聞いて!」「弁護士を立てさせられて!」「家にも帰らないで!」「そんなの、美月さんらしくないじゃない!」 周囲の人たちが何事かと足を止める。 病院の警備員も異変に気付き、こちらへ歩いてきた。 蒼真は和江の前へ出ることはしなかった。 ただ、美月の隣に静かに立つ。「朝倉さん」 落ち着いた声だった。「無理にお話しになる必要はありません」 その一言で、美月は小さく頷く。「はい……」 その様子を見た和江は、確信したように叫んだ。「ほら!」「やっぱり!」「全部、その人に言われたとおりにしてるじゃない!」「違います」 美月は静かに首を横へ振った。「これは、私が決めたことです」「そんなわけない!」 和江は即座に否定する。「あなたがそんな子じゃないことくらい、私には分かるもの!」「優しくて、人の悪口なんて言えなく
last updateLast Updated : 2026-08-11
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絶対におかしい

 病院を離れたあとも、車内には重苦しい空気が流れていた。 運転席の拓也は、ハンドルを握ったまま一言も話さない。 助手席の和江も黙って前を向いていた。 信号待ちで車が止まる。 その時、和江がぽつりと口を開いた。「見たでしょう?」 拓也は小さく頷く。「ああ……」「あんな美月さん、見たことないわ」 和江は首を横へ振る。「あなたに向かって、あんなことを言う子じゃなかったもの」 拓也は病院でのやり取りを思い返す。『私は、あなたとは話しません』『もう我慢するのをやめただけです』 美月は、はっきりそう言った。 頭では理解している。 あれは美月自身の言葉だった。 けれど、心が認めようとしない。「俺が知ってる美月は……」 拓也は苦しそうに呟く。「人を突き放すようなこと、言わない」「そうでしょう?」 和江はすぐに言葉を重ねる。「だからおかしいのよ」「あの九条さんが、何か吹き込んでるんだわ」「でも……」 拓也は迷う。「美月は、自分で決めたって」「言わされてるのよ」 和江は言い切った。「あんなにぴったり隣に付いていたじゃない」「ずっと見張られてるみたいだったわ」 拓也は返事をしなかった。 蒼真は病院でも騒がず、美月を守るように隣へ立っていた。 本来なら、それを頼もしいと思うべきなのかもしれない。 だが今の拓也には、そうは見えない。「美月は助けを求められないんだ」 そう考える方が、自分には都合が良かった。 だから信じる。 そうでなければ、美月に拒絶された現実を受け入れられない。
last updateLast Updated : 2026-08-12
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どうして知っていたの?

 サービスアパートメントへ戻ってからも、美月の胸には小さな違和感が残っていた。 拓也と和江に会ったこと。 それ自体も怖かった。 けれど、それ以上に気になることがある。「……どうして」 ソファに腰掛け、美月は今日のことを思い返す。 健診の日。 病院。 そして、自分が出てくる時間。 あまりにもタイミングが良すぎた。 偶然だと言われても、素直には信じられない。 蒼真がテーブルへ温かい飲み物を置いた。「少し落ち着きましたか」「はい。ありがとうございます」 美月はカップを両手で包む。 少し迷ってから、蒼真を見上げた。「あの……」「はい」「今日のことなんですけど」 美月は眉を寄せる。「拓也は、どうして病院にいたんでしょう」 蒼真もそれは気になっていた。「偶然だと言っていましたね」「はい。でも……」「偶然にしては、出来過ぎていますね」 美月は小さく頷いた。「健診の日を知っていたんでしょうか」「その可能性はあります」 蒼真はそれ以上、不安を煽るようなことは言わなかった。 ただ、以前見掛けた黒い車のことが頭をよぎる。 あの時は確証がなかった。 今日の出来事と関係があるのかも、まだ分からない。 だが、何も考えずに済ませられる状況ではなくなってきている。「朝倉さん」「はい」「次回からは、念のため少し気を付けましょう」 美月は不安そうな顔をしたものの、素直に頷いた。「そうですね」「今日はもう休んでください。健診だけでも疲れたでしょう」「はい」 美月はカップへ口を付ける。 温かさが、少しだけ強張っていた身体をほぐしてくれた。 一方その頃。 拓也と和江は、自宅へ戻っていた。「今日は会えて良かったわ」 和江は満足そうだった。 拓也は驚いて母を見る。「良かった?」「だって、美月さんが無事なのは確認できたでしょう?」「それはそうだけど……」「それに、やっぱり分かったじゃない」 和江は声を潜める。「あの九条って人、ずっと美月さんのそばにいるのよ」 拓也の顔が曇った。「病院にまで付き添ってた」「普通じゃないわよ」「まだ離婚も成立してないのに」 和江の言葉に、拓也は拳を握る。 病院から出てきた美月。 そのそばには、当たり前のように蒼真がいた。 あの光景が頭から離れない。「……やっぱり
last updateLast Updated : 2026-08-12
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待っていれば会える

 翌日。 拓也はスマートフォンに表示された九条ホールディングスの本社所在地を眺めていた。 会社へ行っても、受付では取り次いでもらえなかった。 電話を掛けても同じだった。 ならば、どうすれば蒼真と直接話せるのか。「会社から出てくるところを待てばいいんじゃない?」 和江が何でもないことのように言った。 拓也は顔を上げる。「待つ?」「そうよ。会社で働いてるんだから、帰る時には外へ出てくるでしょう?」「でも、何時に帰るか分からないぞ」「だったら待てばいいじゃない」 和江はあっさりと言い切る。「一日くらい待ったって、美月さんを助けるためならどうってことないでしょう?」 拓也は黙り込んだ。 確かに、それなら受付を通す必要はない。 会社の外で会えばいい。「……そうだな」「でしょう?」「九条さんだって、直接あなたと話せば分かるかもしれないわ」 和江はすっかりその気だった。「美月さんには夫がいるんだって」「自分が何をしているのか、ちゃんと分からせないと」 拓也は小さく頷いた。 その日の夕方。 二人は再び九条ホールディングスの本社近くまで来ていた。 会社へ入ることはしない。 少し離れた場所に車を停め、ビルから出てくる人々を眺める。 夕方になり、社員らしい人の数が少しずつ増えていく。「いないわねぇ」 和江が窓の外を見ながら呟いた。「まだ仕事してるんじゃないか」「社長って何時まで働くのかしら」「知らないよ」 一時間が過ぎた。 それでも蒼真は現れない。 拓也は何度も時計を見る。「本当にここから出てくるのか?」「会社なんだから出てくるでしょう」 和
last updateLast Updated : 2026-08-12
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あなたのせいだ

「あなたが決めることではありません」 蒼真の言葉に、拓也はしばらく何も返せなかった。 やがて、ぎゅっと拳を握る。「……じゃあ、あなたは何なんですか」 蒼真は黙って拓也を見る。「美月とは何の関係なんですか!」 拓也の声が大きくなる。「ただの知り合いが、住む場所まで用意しますか?」「病院にも付き添って!」「毎日のように一緒にいて!」 通りを歩いていた人が、何事かと二人へ視線を向ける。 それでも拓也は止まらなかった。「まだ俺たちは夫婦なんですよ!」「それなのに、あなたは何をしてるんですか!」「拓也!」 少し離れた場所から和江が声を掛ける。 だが、止めるためではなかった。「ちゃんと言った方がいいわ!」「この人、自分が何をしてるのか分かってないのよ!」 蒼真は二人を静かに見つめた。「朝倉さんが困っていたので、手を貸しました」「それだけです」「それだけなわけないだろ!」 拓也は吐き捨てる。「美月はあなたと会うまで、離婚なんて――」 そこまで言って、言葉が止まった。 違う。 美月が離婚を口にしたのは、蒼真と親しくなるより前だった。 それでも拓也は、その事実を認めたくなかった。「あなたが余計なことをしなければ……」 低い声が漏れる。「美月は家に帰ってきたんだ」 蒼真の眉がわずかに動いた。「そうでしょうか」「そうですよ!」 拓也は即座に答える。「夫婦なんだから、喧嘩くらいします!」「時間が経てば美月だって冷静になった!」「それなのに、あなたが住む場所を用意して、弁護士まで――」「弁護士を依頼したのは、朝倉さんご
last updateLast Updated : 2026-08-13
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私のせいじゃない

 翌日。 美月は藤崎へ電話を掛けていた。『朝倉さん、お変わりありませんか』「はい。体調は大丈夫です」 美月は少し迷ってから、昨日までに起きたことを説明した。 健診先で拓也と和江に待ち伏せされたこと。 その翌日には、蒼真の会社へ押しかけ、面会を断られたあと、会社の外で蒼真が出てくるのを待っていたこと。 藤崎は途中で口を挟まず、最後まで話を聞いた。『分かりました』『こちらでも記録しておきます』「お願いします」『朝倉さんも、何かございましたら日時や内容が分かるように残しておいてください』「はい」 通話を終え、美月はスマートフォンをテーブルへ置いた。 以前なら、こんなことが起きるたびに自分を責めていたかもしれない。 拓也を怒らせたから。 自分が家を出たから。 自分が離婚を望んだから。 けれど今は、少し違う。 拓也が何をするのかは、拓也自身が決めている。 それまで自分の責任だと思う必要はない。「……大丈夫」 小さく息を吐いた。 その時、スマートフォンが震えた。 一瞬、身体が強張る。 だが、画面に表示されていたのは店長の名前だった。「店長?」 美月はすぐに電話へ出る。「もしもし」『美月ちゃ~ん。元気ぃ?』 聞き慣れた明るい声に、美月の表情が緩んだ。「はい。元気です」『赤ちゃんも?』「順調だそうです。この前の健診で診てもらいました」『良かったぁ!』 店長の声が弾む。『それなら安心したわぁ』「店長もお元気ですか?」『もちろんよぉ。毎日働かされてるわぁ』「店長のお店じゃないですか」『あら、そうだったわねぇ』
last updateLast Updated : 2026-08-13
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知らない番号

 その日の午後。 美月はソファに座り、スマートフォンでベビー用品を眺めていた。 まだ買うには早いものも多い。 それでも、小さな肌着やおくるみを見ているだけで楽しかった。 その時、スマートフォンが震えた。「……?」 画面には、知らない番号が表示されている。 美月は少し迷った。 最近は拓也のこともある。 出ない方がいいかもしれない。 そう思っているうちに、着信は切れた。 ほっと息を吐く。 だが、数秒後。 再び同じ番号から電話が掛かってきた。「……誰だろう」 二度も続けて掛かってくると、何か急ぎの用事なのかとも思ってしまう。 病院。 役所。 あるいは、何かの手続きに関する連絡かもしれない。 美月は少し迷った末、通話ボタンを押した。「はい、朝倉です」『……美月』 聞こえてきた声に、全身が強張った。「拓也……?」『やっと出た』 美月は反射的に電話を切ろうとした。『待って!』 大きな声が耳元に響く。『切らないでくれ!』「もう連絡しないでください」 美月はそれだけ言うと、通話を切った。 心臓が速く打っている。 どうして知らない番号から。 考えるまでもなかった。 自分の番号から掛けても出ないから、別の電話を使ったのだろう。 すぐに同じ番号から再び着信が入る。 美月は出なかった。 一度。 二度。 三度。 着信が繰り返される。 美月はその番号を着信拒否に設定した。「……もう」
last updateLast Updated : 2026-08-14
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