All Chapters of 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました: Chapter 51 - Chapter 60

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もう戻れない場所

 美月は思わず足を止めた。「店長……! 何かあったんですか?」『さっき、また来たのよ』 電話の向こうから店長がため息をつく。『今度は昨日みたいに怒鳴ったりはしなかったんだけどね』「え……?」『「美月はいつ戻ってきますか」って、そればっかり聞いてきて』 美月は思わずスマートフォンを握りしめる。『もちろん知らないって答えたわよ。そしたら、「連絡があったら必ず教えてください」って言って帰ったんだけど……』 店長の声が少し低くなる。『あの人、諦めてないわ』 美月の背筋に冷たいものが走った。 やっぱり。 昨日ホテルまで来たのは、一時の感情ではなかったのだ。『それでね』 店長は少し間を置いて続ける。『しばらくお店のことは気にしなくていいから』「でも……」『でもじゃないの』 ぴしゃりと言われ、美月は言葉を飲み込む。『今は自分と赤ちゃんを守ることだけ考えなさい』 その言葉に、美月の目頭が熱くなる。「……すみません」『だから、謝らない』 店長は少し笑った。『あんたが元気になって戻ってきてくれたら、それでいいんだから』 美月は小さく頷く。「ありがとうございます」『何かあったら、いつでも連絡しなさい。遠慮したら怒るわよ』「はい」 電話が切れる。 しばらく画面を見つめていると、隣から蒼真が静かに声を掛けた。「店長さんですか」「はい……」 美月は電話の内容を簡単に伝えた。 拓也がまた店へ来たこと。 居場所を聞いて帰ったこと。 蒼真は最後まで
last updateLast Updated : 2026-07-22
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執拗な追跡

 ホテルへ戻ると、支配人がロビーで二人を待っていた。「九条様、お帰りなさいませ」「報告を」「承知いたしました」 支配人は周囲を確認すると、美月に一礼した。「朝倉様、お疲れでしょう。お部屋でお休みいただいて構いません」 美月は蒼真を見上げる。「私は……」「先に部屋へ戻っていてください」 蒼真は穏やかに言った。「終わり次第、お話しします」「……はい」 美月は小さく頷き、エレベーターへ向かった。 その姿を見届けると、支配人は蒼真を応接室へ案内する。 ドアが閉まると、一枚の資料を机へ置いた。「防犯カメラの映像を確認いたしました」 蒼真は黙って資料を手に取る。「朝倉様がホテルへ到着された日ですが、一台の黒い乗用車がホテルへ出入りする配送業者の車両を追走しておりました」「追走?」「はい」 支配人は映像を切り替える。 配送トラックが交差点を曲がる。 少し距離を空けて、黒い車も同じように曲がる。 信号で止まれば止まり、走り出せば走る。 偶然とは思えない動きだった。「ホテル付近でも確認されています」 配送車が従業員用搬入口へ入る。 黒い車は少し離れた場所で停車し、そのまま周囲をうかがうように数分間動かなかった。「その後、ホテル正面へ移動しています」 蒼真は映像から目を離さない。「運転手は」「ナンバーから所有者を確認いたしました」 支配人は静かに答えた。「車両の名義は、朝倉拓也様です」 部屋に沈黙が落ちる。 蒼真はゆっくりと資料を閉じた。「……やはりか」「偶然ホテルを見つけたわけではありませんでした」
last updateLast Updated : 2026-07-23
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あなたのせいじゃない

 蒼真は部屋の前で一度足を止めた。 軽くノックをすると、すぐにドアが開く。「お帰りなさい」 美月はほっとしたように微笑んだが、その表情は蒼真の様子を見てすぐに曇った。「……何か分かったんですね」「ああ」 蒼真は部屋へ入り、ソファを勧める。 二人が向かい合って腰を下ろすと、蒼真は静かに切り出した。「ホテルが知られた理由が判明しました」 美月の肩が小さく震える。「ご主人は偶然ここを見つけたわけではありません」「えっ……?」「配送業者の車を尾行していました」 一瞬、美月は言葉の意味を理解できなかった。「尾行……?」「ホテルへ出入りする車を追いかけ、この場所を突き止めたようです」 美月の顔から血の気が引いていく。「そんな……」 そこまでして、自分を探していたのだ。 ホテルへ来た日の怒鳴り声が頭の中によみがえる。 ――帰るぞ。 ――俺の妻だ。 知らず知らずのうちに、美月は両腕を抱き締めていた。「私……」 震える声が漏れる。「私がお店へ電話なんてしなければ……」「違います」 蒼真は間を置かずに否定した。 美月が顔を上げる。「あなたは悪くありません」「でも……」「逃げることは、悪いことではありません」 穏やかな口調だった。 だが、その言葉には迷いがなかった。「居場所を突き止めるために尾行をした人がいます。」 蒼真はまっすぐ美月を見る。「責任があるのは、その人です」 美月の目に涙が滲む。
last updateLast Updated : 2026-07-23
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見えない相手

 翌日。 ホテルの一室で、美月は弁護士から受け取った資料を読み返していた。 離婚までの流れ。 必要な書類。 これから準備しておくべきこと。 知らない言葉も多いが、一つずつ理解していこうとページをめくる。 もう逃げるだけでは終わらせない。 お腹の子と、自分の未来を守るために。 その決意が、少しずつ形になり始めていた。 コンコン、と控えめなノックが響く。「九条です」「どうぞ」 蒼真が部屋へ入る。「お加減はいかがですか」「はい。今日は落ち着いています」「それは良かった」 蒼真はテーブルの資料に目を向けた。「熱心ですね」「早く前に進みたくて……」 美月は照れくさそうに笑う。「分からないことだらけですけど」「焦る必要はありません」 蒼真は穏やかな声で言った。「分からないことは、その都度弁護士へ確認しましょう」「はい」 その言葉に、美月は安心したように頷いた。 すると、蒼真のスマートフォンが震える。「失礼します」 画面を見ると、弁護士からだった。「九条です」『昨日の件で、ご報告があります』「何か進展が?」『本日、ご主人宛てに受任通知を発送いたしました』「ありがとうございます」『先方から連絡が入り次第、ご報告いたします』「よろしくお願いします」 短いやり取りで通話は終わった。「弁護士さんですか?」「はい」 蒼真はスマートフォンをしまう。「今日、ご主人へ正式に受任通知を送ったそうです」 美月は思わず息をのむ。「もう……送ったんですね」「これで手続
last updateLast Updated : 2026-07-23
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受任通知

 夕方。 朝倉家の郵便受けに、一通の封筒が届いていた。 差出人は法律事務所。 帰宅した拓也は、何気なく封を切る。「……何だ?」 中から数枚の書類を取り出し、目を通した瞬間、その表情が一変した。「受任通知……?」 依頼人――朝倉美月。 離婚については今後、代理人を通じて協議すること。 美月本人へ直接連絡することは控えるよう求める旨が記されていた。「ふざけるな!」 拓也は書類をテーブルへ叩きつける。「美月が弁護士なんて……」 そんなことができるはずがない。 頭に浮かんだのは、ホテルで美月を庇った男だった。 あの男だ。 あいつが余計なことを吹き込んだに違いない。「離婚なんて認めるか……」 拓也は書類を握り潰す。「美月は俺の妻だ」 謝れば戻ってくる。 時間が経てば落ち着く。 そう思っていた。 だが、この通知は違う。 美月が本気で離婚しようとしている証拠だった。 拓也はスマートフォンを手に取る。 美月へ電話をかけようとして、指が止まった。 受任通知の一文が目に入る。 ――今後のご連絡は代理人を通していただきますようお願いいたします。「……くそっ」 舌打ちをして、電話を切る。 苛立ちは募るばかりだった。 その頃。 ホテルでは、美月が温かい紅茶を飲みながら、弁護士から預かった資料を読み返していた。 コンコン、とドアが鳴る。「九条です」「どうぞ」 蒼真が部屋へ入る。「失礼します」 その手にはスマートフォンがあった。「先ほど、弁護士から連絡がありました」 美月は思わず姿勢を正す。「受任通知は無事に届いたそうです」「そう……ですか」 いよいよ始まったのだ。 胸の奥が少しだけざわつく。「先方からの返答は、まだありません」 蒼真は落ち着いた口調で続ける。「今後は弁護士を通じて話し合いが進みます。不安なことがあれば、一人で抱え込まず相談してください」 美月は小さく頷いた。「はい」 怖くないと言えば嘘になる。 それでも、一人で立ち向かっているわけではない。 そう思うだけで、少しだけ勇気が湧いてくる。 一方その頃、拓也は受任通知をもう一度見つめていた。 その視線は、依頼人の名前ではなく、差出人である法律事務所の名前に注がれている。「弁護士、か……」 低く呟く。 やがて、ゆっくりと
last updateLast Updated : 2026-07-24
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交渉の窓口

 翌日の午前。 神田法律事務所では、一本の電話が鳴っていた。「お電話ありがとうございます。神田法律事務所です」 事務員が応対すると、受話器の向こうから苛立った声が響く。『朝倉拓也だ。担当の弁護士に代わってくれ』 ほどなくして担当弁護士が電話を引き継いだ。「お電話代わりました。藤崎です」『あんた、美月から依頼を受けたって本当か』「はい。現在、朝倉様の代理人を務めております」『あいつを返してください』 藤崎は一瞬、言葉を選んだ。「申し訳ありませんが、そのご要望にはお答えできません」『妻なんですよ! 夫婦の問題でしょう!』「現在は、依頼人の代理人として私が窓口となっております」 穏やかな口調は変わらない。『美月と直接話をさせてください』「その件につきましても、お受けできません」 短く、しかしはっきりとした返答だった。『……俺は話し合いたいだけなんです』「そのお気持ちは承りました。ご意見やご要望がございましたら、私がお伺いします」 受話器の向こうで、拓也が舌打ちする音が聞こえた。『あいつは騙されてるだけだ』 藤崎は否定も肯定もしない。「そのようなお考えも含め、今後は交渉の場でお聞かせください」 しばらく沈黙が続いたあと、電話は一方的に切れた。 藤崎は静かに受話器を置く。「……感情的になっているようですね」 短くメモを残し、次の予定へと向かった。    その頃。 ホテルでは、美月がソファに腰掛け、母子手帳を見つめていた。 まだ何も変わっていない。 それでも、お腹の子は少しずつ育っている。 そっと手を当てると、自然と笑みがこぼれた。
last updateLast Updated : 2026-07-24
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代理人として

 その日の午後。 神田法律事務所では、藤崎弁護士がデスクの書類に目を通していた。 その時、事務員が控えめにドアをノックする。「藤崎先生」「はい」「朝倉拓也様がお見えです」 藤崎は小さく頷いた。「応接室へご案内してください」 数分後。 向かい合うように座った拓也は、腕を組んだまま口を開いた。「美月はどこですか」 挨拶もない。 藤崎は動じることなく答える。「申し訳ありませんが、お答えできません」「俺は夫なんですよ」「承知しております」 穏やかな口調は変わらない。「ですが、ご依頼を受けた以上、依頼人に関する情報をお伝えすることはできません」 拓也は机に身を乗り出した。「夫婦の問題なんです。第三者が口を出すことじゃないでしょう」「現在は、依頼人の代理人として私が窓口を務めています」 藤崎は静かに言葉を続ける。「ご用件がございましたら、私がお伺いいたします」 拓也は苛立ちを隠さない。「俺は美月と話がしたいんです」「そのご希望は承りました」 藤崎は淡々と返す。「しかし、現時点で面会や直接のご連絡をお取り次ぎする予定はございません」 しばらく睨み合うような沈黙が流れた。 やがて拓也は鼻で笑う。「美月は騙されてるだけだ」 藤崎は表情を変えない。「そのようにお考えであれば、今後の協議の中でお聞かせください」 拓也は舌打ちをすると、勢いよく立ち上がった。「……分かりました」 そう言い残し、応接室を後にする。 ドアが閉まると、藤崎は小さく息を吐いた。「失礼します」 事務員がお茶を下げに入ってくる。「先生、大丈夫でしたか」「ええ
last updateLast Updated : 2026-07-24
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あなたは一人ではありません

 翌朝。 ホテルの部屋で、美月はテーブルいっぱいに書類を広げていた。 母子手帳。 通帳。 身分証明書。 そして、藤崎弁護士から渡された資料。 一つひとつ確認しながら、小さな付箋を貼っていく。 離婚の手続き。 出産の準備。 考えることは山ほどある。 それでも、今は目の前のことを一つずつ進めるしかない。 コンコン、と控えめなノックが響いた。「九条です」「どうぞ」 ドアが開き、蒼真が部屋へ入る。 テーブルに並んだ書類へ目を向けると、小さく頷いた。「順調そうですね」「あ……」 美月は少し照れくさそうに笑う。「藤崎先生が、書類は整理しておくと後で分かりやすいって教えてくださって」「いいことです」 蒼真は向かいの椅子へ腰を下ろした。 部屋には静かな時間が流れる。 書類を一枚めくった美月は、不意に手を止めた。「九条さん」「はい」「私……」 言葉を探すように俯く。「離婚したあと、一人でこの子を育てていけるのか、それが一番不安なんです」 誰にも言えなかった本音だった。 生活のこと。 仕事のこと。 お金のこと。 考え始めると、不安ばかりが膨らんでしまう。 蒼真は少しだけ美月を見つめ、静かに口を開いた。「大丈夫です」 美月が顔を上げる。「あなたは一人ではありません」 穏やかな声だった。 その短い言葉に、不思議と胸の力が抜けていく。「藤崎先生もいます」 そして、少しだけ間を置いて続けた。「私もいます」 それだけだった。 励ましの言葉を並べ
last updateLast Updated : 2026-07-24
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安心して過ごせる場所

 定期健診を終えた帰り道。 車の窓から流れる景色を眺めながら、美月はそっと息をついた。 赤ちゃんは順調。 それだけで胸がいっぱいになる。 けれど、その一方で気になっていることがあった。「あの……九条さん」「はい」「私、いつまでホテルにお世話になればいいんでしょうか」 蒼真が静かに視線を向ける。「ホテル代だって、とても高いですよね」「……」「これ以上、ご迷惑をお掛けするわけにはいきません」 蒼真は少しだけ考えるように沈黙した。 やがて、静かな声で言う。「……そうですね」 美月は思わず身構えた。「あなたが気になるのでしたら、サービスアパートメントを用意しましょう」「サービス……アパートメント?」 聞き慣れない言葉だった。(アパートメントっていうくらいだから……家具付きのお部屋、なのかな?) 首を傾げる美月に、蒼真は短く説明する。「家具がそろった部屋です」「しばらく誰も使う予定はありません」「ホテルより落ち着いて過ごせます」「でも……」 美月は慌てて首を振った。「そんなお部屋まで用意していただくなんて……」「気にしなくて構いません」「でも、私なんかのために——」 言いかけたところで、蒼真が静かに言葉を重ねた。「私が落ち着かないんです」「え……?」「ホテルは人の出入りがあります」「あなたには、もっと安心して過ごせる場所の方がいい」 その言葉に、美月の胸がじんわりと温かくなる。
last updateLast Updated : 2026-07-25
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九条社長

 自動ドアが静かに開く。 磨き上げられたロビーは、ホテルのように広く、美月は思わず周囲を見回した。(本当に住むところなの……?) そんなことを考えていると、一人の男性が足早に近づいてきた。 黒いスーツをきちんと着こなし、胸には管理人証が付いている。「お待ちしておりました」 男性は蒼真の前で立ち止まると、深々と頭を下げた。「九条社長、お帰りなさいませ」 その言葉に、美月の思考が止まった。「……え?」 社長。 今、この人は確かにそう言った。 美月はゆっくりと蒼真を見上げる。「しゃ、社長……?」 蒼真は表情一つ変えず、小さく頷いた。「部屋の準備は整っております」 管理人がそう報告すると、蒼真は「ありがとうございます」と短く返す。 そのやり取りはあまりにも自然だった。 まるで、日常の一場面のように。(社長って……会社の社長、だよね?) 頭の中が混乱する。 今までの蒼真を思い返してみれば、ホテルの手配も、弁護士への依頼も、何もかも手際が良すぎた。 それでも、美月は「仕事のできる人なんだな」としか思っていなかった。 まさか社長だなんて。「あの……九条さん」「はい」「社長さん、だったんですか?」 恐る恐る尋ねると、蒼真は少しだけ首を傾げた。「言っていませんでしたか」「き、聞いてません!」 思わず声が大きくなる。 管理人がくすりと笑いそうになり、慌てて表情を引き締めた。 蒼真は特に悪びれる様子もなく、「そうでしたか」とだけ答えた。(そうでしたか、じゃないよ……!
last updateLast Updated : 2026-07-25
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